美・愛(読み)うつくしい

精選版 日本国語大辞典 「美・愛」の意味・読み・例文・類語

うつくし・い【美・愛】

〘形口〙 うつくし 〘形シク〙
① (古くは、妻、子、孫、老母などの肉親に対するいつくしみをこめた愛情についていったが、次第に意味が広がって、一般に慈愛の心についていう) かわいい。いとしい。愛らしい。
書紀(720)斉明四年一〇月・歌謡「于都倶之枳(ウツクシキ)(あ)が若き子を 置きてか行かむ」
万葉(8C後)五・八〇〇「父母を 見れば尊し 妻子(めこ)見れば めぐし宇都久志(ウツクシ)
源氏(1001‐14頃)若菜下「いづれも分かずうつくしく愛(かな)しと思ひきこえ給へり」
② (幼少の者、小さい物などに対して、やや観賞的にいうことが多い) 様子が、いかにもかわいらしい。愛らしく美しい。可憐である。
播磨風土記(715頃)賀毛「宇都久志伎(ウツクシキ)小目(をめ)の小竹葉(ささば)霰降り 霜降るとも」
※枕(10C終)一五一「うつくしきもの、瓜(うり)にかきたる児(ちご)の顔。雀の子のねず鳴きするにをどり来る」
③ (美一般を表わし、自然物などにもいう。室町期の「いつくし」に近い) 美麗である。きれいだ。みごとである。立派だ。
※大鏡(12C前)六「西京のそこそこなるいへに、いろこくさきたる木のやうたいうつくしきが侍りしを」
御伽草子木幡狐(室町末)「うつくしく化けなしてこそ出でにけり」
※浮世草子・好色一代女(1686)四「女は妖淫(ウツクシ)き肌を白地(あからさま)になし」
④ (不足や欠点残余や汚れ、心残りなどのないのにいう) ちゃんとしている。きちんとしている。
(イ) ちゃんとしていて申し分ない。きちんと整っていて結構だ。
※源氏(1001‐14頃)乙女「かくて大学の君、その日のふみ、うつくしう作り給て進士になり給ひぬ」
※今鏡(1170)二「楽なんどをもうつくしくしらせ給ひ」
(ロ) 残余や汚れがなく、きれいさっぱりとしている。
日葡辞書(1603‐04)「ネコガ vtçucuxǔ(ウツクシュウ) クウタ」
※人情本・英対暖語(1838)三「お前は岑さんにうつくしくわかれて」
⑤ 人の行為や態度、また、文章、音色などが好ましい感じである。
※歌舞伎・助六廓夜桜(1779)「『こはう物を言はんすりゃ、何処までも腰押し、又美しう頼まんしたらば』『揚巻に逢はしてくれるか』」
枯菊の影(1907)〈寺田寅彦〉「夭死と云ふ事が、何だか一種の美しい事の様な心持がしたし」
[語誌](1)上代優位の立場から目下に抱く肉親的ないし肉体的な愛情であった原義は一貫して残り、平安時代でも身近に愛撫できるような人や物を対象とし、中世でも当初は女性や美女にたとえられる花といった匂いやかな美に限定されており、目上への敬愛やきらびやかで異国的な美をいう「うるはし」とは対照的であった。
(2)やがて中世の末頃には、人間以外の自然美や人工美、きらびやかな美にも用いるようになり、明治には抽象的な美、そして美一般を表わすようになった。
うつくし‐が・る
〘他ラ四〙
うつくし‐げ
〘形動〙
うつくしげ‐さ
〘名〙
うつくし‐さ
〘名〙

うつくし【美・愛】

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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