継続企業の前提(読み)けいぞくきぎょうのぜんてい(英語表記)going concern assessment

日本大百科全書(ニッポニカ) 「継続企業の前提」の意味・わかりやすい解説

継続企業の前提
けいぞくきぎょうのぜんてい
going concern assessment

企業が将来にわたって継続的に事業活動を行うことを前提とすること。ゴーイング・コンサーンgoing concernともいう。企業会計が存立する前提としての会計公準会計コンベンション)には、(1)企業実体の公準、(2)継続企業の公準、(3)貨幣的評価の公準の三つがあるが、そのうち継続企業の公準の概念とされるものである。すなわち、現在の企業会計は、企業が永続的に事業活動を行うものと仮定して、期間をくぎって決算をしている。投資家などのステークホルダーは、企業が永続的に事業を存続することを前提として投資や取引をするものであって、投資先や取引先がなんらかの理由で事業が存続できなくなるとステークホルダーは損失を被ることになる。したがって、継続企業の前提に関する情報はたいへん重要なものになる。また、従来公認会計士による監査は、会社が公表する財務諸表が適法、適正に作成されているかについて監査意見を表明するものとされており、継続企業の前提に関する意見は記載されなかった。そのため、バブル経済崩壊後、多くの企業が破綻(はたん)し、多くの投資家などに損失を与えたが、これらに関して監査意見はなんら有用な情報を提供していないとの批判があった。そこで、継続企業の前提に関する開示について多くの議論が行われた。企業の継続性に問題があると記載すると、かえって破綻のきっかけとならないか、または逆に、そのことを記載しないとかえって投資家に損害を与え、監査人としての責任が追及される、などの議論があった。最終的には、2002年(平成14)の監査基準改正により企業の継続性に疑義がある場合は、会社がまずその旨を注記し、そしてその注記が不適切な場合は、監査意見にその疑義の事実を記載することにした。

 このような経緯があり、現在は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況がある場合に、これらの状況を解消、改善するための対応をしてもなお重要な不確実性が認められる場合には、財務諸表にその旨の注記をすることになった(財務諸表等規則8条の27)。また、監査人は継続企業の前提に重要な疑義が認められ、その旨が財務諸表に適切に記載されているか判断して、重要な疑義に関する事項について監査報告書に追記するが、重要な疑義が適切に開示されていなければ、その旨を監査意見に記載する(「監査基準」第4報告基準 6継続企業の前提)。なお、継続企業の前提に関する注記を開示するまでには至らない場合であっても、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象が存在する場合には、有価証券報告書の「事業等のリスク」にその旨、その内容等を開示しなければならないとされた(企業内容等の開示に関する内閣府令15条)。

 なお、日本公認会計士協会の「監査・保証実務委員会報告第74号」では、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象として、以下のような項目をあげている。

〔財務指標関係〕
・売上高の著しい減少
・継続的な営業損失の発生または営業キャッシュ・フローのマイナス
・重要な営業損失、経常損失または当期純損失の計上
・重要なマイナスの営業キャッシュ・フローの計上
・債務超過
〔財務活動関係〕
・営業債務の返済の困難性
・借入金の返済条項の不履行または履行の困難性
・社債等の償還の困難性
・新たな資金調達の困難性
・債務免除の要請
・売却を予定している重要な資産の処分の困難性
・配当優先株式に対する配当の遅延または中止
〔営業活動関係〕
・主要な仕入先からの与信または取引継続の拒絶
・重要な市場または得意先の喪失
・事業活動に不可欠な重要な権利の失効
・事業活動に不可欠な人材の流出
・事業活動に不可欠な重要な資産の毀損(きそん)、喪失または処分
・法令に基づく重要な事業の制約
〔その他〕
・巨額な損害賠償金の負担の可能性
・ブランド・イメージの著しい悪化
[中村義人 2022年11月17日]

『吉見宏著『ケースブック監査論』第5版(2014・新世社)』

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