置文(読み)おきぶみ

精選版 日本国語大辞典 「置文」の意味・読み・例文・類語

おき‐ぶみ【置文】

〘名〙
① 現在および将来にわたって守るべき事柄規則などを定めた文書古文書の一形式。
吾妻鏡‐承元四年(1210)五月二五日「陸奥国平泉保伽藍等興隆事。故右幕下御時、任本願、基衡等之例可沙汰之旨、被御置文之処」
② 死後自分の考えを伝えるために書き残しておく文。かきおき。遺書。
※甲陽軍鑑(17C初)品一七「北地各中のよき傍輩共に申きかせ、置文(ヲキフミ)をして腹をきる」
③ 置き手紙。
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)九「教授堂に有か、をき文に董中舒か。興道鍾离意掃堂━張伯が壁一つを盗んと云をき文有ぞ」

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デジタル大辞泉 「置文」の意味・読み・例文・類語

おき‐ぶみ【置(き)文】

置き手紙。
子孫への書き置き。遺書。
古文書で、守り行うべき規則などを書いた文書。

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改訂新版 世界大百科事典 「置文」の意味・わかりやすい解説

置文 (おきぶみ)

武家の当主死期の近づいたとき,子孫のために所領支配の安全を願って,相続人の範囲,相続順位や年貢公事の負担,一族結合,譲渡の制限ならびに遺命違反者に対する制裁などについて,譲状とは別に〈置文〉を書き残すことがあった。元来,父祖は所領を自由に処分し,後継者として嫡子を自由に立てることができた。こうした武家(領主)の自律性が譲状のなかに独自の法的命令を付設する慣習を残したが,鎌倉中期以後には領主制の内部に分割相続から嫡子単独相続への転換,惣領制の解体という構造の変化があり,家産を基礎とする〈家〉共同体の成立と関連して譲状とは別に,〈子々孫々〉〈後日のために定め置く〉いう遺命が文書の形で残されるようになった。これは家の興亡にかかわる危機に直面して,当主の遺命に法という形で専断的,非人格的性格をもたせる必要があったからであった。また寺院において,諸規式住持・寺務職の相承について定め置いたものも置文と称する。
家訓
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「置文」の意味・わかりやすい解説

置文
おきぶみ

現在および将来にわたって守るべき事柄を定め置いた文書。寺院の檀那(だんな)や長老が、師檀(しだん)関係や寺僧の行為について定めたり、武士が子孫に対し、財産の譲り方、惣領(そうりょう)と庶子との関係、公役の負担の仕方、遺命に違反した子孫の処罰などを規定したものが多い。文書の様式は不定で、文頭あるいは文章中に「定置(さだめおく)」とか「置文」と明記するものもあるが、書状形式のもの、処分目録、譲状と区別しがたいものなどもある。内容的には家訓(かくん)または家法としての色彩が強い。『蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)』(竹崎季長(たけざきすえなが)絵詞)を作成した肥後(熊本県)の武士竹崎季長が、正応(しょうおう)6年正月に書き置いた置文などが著名。

[百瀬今朝雄]

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百科事典マイペディア 「置文」の意味・わかりやすい解説

置文【おきぶみ】

現在および未来にわたって守るべき事柄を特定の社会集団で定めた文書。寺院の規式や掟(おきて),公家,武家が子孫に残す遺訓や書置等の類である。特に武家の場合は所領の譲与関係のものが多い。
→関連項目法度・村掟武家法

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「置文」の解説

置文
おきぶみ

相続人または後継者が将来にわたって遵守すべきことを記した文書。所領譲与の際に相続人に対する遺命のかたちをとるものと,所領譲与とは無関係に作成されるものがある。前者では相続方法や相続対象物の保護,年貢・公事の配分,違反者に対する制裁などを記す場合が多い。後者はおもに寺院で作成され,相承のあり方のほか規則などが載せられた。ともに条々書ほか形式はさまざまだが,文末は「置文之状如件(くだんのごとし)」の文言をもつことが多い。

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旺文社日本史事典 三訂版 「置文」の解説

置文
おきぶみ

相続人・後継者が遵守すべき事柄を書き残した文書
古代後期から中世にかけて行われ,寺院や公家・武家などが後代の者に残した規定や遺訓・遺言などをいう。後継者や一族の行動の掟として権威があり,のちには書置 (かきおき) ・遺言ともいわれた。

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世界大百科事典(旧版)内の置文の言及

【家法】より

…また中世領主の家の存続・繁栄を目的としてつくられた規範としては,家訓と家法があり,実態的には両者はきりはなすことのできないものとして存在するため,家訓を広義の家法のなかにいれることも可能であるが,法史の上からは,この法規範と道徳規範の未分化状態が家法の発展とともに分化していくことから,両者を別種のものと把握している。 通常,家法の出発点は,財産譲与の際に作成される譲状(ゆずりじよう)にふくまれる規範部分が法規範として分化した置文(おきぶみ)であるとされている。この一族子弟を規制対象とした家長の法としての置文は,一族子弟だけでなく,その家臣をも家の擬制的構成員として階層的に編成し,彼らを包摂した〈家〉が形成されるとともに,主人の法としての性格を強め,家臣団統制法としての発展をとげる。…

【惣領制】より

…このため惣領制的結合から離脱しようとする庶子の動きは活発となり,惣領と庶子との対立は強まった。こうした惣領制の危機に対して,武士の家では家の法である置文(おきぶみ)によって,所領相続のあり方,公事の配分や徴収の方法,女子分の取扱い等を細かく定め,惣領制結合の強化を図った。南北朝時代を通じて惣領制の動揺は続いたが,南北朝の内乱が終わるころには,かつての惣領・庶子のゆるやかな結合にかわって,惣領の支配権が著しく強まり,庶子・女子を従属させる体制ができあがった。…

【中世法】より

…さらに14世紀に室町幕府が成立すると,前代の法はこの幕府に引きつがれて,新たな発展をとげた。他面,鎌倉・室町幕府の構成分子たる大小の武士団の中には,置文(おきぶみ)・家訓(かくん)・家法(かほう)などを定めて家の生命の維持発展を図るものが多く,やがてこれらの家の規約を根幹として,領主法的性格を加えた家法が現れるようになった。これら武士政権の国家法たる鎌倉・室町幕府法および武士団の家法の総体を武家法とよぶ。…

※「置文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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