育児・介護休業法(読み)いくじかいごきゅうぎょうほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「育児・介護休業法」の意味・わかりやすい解説

育児・介護休業法
いくじかいごきゅうぎょうほう

人口減少少子高齢化、核家族化などに対応し、仕事と育児、仕事と介護を両立できるように支援する法律。正式名称は「育児休業介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)。1991年(平成3)制定の育児休業法(正式名称「育児休業等に関する法律」)が1995年に大幅改正され、「育児休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」となり、さらに1999年に現名称に改題、育児休業制度とともに介護休業制度を柱とする現行法の骨格が成立した。その後、2001年(平成13)、2004年、2009年、2016年、2017年、2021年(令和3)などたびたび改正され、育児休業期間の延長、介護休業の取得回数緩和、企業の努力規定の義務化、出生時育児休業(男性版産休)制度の創設などが盛り込まれた。

 育児休業は、子供が1歳になるまで育児のために仕事を休める制度。両親ともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2か月になるまで取得可能。保育所への入所を希望しているのにできないなどの場合は、1歳6か月になるまで延長可能。さらに1歳6か月に達した時点で保育所に入れないなどの場合、再申請により最長2歳まで延長できる。また、育児休業は2回に分割して取得できる(2022年中に運用開始)。なお、女性は産後8週間の休業(産後休業)が労働基準法で認められており、育児休業はその終了後から取得できる。このため子が出生した日から育児休業できるのは、おもに配偶者の男性労働者である。ただ、男性の育児休業取得率は1割未満と女性の約8割に遠く及ばないばかりでなく、北欧諸国に比べ著しく低いため、出生時育児休業制度を創設する予定。子の出生後8週間以内に、最大4週間の育児休業を2回に分けて取得できるようになる(この結果、男性は通常の育児休業と出生時育児休業あわせて4回の分割取得が可能になる)。申請は通常の育児休業の場合の1か月前より短い2週間前でよいとし、労使の合意があれば出生時育児休業中に重要会議への出席など限定的就労も認めた。正社員以外のパートなど有期雇用労働者については、「雇用期間が1年以上」との要件を撤廃し、雇用期間に関係なく取得できる(2022年4月から運用開始)。

 休業中は雇用保険財源に原則1年間(条件付きで最長2年まで延長可能)、育児休業給付金として産前給与の50%(休業を開始して6か月間は67%)が給付される。3歳未満の子を養育する従業員は1日6時間の短時間勤務を選択できるほか、残業をしなくてすむ所定外労働時間の免除を受けられる。小学校就学前の子供を養育する従業員は、残業時間に上限を設ける法定時間外労働の制限のほか、病気の子の看護のための休暇や深夜就労制限の措置を受けられる。事業主には、子が生まれる従業員に育児休業制度を説明し、取得の働きかけを義務化(2022年4月~)。とくに大企業(従業員1000人超)には毎年、育児休業取得率の公表を義務づけた(2023年4月~)。また事業主には、フレックスタイム制度、時差出勤制度、事業所内保育施設の設置などの両立支援策を用意する努力義務がある。育児期の従業員の転勤には一定の配慮をする必要があり、育児休業を理由に解雇、昇進・昇格の差別配置転換、賃金引下げなど不利益な取扱いをしてはならない。

 介護休業制度では、家族1人が要介護状態に至るごとに通算93日まで3回を上限として分割して介護のために仕事を休むことができる。介護の対象は配偶者(事実婚を含む)、父母、祖父母、子、孫、兄弟姉妹、配偶者の父母である。このほか介護休暇制度(要介護の家族1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日まで、時間単位での取得も可能)がある。また、介護休業・介護休暇とは別に、事業主の選択的措置義務(短時間勤務、フレックス・タイム制度、時差出勤制度、介護サービス費用の助成)があり、介護休業等の利用開始から3年の間で2回以上いずれかを選択して措置を講じなければならない。その他、所定外労働の免除、時間外労働・深夜労働の制限、転勤への配慮、介護休業取得を理由とした解雇などの不利益な取扱いの禁止規定が育児休業に準じて設けられている。休業中は雇用保険を財源に、原則通算93日間、3回を限度として介護休業給付金(介護開始時賃金日額×支給日数×67%)が支給される。

 政府は育児・介護休業制度に違反した事業所名を公表するほか、虚偽報告をした事業所には過料を科す罰則規制も盛り込んだ。

 育児や家事が女性任せとなり、こうした負担が出産をためらい、少子化を招く大きな要因と指摘されてきた。このため政府は事業所内保育所の設置や、代替要員確保など、従業員の仕事と家庭の両立支援を行っている事業者に対して助成金(両立支援助成金)を支給する制度を設けている。また、企業には子が3歳になるまで育児休業が取得できるよう自主的な取組みを求めている。

[編集部 2021年11月17日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「育児・介護休業法」の意味・わかりやすい解説

育児・介護休業法【いくじかいごきゅうぎょうほう】

育児休業については,女性公務員の一部(教員,看護婦,保母)を対象とした育児休業法(1975年制定)があったが,一般的なものとして〈育児休業等に関する法律〉が1991年成立,1992年4月施行。〈育児休業法〉と略称。労働者は男女を問わず,子供が1歳になるまで育児のために休むことができる。労働者からの申し出があった場合,原則的に雇用主はこれを拒むことができず,またそれを理由に解雇してはならない。休業期間中は無給であり(ただし1994年以降は雇用保険より育児休業給付が行われるようになった),違反した場合の罰則規定がないこと,また原職復帰や不利益取扱い禁止の明文規定がないこと等が問題とされる。育児休業法は1995年〈育児・介護休業法〉に改称され(正称は〈育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律〉),介護休業制度が盛り込まれた。これは常時介護を必要とする家族をかかえる労働者(雇用期間1年以上)に,その申し出にもとづいて,要介護者1人につき1回に限って3ヵ月以内の休業を認めるもの。2005年4月より契約社員など有期雇用者も1年以上の勤務実績などの条件により休業が取得でき,また育児休業期間も事情により最長1年半まで延長できるなどの改正が施行された。2009年改正(2010年6月施行,一部2012年7月施行)では〈少子化対策の観点から喫緊の課題となっている仕事と子育ての両立支援等を一層進めるために,男女ともに子育て等をしながら働き続けることができる雇用環境を整備する〉として,(1)子育て期間中の働き方を見直し(2)父親も子育てができる働き方の実現(3)仕事と介護の両立支援(4)苦情処理・紛争解決の援助,調停の仕組みの創設などの実効性の確保,などについて具体的な規定を定めた。
→関連項目解雇女子労働母性保護労働基準法

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「育児・介護休業法」の意味・わかりやすい解説

育児・介護休業法
いくじ・かいごきゅうぎょうほう

平成3年法律76号。正式名称は「育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」。少子高齢化(→高齢化社会)により社会問題として深刻化した,仕事と育児・介護の両立を支援するための制度を定める。1991年「育児休業等に関する法律」(育児休業法)として成立,翌 1992年施行。従来,女性の看護師や教師などに限定されていた育児休業の制度を,男性を含めたすべての職種の労働者に拡大し,事業主には休業後の円滑な職場復帰の努力を求めた。1995年の改正で介護休業の制度を盛り込み,現名称に変更。育児・介護休業の取得だけでなく,休業の取得を理由とする解雇など不利益な取り扱いの禁止,労働者から請求があった場合の時間外労働・深夜労働の制限なども規定された。休業期間中の育児休業給付や介護休業給付の制度が雇用保険法に設けられている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

知恵蔵 「育児・介護休業法」の解説

育児・介護休業法

正式名は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」。1995年、育児休業法を大幅改正し成立。その後、仕事と家庭の両立支援対策を充実するために、2001年11月に大幅改正。更に02年4月には、事業主は、労働者が育児休業(1歳未満の子を養育するための休業)や介護休業の申し出をしたこと、又は育児休業や介護休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをすることが禁止された。介護休業とは2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする家族(配偶者のほか、父母および子、配偶者の父母などを含む)を介護するための休業(連続した3カ月以内の期間、対象家族1人につき一回が限度)。05年4月、育児・介護休業の対象労働者の拡大(一定の要件を満たす有期契約労働者)、育児休業期間の延長(子が1歳6カ月に達するまで)、介護休業の取得回数制限の緩和、子の看護休暇制度創設などを含む改正が行われ、施行された。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

ASCII.jpデジタル用語辞典 「育児・介護休業法」の解説

育児・介護休業法

労働者の仕事と育児や介護を両立できるように支援するための法律。民間事業主に対して、雇用した男女労働者から、育児や介護の申請があった場合、雇用関係を継続したまま、一定期間の休暇を与えることを認めるよう義務付けている。育児休業法は1992年4月から施行、1995年に「育児・介護休業法」に改正された。育児休業は、満1歳に満たない子を養育するために最高1年。介護休業は配偶者・父母・子・配偶者の父母などで、連続3カ月を限度に1人1回の介護休業が認められている。休業期間中は、休業前賃金の40%が雇用保険から支給される。

出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報

人材マネジメント用語集 「育児・介護休業法」の解説

育児・介護休業法

・「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年)は、育児又は家族の介護を行う労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるよう支援することによって、その福祉を増進するとともに、あわせて我が国の経済及び社会の発展に資することを目的として制定された。
・次世代育成支援を進めていく上でも大きな課題となっている育児や介護を行う労働者の仕事と家庭との両立をより一層推進するために、何度か改正を重ね、直近では平成17年4月1日に改正法が施行された。

出典 (株)アクティブアンドカンパニー人材マネジメント用語集について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android