耐火煉瓦(読み)タイカレンガ(英語表記)fire brick

デジタル大辞泉 「耐火煉瓦」の意味・読み・例文・類語

たいか‐れんが〔タイクワレングワ〕【耐火×煉瓦】

高温に耐える煉瓦。耐火粘土を主原料としてつくり、鉄鋼業・ガラス工業などの窯炉ようろに使用。

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精選版 日本国語大辞典 「耐火煉瓦」の意味・読み・例文・類語

たいか‐れんが タイクヮ‥【耐火煉瓦】

〘名〙 耐火性をもった煉瓦。炉、窯などの内張りに使用する。多くの種類があり、耐火温度、炉における化学的な作用などがそれぞれ異なる。原料により珪石質、粘土質、高アルミナ質などに分類することができる。白煉瓦
自由新聞‐明治一五年(1882)六月二五日「芝浜崎町に於いて伊勢勝が製造せる耐火煉瓦は」

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改訂新版 世界大百科事典 「耐火煉瓦」の意味・わかりやすい解説

耐火煉瓦 (たいかれんが)
fire brick

耐火物のうち,特定の形状に成形されたものをいう。高温工業用材料として,各種窯炉の高温部に使用される非金属無機材料であり,耐火物の主体を占める。主成分は高融点を有する金属酸化物類で,その組合せによって多くの種類がある。日本における耐火煉瓦の用途別需要量の割合は表1に示すとおりで,鉄鋼用が約70%と圧倒的に多い。また,最近では,これとは別に輸出用が全生産の10%以上を占めるまでになっている。

耐火煉瓦の品種は原料によって区分されるのが一般的である。これは,その製品特性が原料の性状に依存することが多いからである。したがって,耐火煉瓦工業は,粉粒体の耐火原料を使って一定の形状をもつ煉瓦を造りあげる造形技術で,その基本は原料のもつ必要特性を煉瓦組織として完成させることにある。耐火煉瓦の原料の多くは天然原料で,これには,(1)ケイ石,蠟石,耐火粘土,ケイ線石(シリマナイト),クロム鉄鉱ジルコン,黒鉛などを採鉱,選別,粉砕し,焼成せずに直接使用するものと,(2)耐火粘土,ボーキサイト,マグネサイト鉱,ドロマイト鉱などのように,あらかじめ焼成し,収縮を除去して,それぞれシャモット,焼ボーキサイト,マグネシアクリンカー,ドロマイトクリンカーとして使用する加工原料とがある。一方,高純度,高性能の原料として,最近,人工合成原料の重要性が増してきている。そのおもなものとしては,海水中のマグネシウムイオンを水酸化マグネシウムとして析出・沈殿させ,これを焼成して得られるマグネシアクリンカー,ボーキサイトから得られるアルミナ,アルミナにシリカを加えた合成ムライト,シリカを還元・炭化した炭化ケイ素などがある。これらの原料は,主として愛知県(耐火粘土,ケイ石),岡山県・広島県(蠟石),大分県(ケイ石),鳥取県(クロム鉄鉱),栃木県・岐阜県(ドロマイト鉱)などで産するが,一方,韓国(蠟石),中国(マグネシアクリンカー,黒鉛,バン土ケツ岩),朝鮮民主主義人民共和国(マグネシアクリンカー),ガイアナ(ボーキサイト),南アフリカ共和国(シリマナイト,高級シャモット),フィリピン(クロム鉄鉱),オーストラリア(ジルコン),アメリカ(高級シャモット),インド・スリランカ・旧ソ連(黒鉛)など,非常に多くの国から種々の原料が輸入され,輸入量も順次増加している。なお,マグネシア,アルミナ,クロム-マグネシアなどの一部は電融処理し,緻密(ちみつ)質で結晶の発達した原料として特殊な用途に用いられている。

耐火煉瓦はその製造法によって,(1)焼成煉瓦,(2)不焼成煉瓦,(3)電融鋳造煉瓦に分けられる。耐火煉瓦の約90%は焼成煉瓦であり,不焼成煉瓦は近年増加してきたが約10%,電融鋳造煉瓦(電鋳煉瓦)はさらに少なく1%未満である。

耐火煉瓦の性質を大きく左右する原料の選択は重要であり,それぞれ目的とする品種によって種々の原料鉱石を組み合わせて使用する。工程としてはまず,天然原料,加工原料,人工合成原料を選択し,選別を含む予備処理を行い,一定の粒度に粉砕して,混練工程に送る。この工程では,煉瓦形状に成形しやすくするために粒度構成を定め,副原料である水や結合剤を加えて,均一に混合,混練し,粒子の分散をよくする。この状態の原料混合物を坏土(はいど)と呼ぶ。従来は水を多く加えた湿式混練法が主体であったが,煉瓦形状と性能をよくするために,水を少なくした半乾式混練法(水分2~5%くらい)が主体になってきている。

 成形工程は煉瓦を使用するのに便利な形状に造る工程で,大部分が機械成形される。この機械にはフリクションプレスが最も多く使用されているが,油圧プレス,メカニカルパワープレスなども用いられている。これらのいずれも半乾式の坏土が用いられている。この工程の主目的が形を造ることと同時に充てん(塡)をよくして,緻密質煉瓦にすることであるから,高圧成形法が賞用され,大型プレスが使用されるようになって,成形圧力も500~1000kgf/cm2以上となってきている。最近では1500tとか3000tプレスも利用されるようになっている。一方,ごく一部ではあるが,機械成形できない形状の煉瓦があり,これはエアランマーを併用した手打成形法が利用されている。この場合,湿式混練(水分10%くらい)した坏土が用いられる。なお,特殊な煉瓦の成形には,鋳込成形法,アイソスタティックラバープレス,振動成形機,ホットプレスなどが利用されている。

 乾燥工程では,成形するために加えられた水分を除去し,焼成工程での亀裂,割れなどを防止するために十分な乾燥を行う。トンネル式の乾燥炉を使用して,80℃くらいまでの温度で乾燥するのが普通である。この熱源は省エネルギーのために,焼成炉の廃熱を利用するようになってきた。次の焼成工程では,角窯や丸窯などの単独窯,連続式のトンネル窯が使用され,品種によって種々の温度で焼成される(一般には1300~1800℃くらい)。ここで使用される燃料は重油が主体で,一部にガス焼成の場合もある。この焼成工程は結合組織を完成させる最もたいせつな工程である。最近では成形工程で高充てん率を得ることができるようになったので,結合組織の良好な耐火煉瓦が造りやすくなってきた。

不焼成煉瓦の製造法は,強度をもった安定な結合組織を,焼成の代りに化学結合によって得ようとするものであり,混練工程で種々の結合剤を添加する。原料面でも,高温で収縮のより少ない原料を使用し,成形面でも,より緻密質に充てんする高圧成形を行っている。ここで重要な結合剤は耐火煉瓦の種類によって異なるが,一般にはケイ酸ナトリウム系,種々のリン酸塩,フェノール樹脂,タール類などが使用されている。成形後,乾燥するだけで製品となるものと,300~400℃くらいで熱処理を行って製品となるものがある。なお,クロム-マグネシア系煉瓦などでは,成形時に外皮として鉄板をはめこんだメタルケース煉瓦もある。

電融鋳造煉瓦(電鋳煉瓦)は,原料を電気炉の中で溶融し,金属の鋳物と同じように,鋳型中に流し込んで製造するものである。
電鋳耐火物

耐火煉瓦には高温に耐え,炉内の反応に耐える性質が基本的に必要であるが,その使用条件は非常に複雑多岐にわたるので,たいへんに多種多様の性能が要求される。耐火煉瓦は,耐火物としての一般的諸条件を満たすべきことはもちろんだが(〈耐火物〉の項参照),さらに一般に種々の形状の製品を多数組み合わせて使用するので,その形状・寸法の安定性が必要となる。種々の耐火煉瓦の一般的諸性質を表2に,また,その化学成分とおもな鉱物組成を表3に示す。多くの耐火煉瓦は酸化物系原料を使用しているので,酸化雰囲気中で使用する場合には安定であるが,還元雰囲気中ではとくに高温で劣化しやすいことがある。一方,非酸化物系または炭素系原料を用いた耐火煉瓦は酸化雰囲気中で著しく劣化することがあるので注意を要する。

耐火煉瓦のコラム・用語解説

【おもな耐火煉瓦】

[酸性耐火煉瓦]
ケイ(珪)石質煉瓦 silica brick
シリカSiO2を主成分とする酸性耐火煉瓦。ケイ石に結合剤として少量の石灰乳などを加え,成形,焼成(1400~1500℃)して製造する。焼成時に石英がクリストバライトに結晶転移して永久膨張(約4%)する。低温(300℃くらい以下)では熱膨張が大きく,スポーリングしやすいが,それ以上ではスポーリングに強い。耐火度はSK32程度であるが,荷重軟化点が1600℃以上と高く,再加熱による収縮がない(むしろやや膨張する)のが特徴で,炉の天井やアーチ,コークス炉などに用いられる。
蠟石質煉瓦 pyrophyllite brick
蠟石(パイロフィライトAl2O3・4SiO2・H2Oを主成分とする鉱物で,石英やカオリンを含むことが多い)を主原料とするシリカ-アルミナ系の酸性耐火煉瓦。蠟石は,含有水分が少ないので焼成収縮が小さく,シャモット煉瓦の場合とはちがって生のまま原料として使用でき,焼結がよく,安価な煉瓦として製鋼用取鍋(とりなべ)などに広く用いられている。シリカSiO2分が多いので耐火度は低い。多くは焼成品であるが,不焼成品も徐々に用いられるようになってきた。石英分の多い蠟石からは高ケイ酸煉瓦が造られて,コークス炉などに用いられることがある。
シャモット煉瓦 chamotte brick
シャモットとは耐火粘土(シリカSiO2とアルミナAl2O3を主成分とする含水鉱物)を焼成しその含有水分(付着水と結晶水)と収縮を除去したものをいい,これを原料とする酸性耐火煉瓦をシャモット煉瓦あるいは粘土質煉瓦fireclay brickという。シリカ-アルミナ系耐火物の組成と耐火度との関係を図に示したが,シャモット煉瓦は一般にアルミナ50%未満~20%くらいのものをいう。シャモットを粉砕し,粒度調整したものに結合剤として生の耐火粘土と水を加えて成形し,1300~1400℃で焼成して製造する。
ジルコニア質煉瓦 zirconia brick
ジルコニアZrO2を主成分とする酸性耐火煉瓦。熱伝導率が小さく,高温で電気伝導性が大きく,溶融金属にぬれにくく,熱間強度が大きいなどの特徴をもち,また,ジルコニアの融点が2710℃と高く,製鋼連続鋳造用ノズル,石油化学用,ガラス窯,高温窯炉などに活用されている。ジルコニアは結晶変態により1000~1200℃で3~4%の体積変化をともなうので,これに少量の酸化カルシウムCaOなどを固溶させて,安定化させたものを用い,成形後1700℃以上の高温で焼成して製品とする。電融鋳造品(電鋳煉瓦)もある。
[中性耐火煉瓦]
アルミナ質煉瓦 alumina brick
アルミナAl2O3を主体とする耐火煉瓦の総称。代表的な中性耐火煉瓦で,ふつう,アルミナが90%以上のものをアルミナ質煉瓦,90~50%のものを高アルミナ質煉瓦high-alumina brickと呼ぶ。その他の成分の多くはシリカSiO2である。焼成品が多いが,一部に炭素を添加して還元焼成したものや,電融鋳造煉瓦(電鋳煉瓦)も製造されている。一般に高価であるが,アルミナの融点は2050℃と高く,高温高耐用の必要な重要なところに用いられる。
クロミア質煉瓦 chromia brick
クロミア(酸化クロムCr2O3)を主体とする中性耐火煉瓦。クロム鉄鉱はクロミアを主成分としているが,その含有量が30~50%と低く,不純物が多いので,クロミアの特徴が得がたい。そこで合成クロミアを原料とし,少量の焼結剤を加え,成形,高温焼成して製造する。品質の一例を示すと,Cr2O393%,TiO24%,SiO21%,気孔率13%,かさ比重4.1,曲げ強さ700kgf/cm2である。ガラス質マトリックスを含有しないため,溶融ガラスとなじみにくく浸食抵抗が大きいので,ガラス製造炉用に使用される。
炭素質煉瓦 carbon brick
炭素を主体とする中性耐火煉瓦。炭素原料は,石油・石炭から造ったピッチコークスや無煙炭などの無定形炭素と,天然黒鉛または人造黒鉛に大別される。これら原料に結合剤としてピッチ,粘土などを加えて成形し,マッフル炉で焼成して製造する。焼成後黒鉛化して製品とする場合もある。電気伝導度,熱伝導率が非常によく,化学的浸食に強い抵抗性を示し,きわめて高い耐火度を有しているが,酸化雰囲気中で酸化しやすい欠点がある。高炉の炉底部など,各種金属溶解炉などに使用される。
[塩基性耐火煉瓦]
マグネシア煉瓦 magnesia brick
マグネシアクリンカーを用いて造った代表的な強塩基性耐火煉瓦。マグネシアMgOは融点2800℃と一般の耐火物中最も高く,その結晶はペリクレースと呼ばれ,比重3.58の硬い結晶である。天然産のマグネシアは不純物が多いので,多くは海水から採取したマグネシアクリンカーを原料として造る。焼成品と不焼成品がある。最近では不純物の非常に少ない高密度のクリンカーが得られ,マグネシアの欠点である使用中の変質を防止するために炭素を添加した煉瓦も開発されている。特殊な用途(たとえば出鋼口)には,電融マグネシアを原料とし,高温焼成,タール含浸したものが用いられている。
ドロマイト質煉瓦 dolomite brick
ドロマイト鉱を焼成して得られるクリンカーまたは合成ドロマイトクリンカーを主とし,これにマグネシアクリンカーを加えて造った塩基性耐火煉瓦。ドロマイトCaO・MgO・2CO2の融点は2300℃と高い。ドロマイトクリンカーには大気中で消化しない安定型と大気中で消化する準安定型の2種類があり(消化とは,水分を吸って水酸化物を生成する結果,膨張して粉化する現象で,スレーキングともいう),煉瓦も焼成品と不焼成品がある。天然原料を使用したドロマイト質煉瓦は不純物が多いが,合成原料を用いた場合には高純度で不純物1%以下となり,この高温焼成品は非常に優れた高温特性をもつ。これに高濃度タールを含浸したものは,強塩基性スラグに強く,組織がきわめて安定しており,製鋼用転炉に使用される。
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百科事典マイペディア 「耐火煉瓦」の意味・わかりやすい解説

耐火煉瓦【たいかれんが】

耐火物のうち,使用に便利なように特定の形状を与えたものをいう。高温で焼き締めた焼成煉瓦,熱処理を行わず化学結合材により結合させた不焼成煉瓦,および電鋳煉瓦に大別される。原料組成により,ケイ(珪)石質煉瓦,シャモット煉瓦,アルミナ質煉瓦,マグネシア煉瓦,ドロマイト煉瓦,炭素質煉瓦など各種ある。
→関連項目耐火粘土耐火モルタル断熱煉瓦煉瓦

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「耐火煉瓦」の意味・わかりやすい解説

耐火煉瓦
たいかれんが
firebrick; refractories

窯炉その他の高温で使用される構造物の素材として用いる高温に耐えられる煉瓦。形状は並形 (230mm× 114mm× 65mm) のもののほか各種の異形のものがある。成分によって酸性耐火物,中性耐火物,塩基性耐火物などに分類され,特性,形状,寸法によっても数多くの種類に分けられるため,用途に応じて選ぶことが肝要である。

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家とインテリアの用語がわかる辞典 「耐火煉瓦」の解説

たいかれんが【耐火煉瓦】

1580℃以上の高温下でも破損しない煉瓦。暖炉・窯炉などの直接火に接する部分や、耐火構造物などに用いる。

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世界大百科事典(旧版)内の耐火煉瓦の言及

【煉瓦】より

…煉瓦は直方体で,手で取り扱いやすい大きさ(たとえば21cm×10cm×6cm)をもち,各種築造材料に使用される。煉瓦と呼ばれるものの種類は,普通煉瓦のほか,耐火煉瓦,耐酸耐熱煉瓦,耐酸煉瓦が日本工業規格に定められている。このほかに軽量煉瓦,舗道煉瓦,釉薬(ゆうやく)煉瓦,鉱滓(こうさい)煉瓦,ケイ(珪)灰煉瓦,セメント煉瓦があり,それぞれ使用目的に応じて建築材料として使われている。…

※「耐火煉瓦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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