絞染(読み)しぼりぞめ

精選版 日本国語大辞典 「絞染」の意味・読み・例文・類語

しぼり‐ぞめ【絞染】

〘名〙 染色方法または染模様一種。布をところどころ糸でとじくくったり、縫いしめたり、はさみこんだりして染料の浸透を防ぎ、染めたあと、その部分地色のまま文様となって残るようにした染め方。くくりぞめ。纐纈(こうけち)。しぼり。
談義本・風流志道軒伝(1763)四「からだはしぼり染のごとく」

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改訂新版 世界大百科事典 「絞染」の意味・わかりやすい解説

絞染 (しぼりぞめ)

染色技法の一つ。本来は原始的な染法で,布の一部を結んで染料に浸すと,結んだ部分に染料が浸透せず横段や縞様ができる。布を結ぶので上代人は結帛(ゆいはた)/(ゆはた)と呼んでいたが,奈良時代に大陸から高度な技術が導入され,目交(めゆい),大纈,小纈,夾纈(きようけち),甲(絞)纈などの名称が文献に現れる。目交,大・小纈は鹿の子絞に似たもので,正倉院に伝来する紅色地目交文纐纈(こうけち)はアスターナ古墳出土の紅色絞纈絹と類似するのをはじめ,唐代の絞纈と技法や文様の類似する遺品が正倉院宝物中に見られる。夾纈は模様を彫った型板に布をはさんで染料を注ぐ板締絞である。型板の大きさが限られるため,布を二つまたは四つ折りに畳んではさむので左右相称か,広げると一つの大模様になる図案に限定され,低温で染まりやすい染料と薄物の生地に制約される。正倉院に縹地花樹双鳥文絁(あしぎぬ),鹿草木夾纈屛風,鳥木石夾纈屛風,山水夾纈屛風など,絵画的な図柄を高度な技術によって染めた遺品がある。夾纈は制約が多いうえに熟練した技術を要するので平安後期には廃れ,模様を縫い絞って染める纐纈が多く用いられた。纐纈は女官の裳,壁代,軟障(ぜじよう),狩衣などに用いられ,庶民の衣服には簡易な括染(くくりぞめ)が用いられた。

 鎌倉後期から室町時代にかけて,武家の衣生活の向上により染衣服の需要が多くなったことと,商工業の繁栄に伴う商品の開発によって,絞の技法,意匠が急速に発展した。狩衣,水干,帷子(かたびら)に巻染,目結(めゆい),鹿の子結などの絞が用いられ,描き絵や箔押し,刺繡を併用したものが現れる。絞はより精巧な絵模様絞へと発達し,絵模様絞に描き絵を併用することにより辻が花染が生まれた。このように絞を基調として多色の絵模様染へ展開する傾向は,戦国ころ以後,世上一般に小袖形式が広がり需要が多くなるにつれて高まった。絵模様絞は豊臣秀吉所用の桐矢襖模様胴服,徳川家康所用の丁子模様胴服,葵紋蝶模様胴服,葵紋葵葉散模様胴服,葵紋槍梅模様小袖,葵紋菊唐草丸匹田絞小袖などの遺品があり,奇抜な意匠と大胆な配色,精巧な技術が認められる。

 江戸初期以降は機業の発達により綸子(りんず),紗綾(さや),ちりめんなど地紋のある生地が流行し,それに伴って絞は色の染め分けに用いられる場合と,染め分けた中に鹿の子や模様を絞る場合と二つの手段に用いられる。模様はいっそう細緻になるが,小袖全体では肩から裾へと広がる大模様となる。たとえば裾から肩へ花をつけた梅樹が大きく広がり,梅花は鹿の子で埋めつくす寛文小袖(かんぶんこそで)の図柄である。また小袖全体を鹿の子で埋める総匹田(そうひつた)絞が流行した。総匹田は生地の布目を斜め45度につまんで小さくくくり,その粒をそろえてすきまなく詰めて染め上げ,絞糸を解くと小さな枡形が斜めに整然と並ぶのである。総匹田は高度な技術と手間のかかる贅沢な絞で1683年(天和3)の奢侈禁令により禁止され,摺(すり)匹田に代わった。江戸前期の絞染は三沢初子所用雪輪模様帯,桜雪笹模様匹田絞小袖,雪輪菊模様小袖など代表的な名品がある。江戸後期以後は友禅染や刺繡を併用するもの,匹田絞を地とし,模様の線を絞り残して模様を表出するものなど,意匠のくふうは見られるが技術的には変わらない。一方,江戸初期ころから地方において木綿絞の夜着,ゆかた,手ぬぐい,献上手綱などが生産された。なかでも有松(名古屋市緑区)地方で慶長年間(1596-1615)に竹田庄九郎がはじめたといわれる有松(ありまつ)絞は,尾張藩の庇護のもとに産業として栄えた。街道筋の鳴海宿場で売られたので鳴海(なるみ)絞の名で知られ,今日に及んでいる。この絞は近年では京都にも技法が採り入れられ,また京都製品のくくりの下請も行われている。幕末から明治にかけて鹿角(秋田県)の鹿角絞,九州の豊後絞,博多絞,甘木絞,兵庫の姫山絞,新潟の白根絞なども知られた。

 絞の工程は,(1)生地に青花汁で下絵を描く。または型摺りする,(2)模様をくくる,(3)温湯に浸して地入れをし,染料に浸染する,(4)水洗,乾燥後糸を解き,湯のしをして仕上げる,といった順序である。絞は現在では縫い絞,筋絞,蜘蛛(くも)絞,巻上げ絞,三浦絞,鹿の子絞(鹿の子),嵐絞,桶絞,板締絞など多種の手法があり,糸でくくったり,竹皮や油紙を用いる場合がある。絞糸は木綿または絹など防水性の高いものを用いる。絞染の加工工程は生地晒,図案,下絵,絞り,染色,糸抜きのそれぞれが分業によって行われている。
染色
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百科事典マイペディア 「絞染」の意味・わかりやすい解説

絞染【しぼりぞめ】

くくり染とも。糸でくくり,部分的に防染して模様を染めるもので,にじみやかすれが特有の美しさをもつ。古くは纐纈(こうけち),〈ゆはた〉などと称し奈良時代のものが正倉院などに現存する。室町〜桃山時代に現れた辻が花染は絵模様の絞に描絵を併用したもの。 防染の方法により布を縫い締める縫絞,糸で巻き上げる巻上絞,板で締める板締絞などに大別され,さらに模様によって鹿の子疋田(ひった),三浦絞,叢雲(むらくも),柳など多種ある。手絞または簡単な機械により手工芸的に作られ,和服をはじめ袋物,ふとんなどに応用,和紙や皮革にも施される。産地は絹物では京都,綿布では名古屋の有松絞,民芸的なものでは秋田県や岩手県の紫根染,茜(あかね)染などが知られる。
→関連項目染色バンダナ村雲絞

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「絞染」の意味・わかりやすい解説

絞染
しぼりぞめ

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