耐熱鋼(読み)タイネツコウ(英語表記)heat resisting steel

デジタル大辞泉 「耐熱鋼」の意味・読み・例文・類語

たいねつ‐こう〔‐カウ〕【耐熱鋼】

高温度で用いても変形腐食が起きない合金鋼通常の鋼はセ氏400度以上に加熱すると強度が弱くなり、変形しやすくなるが、耐熱鋼はおおむね500度から800度でも十分な強度を保つ。モリブデン鋼クロムモリブデン鋼などが知られる。

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改訂新版 世界大百科事典 「耐熱鋼」の意味・わかりやすい解説

耐熱鋼 (たいねつこう)
heat resisting steel

大気中および高温における耐酸化性と,500~800℃におけるある程度の強度をもつように設計・製造された鋼。耐熱鋼はその主たる組織によって,フェライト系とオーステナイト系に分けられる。フェライト系耐熱鋼クロム・モリブデン鋼から発展したものである。2.5%程度のクロムを含むクロム・モリブデン鋼は焼入れした後の焼戻しにおいて軟化しにくく,また400℃前後である程度の耐酸化性を有している。そこで,使用中に温度が上昇するような機械構造用部品のうち,過熱度の低い水蒸気ボイラー用のチューブとして使用されるようになった。蒸気タービンの効率は水蒸気の温度を上げることによって改善されるので,ボイラーの熱効率改善のため,より高温で耐酸化性と耐荷重性に優れた材料が求められた。そのために開発されたのが11~13%のクロムを含むフェライト系耐熱鋼である。なお,モリブデン,タングステンニオブバナジウムチタンなどの炭化物形成元素の添加が耐熱性の向上に有効であることが明らかにされた。強度は長時間のクリープ破断強度によって評価されるが,クリープ強度は分散した微細な炭化物による分散硬化と,炭化物が加熱中に凝集して粗大化しにくいようにすることによって改善されることも明らかとなった。また,クロムをはじめとして添加元素は主としてフェライト安定化元素であることが望ましく,ニッケルなどのフェライトからオーステナイトへの変態温度を低下させるような元素は好ましくないと考えられている。耐酸化性は酸化クロムが表面に生成して緻密(ちみつ)な酸化皮膜を形成することによって達成されるが,使用温度でこのスケールと呼ばれる酸化皮膜が軟化したり亀裂を生じたり剝離(はくり)しないことが必要である。フェライト系耐熱鋼はクロム・モリブデン鋼や高クロム鋼が主として使用されているが,炭化物の代りに金属間化合物の析出分散硬化による高温強度を期待した鉄アルミニウム合金なども検討,開発されている。フェライト系耐熱鋼の1000時間で16kgf/mm2クリープ破断強度が保証される最高使用温度は650℃前後である。700℃以上の高温ではオーステナイト系耐熱鋼を使用しなければならない。

 オーステナイト系耐熱鋼は18-8オーステナイト系ステンレス鋼や15-5ステンレス鋼を基本成分系として開発されたものである。耐酸化性は,ニッケルが添加されているためにスケールの密着性がよく,またスケールの成長速度が遅いために,フェライト系耐熱鋼より一段と改善されている。一般に高温強度は材料中を原子が拡散しにくいほど高くなる。オーステナイト中では原子の拡散はフェライト中よりも格段に遅く,700℃前後ではオーステナイト中の原子の拡散速度はフェライト中の1/40程度といわれている。したがって,オーステナイトの組織となると基本的な高温強度が改善されるのである。フェライト系耐熱鋼では強度を維持するのは分散した微細炭化物が結晶の変形を妨げたり,変形による硬化を保存したりしているのであるが,この炭化物の主成分の炭素はフェライト中を他の合金元素よりさらに速く拡散移動することができる。つまり,他の合金元素は互いに空孔を媒介にして位置を交換して移動するのに対し,炭素は元素の配列のすき間をぬって移動できるのである。そこで,炭化物がフェライト中で安定構造を保つ温度にも限度があることになる。オーステナイト系耐熱鋼ではフェライト系耐熱鋼より約100℃高い温度でも同程度の高温強度を示す。

 オーステナイト系耐熱鋼のおもな合金元素としてはモリブデン,タングステン,チタンなどの炭化物形成元素,炭化物と併せてホウ化物を析出分散させる目的で0.15%程度のホウ素,ニッケルと金属間化合物を形成させ析出分散させる目的で2%程度のチタンなどがある。耐熱鋼に限らず,耐熱材料は,使用温度で表面層が安定かつ酸化の進行が防止されること,地の構造中を合金元素が拡散しにくいこと,安定な硬い第2相が微細分散析出することによって,高温における耐酸化性と強度とを獲得する。なおステンレス鋼は耐食性と同時に耐熱性を兼ね備えた合金である。
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化学辞典 第2版 「耐熱鋼」の解説

耐熱鋼
タイネツコウ
heat resisting steel

約400 ℃ 以上の高温度で使用するために,用途に応じて十分な耐食性と強度のいずれか一方または両方を有するようにつくられた一連の合金鋼.普通の鋼は,400 ℃ 以上に加熱されると強度が減少し,とくに一定の力を受けているだけでも時々刻々に変形が進行するクリープという現象が起こりやすくなり,また,酸化,そのほかの腐食現象もいちじるしくなる.耐熱鋼は,その使用温度や応力状態,雰囲気などに応じて,Cr,Mo,Ni,Alなどの合金元素を添加し,上記のような欠点を改良したもので,概して高温ほど合金元素量の多いものが用いられ,普通,その組織からフェライト(α)系とオーステナイト(γ)系とに分けられる.たとえば,火力発電用ボイラー管には,2.25質量% Cr-1質量% Mo鋼(α系)や18質量% Cr-8質量% Ni鋼(γ系)など,また蒸気タービンには,12質量% Cr鋼にMo,W,Nbなどを少量加えたもの(α系)などが,いずれも500~600 ℃ で10年以上の連続使用に耐えるものとして賞用されている.ガスタービンの部品,自動車エンジンの排気弁や加熱炉の部品などには,さらに高級なγ系耐熱鋼が用いられ,石油化学工業のリフォーマー管やクラッキング管には,0.4質量% C-25質量% Cr-20質量% Ni鋼などの耐熱鋼の遠心鋳造管が,1000 ℃ 近くの高温で数万時間の使用に供されている.[別用語参照]耐熱合金

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「耐熱鋼」の意味・わかりやすい解説

耐熱鋼【たいねつこう】

高温で強さを失わずまた耐食性にすぐれた鋼。クロム11〜13%およびモリブデンバナジウムなど少量を加えたフェライト系耐熱鋼,クロム15〜20%,ニッケル10〜25%およびモリブデンなどの少量を加えたオーステナイト系耐熱鋼に大別され,700℃以上の高温に対しては後者が用いられる。
→関連項目耐熱合金

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「耐熱鋼」の意味・わかりやすい解説

耐熱鋼
たいねつこう
heat-resistant(refractory) steel

高温でも機械的性質が安定し,耐食性などのよい鋼。炭素鋼は融点は高いが 500℃で急に強度が落ち,高温耐食性も悪いので,高温強度と高温耐食性保持のためニッケル Ni,モリブデン Mo,バナジウムV,チタン Ti,ニオブ Nb,タングステンW,および耐食成分クロム Cr,ケイ素 Siなどを添加した合金鋼。 500℃までは5 Cr,0.5Mo (以下数字は%) の鋼,650℃までは 13 Crおよび 18Cr-8Niのステンレス鋼などが使えるが,700℃になると Cr15~20,Ni15~30,Mo1~6にW,Nb,Tiを加えた特殊ステンレス鋼が必要で,これにはハイネス 88,ティムケン 16-25-6 (Cr-Ni-Mo) など種類が多い。これに Co20~30を加え,Mo,Wを増量した Co-Ni-Cr-Fe合金 (Fe15~25) は 750~800℃まで使用に耐える。これもリフラクタロイその他種類と名称が多い。用途により高温での耐クリープ,耐摩耗,耐食など要求が異なり,成分の寄与の仕方も複雑なので,温度耐性だけで性能は論じられないが,鉄基耐熱合金は一般にニッケル基,コバルト基の超合金より高温強度は劣る。

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世界大百科事典(旧版)内の耐熱鋼の言及

【耐熱材料】より

…そのため金属の耐熱材料開発は耐酸化性の強化を主眼になされてきた。鉄に多種の添加物を加えて作られる耐熱鋼は,フェライト系,オーステナイト系に大別され,前者で650℃,後者で800℃まで実用に耐える。本来酸素との反応性が大きい金属に耐酸化性,高強度をもたせる添加物は以下のように働いている。…

※「耐熱鋼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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