聾
ろう
deafness
現在の医学用語では、聴力が悪い状態を難聴(なんちょう)といい、聴力が非常に悪くなった状態、換言すればきわめて高度の難聴を聾という。その難聴の程度については、平均聴力レベルが90デシベル以上の難聴を聾ということが多いが、まだ完全に統一された見解ではない。一方、聾教育界では難聴と同意義に使用しており、たとえば軽度の聾とか高度の聾といったり、その種類を伝音性聾とか感音性聾といったりする。その反面、聾学校では高度の難聴をもつ生徒のみを対象としている。このような混乱は、英語のdeafという語の訳に原因がある。欧米でもdeafは日本の医学界でいう難聴の場合と、聾の場合とがある。最近ではdeafを重症の難聴のみに使うべきであるという人が欧米の医学界にもいる。聾にしてもdeafにしても、近代医学が発展する以前から一般の人が使用していたことばであり、それをそのまま医学あるいは教育学で特定の定義をして採用しようとしたところに混乱の原因がある。
聾ということばは非常に古くから使用されてきた漢語であり、耳が聞こえない状態をいう語である。その聞こえないということの解釈の差が見解の差になってくる。実際に完全に聞こえないということはないといってもよいほどまれであり、非常に聞こえが悪い人でも、ある周波数の非常に強い音は感知でき、これを残聴という。言語習得前に高度の難聴となった者は、特別の言語訓練を受けなければ、ことばを話せない唖(あ)の状態になる。
[河村正三]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
つんぼ【聾】
〘名〙
① 耳の聞こえないこと。また、その人。みみしい。ろう。つん。つんぼう。〔羅葡日辞書(1595)〕
※
浄瑠璃・仏御前扇車(1722)一「何を云ふても馬の耳、吹くきせるさへつんぼなり」
[
補注]「つんぼ」という語、および「つんぼ」に関わる語は、
聴覚障害者への蔑視観が強く、現代では障害者差別の語とされている。
ろう‐・する【聾】
[1] 〘自サ変〙 ろう・す 〘自サ変〙 耳が聞こえなくなる。聴覚を失う。
※史記抄(1477)一四「耳の聾したり目のつぶれたり痺のしびるる病やなんどの医をするぞ」
[2] 〘他サ変〙 ろう・す 〘他サ変〙 耳を聞こえなくする。
※西洋道中膝栗毛(1874‐76)〈総生寛〉一四「往来の繁雑肩摩轂撃眼を眩し耳を聾(ロウ)し」
ろう【聾】
〘名〙 耳が聞こえないこと。聴覚の感度が極度に低下しているか、または、完全に失われていること。後天性のもの、先天性のもののほか、原因不明のものも多い。教育関係の規定では、平均聴力が九〇デシベル以上の難聴をいうことが多く、
補聴器をしてもなお音を解することが困難な程度とされている。〔
春秋左伝‐僖公二四年〕
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「聾」の意味・読み・例文・類語
みみ‐しい〔‐しひ〕【×聾/耳×癈】
耳が聞こえないこと。
「我を―にせんとする如し」〈鴎外訳・即興詩人〉
つんぼ【×聾】
ろう【×聾】
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世界大百科事典内の聾の言及
【聾啞】より
…聾啞は今日あまり用いられない言葉ではあるが,いわゆる高度難聴を聾といい,生まれつき,または生後3歳以内に高度の難聴になったために,言語学習ができなくて発語のできない状態を聾啞という。歴史的には〈みみしい〉,俗語としては〈つんぼ〉という言葉が使われた。…
【聾啞】より
…聾啞は今日あまり用いられない言葉ではあるが,いわゆる高度難聴を聾といい,生まれつき,または生後3歳以内に高度の難聴になったために,言語学習ができなくて発語のできない状態を聾啞という。歴史的には〈みみしい〉,俗語としては〈つんぼ〉という言葉が使われた。…
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出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報