結節性多発動脈炎

内科学 第10版 「結節性多発動脈炎」の解説

結節性多発動脈炎(血管炎症候群)

(3)結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)
概念・疫学
 代表的な壊死血管炎で,わが国の患者数は人口10万人あたり0.2〜0.7人と推定される.男女比はほぼ1:1で,男女とも50〜60歳代に発症のピークがある.
病因・病理
 壊死性血管炎の病理像を呈し,中~小型動脈の血管壁のフィブリノイド変性炎症性細胞浸潤が認められる.組織学的にⅠ〜Ⅳ期(それぞれ,変性期,急性炎症期,肉芽期,瘢痕期)の4つの病期に分類される.変性期には中膜筋層の浮腫・変性,急性炎症期にはフィブリン浸出・好中球浸潤,肉芽期には肉芽組織の新生と内膜増殖による血管内腔の狭窄化,そして瘢痕期には線維化した組織による血管内腔狭窄および動脈瘤形成がみられる.実際の生検標本ではこれらの病期所見混在がみられることが多い(図10-8-2).
臨床症状
 全身症状および中型血管の障害による症状(表10-8-2-Ⅱ)を呈する.発熱や体重減少のような全身症状はPANの70%で認められる.
 多発性単神経炎は65%でみられ,初期には感覚障害が出現し,進行すると運動障害を併発する.脳神経障害は比較的少ない.PANの約半数で認められるのが,腎障害,皮膚病変,関節痛および筋痛である.腎障害では急激に進行する高血圧と腎機能障害を呈するが,糸球体腎炎をきたすことはない.明らかな関節炎が合併する場合もあるが,関節リウマチのように関節破壊や変形をきたすことはない.消化管への侵襲は40%でみられ,全消化管のうち小腸が最も障害を受けやすい.腸間膜動脈炎の初期症状は腹痛であり,特に食後に増強する.進行すると腸管の梗塞や穿孔をきたす.脳血管障害(脳出血,脳梗塞)は10〜20%でみられる.
検査成績
 PANでは診断の決め手となるような特異性の高い検査マーカーはない.高度の炎症性病態を反映して,赤沈亢進,CRP 強陽性を呈する.末梢血一般検査では白血球増加,血小板増加,貧血(正球性正色素性)を呈する.血清蛋白分画では低アルブミン血症,ポリクローナル高ガンマグロブリン血症をきたす.PANでは特徴的な自己抗体はなく,ANCAは陰性である.
 血管造影はPANの診断に有用で,腹部大動脈の分枝,特に腸間膜動脈,腎動脈,肝動脈やその分枝に,内腔狭窄,不整,途絶や多発小動脈瘤がみられる(図10-8-3).
 生検で中〜小型動脈に壊死性血管炎が認められればPANと診断される.生検部位として,皮膚(皮下結節,紫斑),筋肉,腓腹神経,腎,ときに肺,消化管が対象となる.
診断・鑑別診断
 診断は臨床症状,検査所見,病理組織所見,血管造影所見による.上記症状を呈し,ANCA陰性で,病理学的検査や血管造影で上記の所見が得られればPANと診断する.鑑別診断として重要なのは,ANCA関連血管炎および川崎病である.
経過・予後
 わが国のPANの多くの症例は発症後6カ月以内に死亡し,1年以内の死亡率は45%であるが,1年目以降の死亡率は低下する.PANの4大死因は呼吸不全,腎不全・心不全・消化管出血である.
治療
 PANの治療において,生検による血管炎病期の把握が重要である.急性炎症期の治療は副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬の併用療法である.初期治療として大量プレドニゾロン(1 mg/kg/日)の経口投与およびシクロホスファミド(経口または間欠静注)投与を行う.重症の腎病変や中枢神経病変をもつ例では,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1000 mg点滴静注を3日間)を併用する.病態により血漿交換療法を併用する.初期治療を3〜4週間継続した後,臨床症状,炎症反応,臓器障害の改善などを評価しながらステロイド投与量を漸減する.
 肉芽期・瘢痕期には閉塞性血管症状に対する治療が主体となる.抗凝固療法や抗血小板薬が投与される.ただし病理学的には各病期の病変が混在することが多く,前述した急性期の治療と同時並行的に行われる.高血圧を伴う場合はその管理をし,腎不全例では血液透析を考慮する.[尾崎承一]
■文献
Falk RJ, et al: Granulomatosis with polyangiitis (Wegener's): An alternative name for Wegener's granulomatosis. Ann Rheum Dis, 70: 704, 2011.
Jennette JC, Falk RJ, et al: 2012 revised international Chapel Hill consensus conference nomenclature of vasculitides. Arthritis Rheum, 65: 1-11, 2013.
Mukhtyar CL, et al: EULAR recommendations for the management of primary small and medium vessel vasculitis. Ann Rheum Dis, 68: 310-317, 2009.

結節性多発動脈炎(膠原病および類縁疾患)

(3)結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PN)
 結節性多発動脈炎(PN)は中径動脈が主病変の古典的結節性多発動脈炎(classical PN:CPN)とMPO(myeloperoxidase)-ANCA関連微小血管炎の全身型である顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)に分けられる.PNの疾患頻度は低いが,30〜60%に何らかの腹部症状を呈するとされ,消化管病変はPNの重症度因子の1つでもあり,死亡原因にもなりうる.病理組織学的には,中小動脈の血管周囲炎,内膜肥厚,全層性血管炎から血栓・梗塞により消化管に病変が生じる.MPAよりCPNで多い傾向にあり,胃・十二指腸では比較的大きな類円形潰瘍を形成し,小腸・大腸では不整形で深く広い潰瘍からしばしば穿孔をきたす.[安藤貴文・後藤秀実]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「結節性多発動脈炎」の意味・わかりやすい解説

結節性多発動脈炎
けっせつせいたはつどうみゃくえん

全身の中・小動脈に壊死(えし)性血管炎を生じ、多彩な臨床症状をきたす疾患である。血管炎はフィブリノイド変性を伴った壊死と好中球浸潤を主とする全層炎(血管の内・中・外膜の全層が冒される)で、中・小動脈の分岐部に多い。動脈瘤(りゅう)様の小結節を生ずるのでこの名があり、結節性動脈周囲炎(periarteritis nodosa:PN)ともいわれたが、2005年(平成17)からは、結節性動脈周囲炎は、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)と顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)の2疾患を含む名称とされた。結節性動脈周囲炎のうち、結節性多発動脈炎(PAN)は、おもに中型血管を中心に血管壁に炎症を生じる疾患、顕微鏡的多発血管炎(MPA)は、おもに毛細血管に炎症を生じる疾患として分類・区別される。いずれも、特定疾患(難病)に指定されている。中年の男性に多い疾患である。

 発熱、全身倦怠(けんたい)感、体重減少、関節痛、筋痛・筋力低下、皮下結節・紅斑(こうはん)・紫斑などの皮膚症状、タンパク尿・血尿・血中尿素窒素増加などの腎(じん)症状、高血圧、狭心症・心電図異常などの心症状、肺炎様症状・喘息(ぜんそく)様症状などの肺症状、末梢(まっしょう)神経炎、中枢神経症状など多彩な症状が出現する。白血球増加が高頻度にみられ、好酸球増加・血小板増加が認められることもある。生検(皮膚、とくに皮下結節部、筋肉、腎臓、肝臓など)により診断を確定できるが、腹腔(ふくくう)動脈あるいは腎動脈血管造影により多発性動脈瘤が認められれば、生検をしなくても診断はほぼ確実である。

 ステロイド薬と免疫抑制薬の使用により予後はかなり改善されてきている。早期診断・早期治療が、治癒率も高く、重要である。

[高橋昭三]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の結節性多発動脈炎の言及

【膠原病】より

…今日,膠原病とよばれる疾患群は,クレンペラーが提唱した6疾患とはやや異なり,リウマチ熱は溶連菌に対する生体の異常反応として解釈できる面が多いところから,膠原病から除外されることが多い。また結節性動脈周囲炎は,動脈周囲にのみ病変がみられることはなく,現在では結節性多発動脈炎とよばれることが多い。結節性多発動脈炎に限らず,他の壊死性血管炎,過敏性血管炎,アレルギー性肉芽腫性血管炎,ウェーゲナー肉芽腫症なども,類似の症状・病変を示すことから,膠原病の範疇(はんちゆう)に入れられている。…

※「結節性多発動脈炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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