羅生門(芥川龍之介の小説)(読み)らしょうもん

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

羅生門(芥川龍之介の小説)
らしょうもん

芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)の短編小説。1915年(大正4)11月『帝国文学』に柳川隆之介の筆名で発表。のち一部改作され、『鼻』(1918刊)所収作品が定稿となっている。『今昔物語集』巻第29第18「羅城門(らせいもんにて)登上層(うはこしにのぼり)見死人(しにんをみる)盗人語(ぬすびとのものがたり)」を原典として創作されている。主人の家から暇を出された主人公は、明日の寝食にも窮して盗人になることを思いながらためらっていたが、羅生門で出会った猿のような老婆から、生きるためには悪が許されていることを教えられ、老婆の着物を奪い取って闇(やみ)のなかに姿を消していった。

 歴史小説の形をとっているが、状況次第では悪をも選択するエゴイズムと、それを肯定せざるをえない人間のあり方を描いた心理ドラマの性格が強い作品である。初期の作品ながら高い完成度を示しており、近代短編小説を代表する一編である。

[海老井英次]

『『羅生門・偸盗・地獄変・往生絵巻』(講談社文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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