綿帽子(読み)ワタボウシ

デジタル大辞泉 「綿帽子」の意味・読み・例文・類語

わた‐ぼうし【綿帽子】

真綿を広げて作ったかぶりもの。初め防寒用として主に女性が用いた。のちには婚礼のときに新婦前頭部をおおうのに用いるようになった。置き綿かずき綿・ひたい綿。 冬》「声もせで暗き夜舟や―/太祇
山や木に雪の積もっているようすをいう語。「はやくも富士山綿帽子をかぶってる」
[類語]角隠し頭巾御高祖おこそ頭巾防空頭巾フードベール

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精選版 日本国語大辞典 「綿帽子」の意味・読み・例文・類語

わた‐ぼうし【綿帽子】

〘名〙
① 真綿を平たくのばして作った防寒のかぶりもの。明治以降、綿花で作ったものもある。形態により丸綿・手ぼそ・古今綿うなぎ綿などがある。綿子。《季・冬》
※江家次第(1111頃)二「鷹飼 綿帽子、紫纈、狩衣、白布袴、壺脛巾
② 特に、婚礼の時、新婦が前頭部をおおうもの。元来は水母(くらげ)のような形の丸綿だったのが、明治以降、角隠しとも称して揚帽子を用いるようになった。また、それをつけた新婦。
※浮世草子・本朝桜陰比事(1689)五「正しく娌君(よめ)は片目成と通ひ女のいへるにおどろき、仲人かか綿帽子(ワタボウシ)の下より(のぞ)けば」
③ (①をかぶったように見えるところから) 山の頂上や木の枝などに雪の積もっているさまをいう語。
※富士御覧日記(1432)「雲やこれ雪を戴く富士の根は共に老せぬわたほうし哉」
④ 江戸時代、京都先斗町に住んだ密淫売婦の称。つくしわた。〔随筆羇旅漫録(1802)〕

わた‐ぼし【綿帽子】

〘名〙 =わたぼうし(綿帽子)日葡辞書(1603‐04)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「綿帽子」の意味・わかりやすい解説

綿帽子 (わたぼうし)

江戸時代の婦女子が用いた被り物の一種。この名が見られるのは足利義政の歌で,〈われながらけさはするがの富士のねに綿ぼうしともなれる雲かな〉(《古今沿革考》巻九)と詠まれており,中世上流婦女子の〈小袖被衣(かずき)〉から変化したものと思われる。被衣は野外を歩くとき,頭からすっぽりと小袖をかぶって顔を隠すために用いたもので,女子のみでなく男子も寒涼の際にはこの姿をして外出したが,綿帽子にも被衣と同様の意味が含まれている。ひたい綿,かつぎ綿,揚(あげ)帽子などの名があり,帽子の呼称は,かぶる状態が中世の男子の被り物烏帽子(えぼし)のように,練絹でつくられたものを折り曲げてかぶったことなどによる。近世になり女髷(おんなまげ)が結われるようになると,髷のちり除けとして,真綿を木型で伸ばし髷にかけて用いるようになり,嫁入りの際,文金高島田の髷と花嫁の顔も隠す形式に変化した。近代では白の羽二重に裏は紅のものを用いたが,現在は表裏とも白の羽二重を用い,形も大きくなった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「綿帽子」の意味・わかりやすい解説

綿帽子
わたぼうし

女子の被(かぶ)り物の一種。真綿を平らに伸ばしてつくったもので、初めは防寒具として用いた。その製法は真綿を引き伸ばして、その上に薄い粥(かゆ)の粘液をまき散らし、その上に麻布を当てて、火熨斗(ひのし)で乾かす。真綿は、白のほかに紅、桃色、浅葱(あさぎ)などに染めたものも使われた。また、安価なものは、真綿のかわりに木綿綿を用いた。綿帽子の形態には、丸綿(まるわた)、船底綿、古今綿(こきんわた)、促綿(うなぎわた)の4種類がある。丸綿は、クラゲのような形をしたもので、綿帽子でいちばん古く、婚礼用として江戸時代から用いられ、上方(かみがた)(関西)では老人用の被り物でもあった。船底綿は、細長い船のような形をしたもので、17世紀の後半、つまり延宝(えんぽう)年間(1673~81)より流行したが、18世紀の前半には廃れた。一方、古今綿は、頭から頬(ほお)を包んだところから頬包みともいわれ、菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の絵によくみられる。促綿は、火の玉のような形をしたもので、老婆が頭上にのせ、その上から手拭(てぬぐい)で風に飛ばされないようにあごの下で結んでいる図柄が多い。この帽子は3代将軍家光(いえみつ)以降に多く用いられた。

[遠藤 武]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「綿帽子」の意味・わかりやすい解説

綿帽子
わたぼうし

真綿を薄く引伸してつくったかぶりもの。おもに防寒用に用い,丸綿,舟綿,古今綿,促綿 (うなぎわた) などの形がある。室町時代から始り,江戸時代に一般に普及した。宝暦年間 (1751~64) 以後,烏帽子や頭巾に取って代られたが,儀礼用として婚礼,葬礼に綿帽子をかぶる習俗は,青森県野辺地地方,福島県相馬,五島列島の小値賀島 (おじかじま) ,栃木県足利地方,山口県大島,香川県高松,福岡県福岡地方など,各地に昭和の初期まで残った。今日の婚礼では角隠しに取って代られている。京都府竹野郡下宇川村では,角隠しを用いる以前は,婚礼に深帽子という綿帽子を横かぶりに用い,葬礼にはこれを縦かぶりにする習俗があった。

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百科事典マイペディア 「綿帽子」の意味・わかりやすい解説

綿帽子【わたぼうし】

真綿を薄く引き伸ばし,ふのりで固めたかぶり物。室町ごろからあり,防寒用として男女とも用いたが,江戸以後は女性が用いた。白のほか紫,浅黄等の染綿も使われ,形により丸綿,舟綿などがあった。丸綿は婚礼用として長く用いられ,練絹でも作られた。

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世界大百科事典(旧版)内の綿帽子の言及

【被り物】より

… 一方,布で頭を包む古くからの習風は,江戸時代に入ると,女子の被り物としての各種の帽子を生み出した。その代表的なものとしては,揚帽子,角帽子,野郎帽子,綿帽子がある。揚帽子は表は白,裏は紅絹の袷仕立てで,俗に白鷺と呼ばれた。…

【晴着】より

…第1は頭をおおうことである。葬式に〈かつぎ〉や,綿帽子や,きれでつくった〈おかざき〉(北陸地方)や,〈ふなぞこ〉(四国)または一片の白布をかぶり,白紙を三角に折ったものを額にあてることなどがそれである。婚礼にもかぶり物が重要視され,花嫁の角隠しは最も新しく,現代も用いられているが,それ以前に綿帽子や〈おかざき〉〈ふなぞこ〉〈かつぎ〉などがあって,かぶり方をやや変えるだけで,吉事にも凶事にも共用する。…

※「綿帽子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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