肢体不自由児(読み)したいふじゆうじ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「肢体不自由児」の意味・わかりやすい解説

肢体不自由児
したいふじゆうじ

原因のいかんを問わず、肢体、すなわち上下肢および体幹(胴体と頸部(けいぶ))に一定の基準以上の運動機能障害が持続的にある児童をいう。昭和初期に、東京帝国大学教授で整形外科医であった高木憲次(けんじ)(1888―1963)が提唱した名称に由来する。

[中村強士 2017年9月19日]

障害の程度と分類

肢体不自由は、以下のように分類されている。

(1)身体障害者福祉法施行規則(1950)別表第5号「身体障害者障害程度等級表」では、肢体不自由について、「上肢」「下肢」「体幹」「乳幼児以前の非進行性の脳病変による運動機能障害(上肢機能・移動機能)」の項目に分け、それぞれ重症の1級から軽症の7級まで、障害の程度により分類している。これらの等級にあてはまる者は、医師により判定されて身体障害者手帳を交付される。行政的には、本手帳の交付を受けなければ「肢体不自由児・者」とよばれない。

(2)学校教育法施行令(1953)第22条の3に規定された就学基準「肢体不自由者の障がい程度」では、(a)「肢体不自由の状態が補装具の使用によっても歩行、筆記等日常生活における基本的な動作が不可能又は困難な程度のもの」、(b)「肢体不自由の状態が前号に掲げる程度に達しないもののうち、常時の医学的観察指導を必要とする程度のもの」に分類されている。

(3)原因疾患別の分類 肢体不自由を引き起こす疾患は多種多様であるが、おおむね以下のように分けられる。

(a)脳性疾患(脳性麻痺(まひ)、水頭症、脳外傷性後遺症など)
(b)筋原性疾患(進行性筋ジストロフィー、重症筋無力症など)
(c)脊椎(せきつい)・脊髄(せきずい)疾患(脊椎側彎(そくわん)症、二分脊椎、脊髄損傷など)
(d)骨関節疾患(関節リウマチ、先天性内反足、ペルテス病、先天性股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)など)
(e)骨系統疾患(骨形成不全症、軟骨無形成症など)
(f)代謝性疾患(ビタミンD欠乏症、ムコ多糖症など)
(g)四肢の変形等(あざらし肢症、下肢切断など)
(h)弛緩(しかん)性麻痺(脊髄性小児麻痺、分娩(ぶんべん)麻痺など)
肢体不自由の原因疾患は、医学の進歩や社会状況によって変化し、その出現率も異なっている。以前は肢体不自由の原因疾患として、ポリオ、結核性骨関節疾患、先天性股関節脱臼の割合が高かったが、ワクチン・抗生物質の普及や早期発見・治療によって激減した。2006年(平成18)の厚生労働省の実態調査では、全国の肢体不自由児は5万0100人であり、身体障害児全体の53.8%となっている。また、原因疾患のうちもっとも多いのは脳性麻痺で47.5%を占めている。

[中村強士 2017年9月19日]

福祉と教育

肢体不自由児に関する重要な機関のうち、療育指定保健所では、専門医による定期的な療育相談および指導により、早期発見、早期治療が行われるよう指導されており、児童相談所では、医師、心理判定員などの専門家が判定を行い、肢体不自由児施設への入所措置や、肢体不自由児通園施設への紹介などが行われている。また、福祉事務所では、補装具の交付、日常生活用具の給付に関する相談および申請などを受け付けているほか、市区町村では、重度の障害者に対しては特別児童扶養手当、障害児福祉手当、児童育成手当など、各種手当の支給などが行われている。

 1970年代以降、肢体不自由者を中心とする身体障害者たちの目覚ましい自立生活運動が内外で展開されてきた。これに伴い、肢体不自由児の地域における生活においても、その自立生活を目ざしたさまざまな公私の自立支援活動が行われている。肢体不自由児の早期発見、適切な療育のためには、医療のほかに理学療法、作業療法、言語治療などの機能訓練が不可欠である。また、日本の肢体不自由児教育は、1979年度(昭和54)から養護学校義務制が実施されたが、地域の学校での統合教育の実践も行われている。しかし、障害児をめぐる教育は、国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))傘下の多くの国々において、インテグレーションintegration(統合教育)からインクルージョンinclusion(包み込み教育)へとより徹底した統合教育の方向に進んでおり、「特別なニーズ教育」が主張・実践されている。したがって肢体不自由児の教育のあり方も、ほかの障害をもつ子供や普通児の教育のあり方とともに、改めてノーマライゼーションnormalization(高齢者や障害者であることを特別視し、差別したり、隔離したりすることなく、現実のノルムnorm=規範を変えつつ、対等な人間としてともに生きる社会の実現を目ざす福祉の理念)や自立生活運動との関係で真剣に問われなければならないであろう。

[渡邊益男 2017年9月19日]

『曻地勝人・池田勝昭編『肢体不自由児の心理と指導』(1981・福村出版)』『橋本重治著『肢体不自由児の心理と教育』(1983・金子書房)』『村田茂著『障害児と教育その心――肢体不自由教育を考える』(1994・慶応通信)』『村田茂著『日本の肢体不自由教育――その歴史的発展と展望』新版(1997・慶応義塾大学出版会)』『日本肢体不自由教育研究会監修『肢体不自由教育の基本とその展開』(2007・慶應義塾大学出版会)』『篠田達明監修、沖高司・岡川敏郎・土橋圭子編『肢体不自由児の医療・療育・教育』改訂2版(2009・金芳堂)』

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精選版 日本国語大辞典 「肢体不自由児」の意味・読み・例文・類語

したいふじゆう‐じ シタイフジイウ‥【肢体不自由児】

〘名〙 手足の不自由な子ども。脳性麻痺やあざらし肢症など中枢神経系の障害または骨・関節・筋肉の病気や異常によって、四肢および体幹の運動機能に持続的な障害のある児童。専門的な治療や教育をするための施設や養護学校、特殊学級がある。

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デジタル大辞泉 「肢体不自由児」の意味・読み・例文・類語

したいふじゆう‐じ〔シタイフジイウ‐〕【肢体不自由児】

肢体の機能に障害があるため、教育上特別の配慮を要する児童。

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