翔・駆(読み)かけり

精選版 日本国語大辞典 「翔・駆」の意味・読み・例文・類語

かけり【翔・駆】

〘名〙 (動詞「かける(翔)」の連用形の名詞化)
① 飛ぶこと。また、速く走ること。
※浄瑠璃・平仮名盛衰記(1739)一「鬼におとらぬ足どりは。両方おとらぬ馬上の達者。駒の足なみ飛鳥のかけり」
能楽囃子(はやし)の一種。修羅(しゅら)物では、戦闘の有様や、苦しみを表現し、狂女物では、その狂乱の興奮状態を示し、執心物では恨みの深さとか、または、猟師が鳥を捕える動作を写実的に表現する時などに用いる。大小の鼓と笛とによって伴奏され、まれには太鼓も加わるが、これらにのって立ち働く。
俳諧・鷹筑波(1638)三「杖つきまはるけふのくたびれ 山姥のかけりの太鼓(たいこ)下手なれや〈定之〉」
狂言の働き事の一種。能楽のカケリをくずしたもの。
※虎明本狂言・大黒連歌(室町末‐近世初)「かけりをしたければ、大こくれんがのおもしろさにと云所にて、舞がけりあり」
④ 能楽の囃子から転じた歌舞伎の下座音楽、鳴物の一種。大小の鼓と笛によって伴奏され、物狂いの出と、時代物武将勇士の出、または、合戦の立回りなどに用いる。また時代物の幕切れ段切(だんぎれ)三重三味線にかぶせて用いることが多いが、「だんまり」の幕切れにはこれだけを用いることがある。かけいり。
※歌舞伎・矢の根(1729)「『工藤が館へ急ぎしは、勇々しかりける次第なり』トカケリにて、文句一ぱい、よき見得にて、よろしく」
連歌や俳諧で、表現が明確で働きがあり、動的な趣の鋭いこと。
※俳諧・去来抄(1702‐04)先師評「凡兆は『病鴈はさる事なれど、小海老に雑るいとどは、句のかけり、事あたらしさ、誠に秀逸句也』と乞」

かけ・る【翔・駆】

〘自ラ四〙
① 鳥などが、空高く飛ぶ。
古事記(712)下・歌謡雲雀(ひばり)は 天(あめ)に迦気流(カケル) 高行くや 速総別(はやぶさわけ) 鷦鷯(さざき)捕らさね」
※万葉(8C後)一七・四〇一一「二上の 山飛びこえて 雲がくり 可気理(カケリ)いにきと」
② (駆) 速く走る。急いで通る。
※源氏(1001‐14頃)明石「秋の夜の月毛の駒よわが恋ふる雲井をかけれ時の間も見ん」
※伊太利人(1908)〈寺田寅彦〉「血眼になって行手を見つめて駆けって居るさまは」
③ 和歌で、一句の表現に心の働きがはっきり現われる。動的表現が鋭く出る。
※ささめごと(1463‐64頃)下「又、冷泉の中納言為秀卿教へ給へると也。にぶく眠りめなる歌人には、かけりたるかたを学べと」
[語誌]→「かける(駆・駈)」の語誌

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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