耐性菌(読み)たいせいきん

精選版 日本国語大辞典 「耐性菌」の意味・読み・例文・類語

たいせい‐きん【耐性菌】

〘名〙 病原微生物で、治療に用いるサルファ剤抗生物質に対する抵抗性を獲得したもの。
※蛙のこえ(1952)〈大宅壮一〉土「現に赤痢には、すでに耐性菌(タイセイキン)が発生しているらしい」

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デジタル大辞泉 「耐性菌」の意味・読み・例文・類語

たいせい‐きん【耐性菌】

薬剤耐性菌

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百科事典マイペディア 「耐性菌」の意味・わかりやすい解説

耐性菌【たいせいきん】

細菌のうち,殺菌や増殖抑制の物理的・化学的作用に耐えて増殖できる変異株。一般には抗生物質などの化学療法剤が有効でない病原菌をいう。耐性の機序として,薬剤を不活性化する酵素の産生,薬剤の細菌細胞内への透過性低下などがあげられる。耐性の非耐性菌への伝達は,プラスミドR因子)などによる。 人は結核菌に対するペニリシンからはじまって,多くの病原菌に対する抗生物質を開発し,それらの病原菌の殺菌を試みてきた。抗生物質によって病原菌は根絶できるものと考えられていたが,病原菌もまた抗生物質に抵抗すべく方向進化を続けた。こうして生まれた,抗生物質がまったく効かない菌を〈抗生物質耐性菌〉という。赤痢菌,コレラ菌,チフス菌などでも,抗生物質が効かない薬剤性耐性菌が蔓延し,治療が困難になりつつある。最近では複数の抗生物質に耐性をもつ〈多剤耐性菌〉も出現している。 近年では,新しい抗生物質が使用され始めてから耐性菌が出現するまでの期間がどんどん短くなっており,製薬会社は莫大な開発費用が必要な抗生物質開発から撤退しようという動きを見せている。ここ10年,世界でも新しい抗生物質はほとんど開発されていない。
→関連項目院内感染化学療法感受性検査菌交代症クロラムフェニコール骨髄炎サイクロセリン性病赤痢テトラサイクリンバンコマイシンバンコマイシン耐性腸球菌日和見感染症ブドウ(葡萄)球菌淋菌

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「耐性菌」の意味・わかりやすい解説

耐性菌
たいせいきん

同類の細菌に対して有効な薬剤がまったく無効である細菌をいう。抗生物質や代謝阻害剤など細菌に対して発育を阻害したり殺菌する作用をもつ薬剤に抵抗性を示す細菌が発生することがある。これは、遺伝子突然変異または新しい遺伝子を獲得することによって耐性形質が発現されるわけで、このような遺伝的変化によって生じた菌が耐性菌であり、原株つまり薬剤の有効な菌を感受性菌という。病巣中に存在する多数の感受性菌のうちの1個が突然変異によって耐性を獲得すると、大多数の感受性菌が治療によって死滅するのに反してこの菌が増殖し、表面化するのが耐性菌出現の理由で、この耐性は遺伝するほか、接合、形質導入、形質転換などによって感受性菌に伝達される。すなわち、耐性菌と感受性菌とを試験管内でいっしょに培養すると、容易に感受性菌が耐性菌となる。現在、耐性が問題となっているものは結核菌、赤痢菌、ブドウ球菌などであるが、人の腸内には赤痢菌の耐性伝達を阻止する物質があり、容易には伝達されない。

 感受性菌は治療によってしだいに絶滅され、耐性菌が年々増加しており、とくに多剤耐性菌が増えている。赤痢ではほとんどが多剤耐性赤痢菌によって発病している。治療期間が長い結核などでは、治療中に菌が耐性化することもあるが、最初から耐性菌に感染して発病する場合が多くなっている。したがって、薬剤耐性菌の可能性が多い結核菌、赤痢菌、ブドウ球菌などに起因する疾患の際は、治療開始前に病原菌の薬剤感受性を調べ、有効な薬剤を選んで治療を始める必要がある。近年は結核や赤痢の場合、最初から同効異種の薬剤を少量ずつ、2種あるいは3種併用し、耐性菌の出現を予防しながら、有効な薬剤を調べたり、耐性を検査して耐性菌の出現に備えたりしている。

[柳下徳雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「耐性菌」の意味・わかりやすい解説

耐性菌
たいせいきん
resistant bacteria

抗生物質などの抗菌剤に対する抵抗性が著しく高くなった細菌。耐性菌の出現には次の2つの機構があると考えられている。第1は抗菌剤が標的とする細菌の酵素あるいは蛋白質に突然変異が起き,抗菌剤がきかなくなる場合である。第2は細菌が抗菌剤を不活性化する能力を獲得した場合で,β-ラクタム系抗生物質を分解する酵素β-ラクタマーゼを生産するようになった細菌がその好例である。このような薬剤耐性を支配する遺伝子は細菌の染色体上にはなく,独立の遺伝単位であるプラスミド (細胞質にある環状のデオキシリボ核酸 DNA) 上にある場合が多い。プラスミドは接合により細菌から細菌に伝達される性質がある。1つのプラスミド上に複数の抗菌剤に対する耐性遺伝子が乗っている場合があり,これを多剤耐性といい,医療上大きな問題になっている。

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化学辞典 第2版 「耐性菌」の解説

耐性菌
タイセイキン
resistant bacteria

化学薬品抗生物質,物理的影響,バクテリオファージなどに対して感受性の低い菌.薬剤耐性(drug resistance)の機構としては,薬剤の標的となるタンパク質の構造の一部が突然変異によって変化したために耐性になる場合や,薬剤の排出や分解に関与するタンパク質をコードする遺伝子をトランスポゾン(動く遺伝子)などによりあらたに獲得し,耐性になる場合などがある.MRSAとして有名になったメチシリン耐性黄色ぶどう球菌では,ペニシリン系抗生物質の標的となるペニシリン結合タンパク質が変異を起こした結果,抗生物質が効かなくなったものと考えられる.

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世界大百科事典(旧版)内の耐性菌の言及

【耐性】より

… 一方,人間の作り出した薬剤に対しては,生物は急速に耐性を発達させ,いわゆる薬剤耐性(薬物耐性)の生物ができてくる。抗生物質をはじめ種々の医薬に対する耐性菌の出現,あるいはDDTその他の殺虫剤に対する抵抗性品種のハエ,カ,農業害虫など,その例はきわめて多く,大きな社会問題となっている。【日高 敏隆】
[薬剤耐性]
 抗生物質,化学療法剤,紫外線あるいはバクテリオファージなど,細菌が本来生育を阻害されるはずの要因が存在する環境下でも,細菌が生育を続けるようになることがある。…

※「耐性菌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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