肥厚性幽門狭窄症(読み)ひこうせいゆうもんきょうさくしょう

六訂版 家庭医学大全科 「肥厚性幽門狭窄症」の解説

肥厚性幽門狭窄症
ひこうせいゆうもんきょうさくしょう
Hypertrophic pyloric stenosis
(子どもの病気)

どんな病気か

 胃の出口にある幽門部の通過障害により、母乳などがその先の十二指腸へ流れなくなり、嘔吐(おうと)を繰り返す病気です。通常は生後2~3週で嘔吐が始まり、嘔吐は回数、量ともに次第に増加し、噴水状になります。日本では、出生1000人あたり1人程度で、乳児期に外科治療を受ける消化器の病気のなかでは、比較的多い病気のひとつです。

原因は何か

 幽門部にある筋肉が厚くなることが原因ですが、その理由は明らかではありません。男児女児の5倍多く、性の影響がある多因子遺伝(たいんしいでん)と推測されています。幽門部における一酸化窒素合成酵素の欠損などとの関連性が報告されています。(一酸化窒素には平滑筋(へいかつきん)をゆるめる作用があります。)

症状の現れ方

 出生直後でなく、生後2~3週してから哺乳後の嘔吐で発症します。飲むたびに嘔吐し、やがて噴水状になります。嘔吐した後は、再び哺乳をしたがります。嘔吐が続くと、脱水や体重増加不良を来します。また嘔吐により胃酸が体外にでるために血液がアルカリ性になります。黄疸(おうだん)を認めることがあります。

検査と診断

 出生後すぐではなく、生後2~3週ころに始まる嘔吐で、比較的ゆっくりと症状が悪化し、その他の発熱などの症状はないこと、嘔吐は大量で吐物胆汁が混ざっていないことなどから疑い、以下の検査で確定します。

①超音波検査 幽門部の筋層の厚さが4㎜以上、または長さが16㎜以上の場合に診断します。

②X線造影 ほとんどの場合、超音波検査で診断可能ですが、X線造影で特徴的な所見を示した場合に診断します。

治療の方法

 脱水や血液がアルカリ性になっている場合には、点滴などでまず補正を行います。次に外科手術を行います。胃の外側から幽門部の筋肉を縦に切って広げるラムステット手術が行われます。治療成績がよく、安全性も高い手術とされています。

 一部では幽門筋をゆるめる薬(硫酸アトロピン)を用いて、保存的な治療も試みられていますが、効果の確実性に乏しいようです。

病気に気づいたらどうする

 まずは近くの小児科を受診し、相談しましょう。近くに小児外科があれば、最初から受診しても構いません。

長崎 啓祐

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「肥厚性幽門狭窄症」の解説

肥厚性幽門狭窄症(先天性胃・十二指腸疾患)

(1)肥厚性幽門狭窄症(hypertrophic pyloric ste­nosis)
病態・病因
 生後に幽門の輪状筋が著しく肥厚し,胃から十二指腸への排泄が不良となった状態.以前は先天性と考えられていたが,現在では生後に起こる機能的な病態としてとらえられている.胃の神経節細胞の異常,筋の攣縮による二次的な肥厚,ガストリンなど消化管ホルモンの異常などが考えられているが,いまだその病因は明らかでない.
頻度
 出生500〜1000人に1人で,比較的頻度の高い疾患である.男女比は4〜5:1で男児に好発する.家族性が認められることから,多因子遺伝が推定されているが原因遺伝子は明らかでない.
臨床症状
 病歴や症状は典型的であり,生後2週頃より始まる非胆汁性の嘔吐が次第に増強し,ついには哺乳ごとに噴水状になる.患児は嘔吐後も空腹のためミルクを欲しがるが,哺乳後30分程度で全量嘔吐するようになる.嘔吐のため,脱水・体重減少が出現し,上腹部に拡張した胃の強い蠕動運動が透見されるようになる.
診断
 病歴の聴取により診断が明らかとなることが多い.肥厚した幽門筋を腹壁を通して腫瘤(オリーブ)状に触知することにより確定診断がつく.また,腹部超音波検査による診断が最も確実で,肥厚した幽門筋の厚さが4mm以上,幽門管の長さが15mm以上あれば肥厚性幽門狭窄症と診断できる(図8-4-1).胃の内容が幽門をこえて十二指腸内に進まないことや,胃蠕動の亢進なども陽性の所見としてとらえることができる.血液検査上は頻回の嘔吐により,脱水と低クロール性代謝性アルカローシスになっていることが多い.
治療
 治療は肥厚した幽門筋のみを切開することにより幽門部の通過障害改善させる,粘膜外筋層切開術(Ram­stedt手術)を行う.術前管理として脱水と電解質異常の補正を行う.近年,経静脈的に少量の硫酸アトロピンを哺乳にあわせて頻回投与することで,幽門筋の緊張を改善させる治療法が注目されている.しかしながら,入院期間が1週間以上と長くなることと,有効率が80%程度であることから,わが国以外ではあまり実施されていない.最近は外科手術による手術創の醜悪を軽減させるために,臍周囲を切開するようなさまざまな工夫がなされている.
予後
 粘膜外筋層切開術の術後成績はきわめて良好で,通常術後2〜3日で退院でき,その後の体重増加も良好である.症状の再発はまず認められない.[前田貢作]
■文献
Kimura K et al: Diamond-shaped anastomosis for duodenal atresia: an experience with 44 patients over 15 years. J Pediatr Surg, 21: 1133-1136, 1986.
日本小児外科学会学術・先進医療検討委員会:我が国の新生児外科の現況—2008年新生児外科全国集計—.日小外会誌,46: 101-114, 2010.
Tan KC, Bianchi A: Circumumbilical incision for pyloromyotomy. Br J Surg, 73: 399, 1986.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「肥厚性幽門狭窄症」の意味・わかりやすい解説

肥厚性幽門狭窄症
ひこうせいゆうもんきょうさくしょう

胃の出口である幽門部の筋肥厚によって狭窄がおこり、噴射状嘔吐(おうと)がみられるのが特徴で、体重減少をきたすようになる疾患。生後1か月前後の男児、第1子に発症することが多い。よく似た病気に、胃の入口である噴門部の逆流防止機構不全があるが、その嘔吐は溢乳(いつにゅう)であり、噴射状ではない。嘔吐は漸次頻回となり、ときに黒い血液を混入する。吐物は胆汁を含まず、ミルクまたは胃液である。そのため、患児の体液はアルカリ性に傾いてくる。嘔吐後も食欲は侵されず、ミルクをよく欲しがる。重症となれば、脱水と栄養失調で死亡する。診断は、特徴的な嘔吐と腹部にオリーブ様腫瘤(しゅりゅう)が触れることでほぼ確定できる。

 治療はけっして急ぐ必要はない。手術前に脱水、電解質異常、貧血や低タンパク血症を十分に改善してから手術するのが安全である。専門の小児外科医にとっては簡単な手術であり、肥厚した幽門筋の切開だけで治療の目的は達せられる。

[戸谷拓二]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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