絨毛癌(読み)じゅうもうがん(英語表記)choriocarcinoma

改訂新版 世界大百科事典 「絨毛癌」の意味・わかりやすい解説

絨毛癌 (じゅうもうがん)
choriocarcinoma

胎盤の栄養細胞である絨毛細胞の悪性化によって発生する癌腫で,悪性絨毛上皮腫ともいわれる。婦人科癌のなかでは比較的まれな疾患である。胞状奇胎妊娠後に最も多く発生し,奇胎の5~10%に発生するとみられているが,人工妊娠中絶,自然流産,分娩後に発生する場合もある。妊娠後体内に遺残した絨毛細胞が癌化することで発生し,通常,妊娠後数ヵ月から数年を経て発症する(このような絨毛癌を妊娠性絨毛癌という)。ごくまれに,妊娠と関係なく卵巣や睾丸(この場合は男子に)に奇形腫として絨毛癌が発生することがある(これを奇形腫性絨毛癌という)。絨毛癌は正常妊娠時におけると同様のホルモン絨毛性ゴナドトロピンhuman chorionic gonadotropinhCG)を産生するので,腫瘍の病勢の指標としてhCG測定が用いられる。日本を含むアジア地域で発生頻度が高く,日本での女性人口10万当りの罹患率は0.22(1980)である。絨毛癌の発生は妊娠と密接に関連しているので,20~30歳代婦人に好発するが,40~50歳代婦人に発生することもまれではない。発生臓器子宮が最も多く,次いで肺であるが,早期に脳をはじめとする全身臓器に血行性転移をおこす場合が少なくない。子宮に発生した場合は不正性器出血が主症状となる。肺に発生した場合は,血痰,咳などがみられるが,初期には無症状のことが多く,健康診断で偶然発見される場合がある。hCGホルモン測定が診断上きわめて有用である。治療を行うにあたって,絨毛癌と酷似した臨床症状を示すが良性病変とみなしうる侵入(破壊)奇胎を除外しておくことが重要である。子宮に病巣がある場合には子宮摘出術を行うが,強力な化学療法を併用することが治癒率の向上をもたらしてきている。子宮以外の臓器に病巣がある場合は,少なくとも最初のうちは手術的治療の適応となることは少なく,まず十分な化学療法を行う。化学療法のみでhCGが正常化しない場合には手術療法も行われることがある。本疾患は,婦人科癌のなかでも化学療法の効果が最も期待できる疾患の一つであり,また近年における化学療法の目覚ましい進歩により,治療成績は著しく向上した。5年生存率は約70%程度である。本疾患は,発生の予防が可能と考えられる悪性腫瘍の一つである。本疾患の発生予防という見地から胞状奇胎妊娠の管理が多くの機関で実施されており,胞状奇胎妊娠からの絨毛癌の発生は著しく減少している。
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百科事典マイペディア 「絨毛癌」の意味・わかりやすい解説

絨毛癌【じゅうもうがん】

絨毛上皮腫

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世界大百科事典(旧版)内の絨毛癌の言及

【胞状奇胎】より

…従来,胎盤の腫瘍と考えられていたが,細胞遺伝学的研究から染色体異常による流産の特殊型と考える説が現在は多い。胞状奇胎が臨床的に注目されるのは,本症から高率に絨毛癌が発生するためである。 絨毛のすべてが囊胞化したものを全胞状奇胎(または単に奇胎ともいう)といい,通常胎芽は欠如している。…

※「絨毛癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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