ひ‐じり【聖】
〘名〙
① 徳が高く神のような人。
知徳がすぐれ、世の模範と仰がれるような人。
聖人。
※徒然草(1331頃)一二二「人の才能は、文あきらかにして、聖の教を知れるを第一とす」
※書紀(720)大化二年八月(北野本訓)「最霊之間に聖、人主(きみ)為(た)り。見を以て聖主(ヒシリ)の天皇、天に則(のと)りて」
※書紀(720)雄略二二年七月(前田本訓)「浦島の子〈略〉蓬莱山(とこよのくに)に到りて仙衆(ヒシリ)を歴(めく)り覩(み)る」
④ その分野で、ぬきんでてすぐれている人。その道で卓越した人。達人。
※古今(905‐914)仮名序「柿本人麿なむ、歌のひじりなりける」
⑤ 徳をつんだ僧。高徳の僧。聖僧。大徳。
※宇津保(970‐999頃)蔵開中「このみうしろでの広ごりかかるに見つきてこそは、われはひじりになりにたれ」
⑥ 一般に僧侶の敬称。出家。法師。
※枕(10C終)三三「その事するひじりとものがたりし」
⑦
寺院にはいらず、私的に修行している
隠遁僧。また、修験集団などに属し、修行して験力を得た僧。行者。修験者。
※源氏(1001‐14頃)蓬生「同じき法師といふ中にもたつきなく、この世を離れたるひしりにものし給ひて」
⑧ 諸国をめぐって
勧進したり、乞食
(こつじき)をしたりして修行する僧。また、特に
高野聖やそれの転じた時宗の遊行聖
(ゆぎょうひじり)のこと。ひじりかた。
※金刀比羅本保元(1220頃か)下「紀伊守範道と云者、道心を発(おこし)出家遁世して蓮誉と名乗、諸国一見の聖(ヒジリ)と成たりけるが」
⑨ (中国で酒を禁じられた時、清酒を「聖人」と称した故事による) 清酒の異称。
※万葉(8C後)三・三三九「酒の名を聖(ひじり)と負せし古の大き聖の言のよろしさ」
⑩
呉服行商人のこと。その姿が笈
(おい)を背負った高野聖に似ていたところからいう。ひじりかた。〔随筆・嬉遊笑覧(1830)〕
せい【聖】
〘名〙
① 知徳の最もすぐれて、万世の師表となること。また、その人。ひじり。
※正法眼蔵(1231‐53)山水経「しるべし、山は賢をこのむ実あり、聖をこのむ実あり。帝者おほく山に幸して賢人を拝し、大聖を拝問するは、古今の勝躅(しょうちょく)なり」 〔書経‐大禹謨〕
② (形動) 清浄、尊厳でおかしたり、けがしたりし難いこと。また、そのさま。神聖。
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋「無数の其の星屑は、一つ一つ聖なる活きた光を胸に沁ませて」
③ (sanctus saint の訳語) ローマ‐カトリック教会から列聖された者(聖人)の名に冠する語。また、プロテスタントでは聖者号はないが、聖書中の主な人々を聖ペテロ、聖パウロなどと呼ぶ。
※洋楽手引(1910)〈前田久八〉音楽の発達「聖(セイ)ヨハネの歌の中の」
④ 清酒の異称。濁酒を「賢」というのに対する。
※洒落本・蕩子筌枉解(1770)羅相作「聖
(セイ)とはまんぐゎんじすみだ諸白の類」 〔
杜甫‐飲中八仙歌〕
しょう シャウ【聖】
〘名〙 (「しょう」は「聖」の
呉音) 学識や人格がひじょうにすぐれていること。けがれなく、清らかであること。また、その人。ひじり。聖人。
※往生要集(984‐985)大文一〇「垂二捨レ凡入一レ聖之時、此位中有二一類之人一、聞レ法甚難」
ひじ・る【聖】
〘自ラ四〙 (「ひじり(聖)」の動詞化) ひじりのようになる。ひじりらしくふるまう。また、僧になる。
※貞享版沙石集(1283)四「父に似て聖るべからず」
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聖
ひじり
「日知り」といわれるように天皇をさす。また「ひじりを立てる」というように,容易ならざる堅固な道心を要する語。聖人,上人ともいった。仏教では高僧の呼称でもあるが,また一般民間の僧のこともいった。初期には苦行的性格が強く,持経者的,呪験者的なものをはじめ,慈善救済,勧進,遊行説経,隠遁,起塔造像写経,霊地霊寺巡歴,肉食妻帯,念仏者など,また呉服を背負って行商する者など,1つの概念では包みきれない多様なものを意味したのが特徴。民衆に仏教を説いた空也をはじめ,東大寺勧進の重源,新義真言宗を開いた覚鑁 (ばん) ,関白九条兼実の祈祷師仏厳,専修念仏を唱えた法然らも聖であった。とにかく仏教を民衆のものにした功績は高く評価されている。
聖
せい
holiness
宗教の基本的概念の一つ。第一義的には神または絶対者,もしくはそれに類する神格の本質的属性であり,消極的には一切の不完全やけがれ,特に倫理的欠陥,罪の欠如をさし,積極的にはほかのいかなるものをもこえたその絶対性,特に万物の規範としてのその完全性をさす。このような超絶性は,人間に戦慄感と同時に深い魅力をも生じさせる。神以外の人間や事物も,この第一義的聖との関連において聖といわれる。
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デジタル大辞泉
「聖」の意味・読み・例文・類語
ひ‐じり【▽聖】
1 世の模範と仰がれる、知徳の高い人。聖人。
2 その道で特に技量にすぐれ、模範とされる人。「歌の聖」
3 高徳の僧。また一般に、僧に対する敬称。
4 寺院に所属せず、山中などにこもって修行する僧。行者。修験者。
5 諸国をめぐって勧進・乞食などをして修行する僧。高野聖・遊行聖などのこと。
6 天皇を敬っていう語。
「橿原の―の御代ゆ生れましし神のことごと」〈万・二九〉
7 《中国で清酒を「聖人」と称した故事から》清酒の異称。
「酒の名を―と負せし古の大き聖の言のよろしさ」〈万・三三九〉
[類語]名僧・高僧・聖人・生き仏・聖者・聖女・聖賢・聖哲・四聖・君子・仁者・生き神
せい【聖】
[名・形動]
1 神聖でおかすことのできないこと。清らかで尊いこと。また、そのさま。「聖なる神」「聖なる川」
2 知徳がきわめてすぐれ、理想的であること。また、その人。ひじり。
3 (濁酒を賢とするのに対して)清酒。
4 《saint》キリスト教で、聖者の名に冠する語。セント。「聖パウロ」
[類語]神聖・神神しい
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聖【ひじり】
仏教で学徳すぐれた僧に対する美称。元来,高徳の人,聖人,天文暦数に長じた人を呼んだ。のち,大寺院に属さぬ僧や官職につかぬ高僧のこと。また諸方に遊行(ゆぎょう)して仏法を布教する僧を市聖(いちのひじり),阿弥陀聖などと呼んだ。→高野聖
→関連項目聖人|渡辺津
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聖
ひじり
平安中期以後,正規の寺院から離れ,隠遁修行し民衆教化につとめた僧侶
上人ともいう。貴族化した天台・真言の寺院を離れ,浄土信仰のため「別所」と称する仏堂で念仏した僧侶たちをいった。また山林で修行し法験をつんだ山伏や,遊行した乞食僧もさした。
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聖
京都府京都市、聖護院八ッ橋総本店が製造・販売する和菓子。京都銘菓の八ツ橋の生地で粒餡を挟んだ生八ッ橋のひとつ。
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ひじり【聖】
知徳のすぐれた天子,神通力をえた仙人,学徳の秀でた僧,物ごとを極めた達人などに対する尊称。とくに平安時代以降,僧位僧官につかず,世を捨て仏道にはげんだ隠遁求道の僧,祈禱・予言・卜占・死者の葬祭にあたった民間仏教者を指す。ひじりは漢字〈聖〉の和訓であるが,その語源は〈日知り〉または〈火治り〉とされる。日のように天下のことを知る人,天文暦数に通じ日の吉凶を知る人,神聖な火を管理する人などの意である。火は霊魂のシンボルであるから,霊魂のことをつかさどる宗教者を指しているとみてよい。
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世界大百科事典内の聖の言及
【隠者】より
…これとは別に,国家の統制下にある宗教教団の外にあって活動する民間宗教家がいた。彼らは聖(ひじり),仙,行者などと呼ばれた。聖はもともと神秘的な霊力をもつと見られており,10世紀ころから浄土教の発展にともない,念仏聖が注目されるようになった。…
【高野聖】より
…高野山を中心にして,全国に活躍した勧進聖。聖は古代宗教家の総名であったが,奈良時代から民間僧を指すとともに,半僧半俗の私度僧を指すようになった。…
【持経者】より
…読誦する経のほとんどが《法華経》であるから,持経者という場合,《法華経》を受持読誦する僧を指した。持経者はときに聖(ひじり)ともいわれるように,おおよそ平安時代中期以降に社会的概念にまでなった聖のなかで,とりわけ《法華経》を読誦する聖が持経者とよばれた。《大日本法華経験記》はこうした持経者の略伝と法華経霊験譚を集めている。…
【慈善事業】より
…社会福祉【古川 孝順】
〔慈善事業の歴史〕
【日本】
[古代]
古代における慈善事業を概観すると,まず僧尼・皇族・貴族・地方官吏・豪族など個人による慈善救済活動がある。この面では,聖徳太子の四天王寺の施薬院など四院の設置ほかの事績が想起されるが,伝説的要素が強く確かなことは不明である。その点,詳細な史料の残る奈良時代の僧行基の活動は質量ともに特筆でき,後世の慈善事業に与えた影響も大きい。…
【上人】より
…この上人号は,後世,僧官制が乱れるとともに,諸宗や民間で転用かつ私用されるようになった。平安中期から本寺を離れて別所に隠遁したり,回国遊行して修行,作善勧進する僧が現れ,彼らを上人,聖人,聖(ひじり)などとよぶことが一般化した。上人号をもって世人から敬慕された最初は空也といわれる(《諸門跡譜》《和訓栞》)。…
【聖人】より
…聖者(しようじや),聖(ひじり)ともいう。悟りをえた人。…
【聖人】より
…一般に知識や徳が衆にすぐれ,範と仰がれるような人物,および修行を積んだ偉大な信仰者をさす語。特に後者は〈聖者〉とも称され,しばしば世俗の穢れを超越し,神のように清浄でいかなる誘惑にも屈せぬ心,不思議な奇跡を行う超能力などを備えた人をさすことが多い。このような崇高な人格と能力に到達するには,激しい禁欲的修行によって,肉体的・精神的修練を通過しなければならないとする観念が古くからあった。…
【僧】より
…習禅をもっぱらとする者)などの別があった。また,修行向上の度合に応じて凡夫と聖人(しようにん)に分けられる。聖人位はさらに阿羅漢を最高位とする四向四果の八位に分けられる。…
【杖】より
…【岩倉 博光】
[民俗]
神功(じんぐう)皇后が新羅(しらぎ)の国主の門に杖をつきたてたと《古事記》にあるのは,杖が占有権を表示するものであったことを示している。このため杖は境界を限る牓示(ぼうじ)としての役割を果たし,とくに俗界と聖界の境を示す場合,忌杖(いみづえ)と呼ばれている。また杖立(つえたて),杖突(つえつき)などの地名にまつわる伝説もこれと関連することが多い。…
【てるてる坊主(照々坊主)】より
…茨城・福島両県では,〈ころり道心〉の名称でよばれ,日乞い,雨乞いのときに使われていた。人形は悪霊をこめて追い出すために用いられたのであるが,坊主頭の形をとるのは,天気祭の司祭者が,旅の僧の聖(ひじり)や修験者であったことを示唆している。かつて日知り=聖の機能に天候の予知と,良い天気を維持する役割が課せられていたことを推測させる。…
【民謡】より
…この柳田分類に対して,折口信夫は,柳田のいう民謡を(1)童謡,(2)季節謡,(3)労働謡に分類する以外に,(4)芸謡の存在を挙げている。芸謡は芸人歌のことで,日本では各時代を通じて祝(ほかい)びと,聖(ひじり),山伏,座頭(ざとう),瞽女(ごぜ),遊女などのように,定まった舞台をもたず,漂泊の生活の中で民衆と接触しつつ技芸を各地に散布した人々があり,この種の遊芸者の活躍で華やかな歌が各地に咲き,また土地の素朴な労働の歌が洗練された三味線歌に変化することもあった。瞽女歌から出た《八木節》,船歌から座敷歌化した《木更津甚句》などがその例である。…
※「聖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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