結界(読み)けっかい

精選版 日本国語大辞典 「結界」の意味・読み・例文・類語

けっ‐かい【結界】

〘名〙
① 仏語。区域を制限する意。
(イ) 仏道修行に障害のないように、特定の作法によって、一種の聖域を区切り、定めること。また、その聖域。これには、布薩などを行なうために区域を制限する摂僧界(しょうそうかい)、衣を脱いでも過ちとならない区域としての摂衣界、食物に関する制戒を犯したことにならない場所と定められた摂食界の三種がある。また、範囲の上からは、大結界、中結界、小結界の三種に分けられる。
※東南院文書‐二・五・天喜四年(1056)五月三日・官宣旨案「切散血肉、汙結界霊地、打破障隔、愕修学禅窓」
(ロ) 密教で、魔の障難を払うために、道場の一定区域を制限すること。
※三代実録‐元慶元年(877)八月五日「五日癸夘。於内裏。限以五日。結界修法」
(ハ) 仏道修行の障害となるもののはいるのを許さないこと。また、その地や場所。女人結界はその一例。結界場。潔戒。
※正法眼蔵(1231‐53)礼拝得髄「またかの結界と称するところにすめるやから、十悪をおそるることなし」
(ニ) 仏前内陣と外陣、または外陣の中で僧と俗との座席を区別するために設けられた木の柵。
② 商家で、帳場の囲いとして立てる高さ約六〇センチメートルの三枚折りの格子。帳場格子
※あの道この道(1928)〈十一谷義三郎〉一「店の結界(ケッカイ)のうしろの金箱には」
③ 一般に、区域を制限すること。また、その区域・場所。また、人を自分のまわりに近づけないようにすること。
※大英游記(1908)〈杉村楚人冠後記「結界(ケッカイ)の内に在る大きな荷物に関係ある者は」
④ 茶道具の一つ。客畳が道具畳に接続している場合、その境界を表示するための置物。竹、木の枝などでつくるが転用物も多い。風炉先屏風の代用品に類するもの。座障。座頂。
[補注]大結界は国土を限定するもので、空海が高野山建立の際に七里四方を結界し、悪鬼等を退散させようとしたのはこれにあたる。中結界は修法の道場を結界し、小結界は修法壇の周囲を結界するもの。これらの結界は白二羯魔(びゃくにこんま)の法によって行なわれるが、密教では印明を用いる。

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デジタル大辞泉 「結界」の意味・読み・例文・類語

けっ‐かい【結界】

仏語。
㋐教団内の僧が戒律を犯さないように一定の区域を制限すること。また、その区域。外からの出入りを制限する摂僧界しょうそうかい、衣を脱いでも過ちとならない摂衣界しょうえかい、食物の貯蔵が許される摂食界しょうじきかいがある。
㋑密教で、修法によって一定の地域に外道・悪魔が入るのを防ぐこと。
㋒仏道修行の障害となるものの入ることを禁じること。また、その場所。
㋓寺院で内陣と外陣げじんの間、または外陣中に僧と俗の席を区別するために設けた木のさく
茶道具の一。竹や木でつくり、道具畳と客畳の境に仕切りとして置くもの。
商家で、帳場の囲いとして立てる格子。帳場格子。

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改訂新版 世界大百科事典 「結界」の意味・わかりやすい解説

結界 (けっかい)

サンスクリットないしパーリ語sīmābandhaを漢訳したものといわれている。日本には,中国から仏教とともに渡来した言葉である。sīmāは〈界(さかい)〉,bandhaは〈結ばれた〉の意であるから,〈結ばれた界〉の意になる。sīmāだけでも結界すなわち浄域の意味に用いられる。界を結ぶことによって空間を界の内・外に分け,内側を浄(聖)域,外側不浄(俗)域としたものである。仏教における結界は,もともと教団に所属する僧尼の秩序を保つために止住の場所を限ったものであり,とくに密教においては道場を建立するにあたり魔障の侵入を防ぐために呪法によって結界したものである。日本に渡来ののち,この言葉は,聖俗を区分し,空間の内外を限る装置,それらの装置によって限られた内部空間,さらにはそのような内部空間への立入りの禁制といった意味で用いられてきたが,日常語としてはほとんど死語にちかくなっている。日本固有の代表的な結界としては標(しめ)がある。標縄・注連縄(しめなわ)のシメであり,注連縄もシメの一つである。シメはシメる(占める)ことを意味しながら,外に対しては占有をシメす(示す)ものとなっている。したがってシメのある場所に外の者が無断で立ち入ることはできない。標野(しめの)は禁野であり結界地なのである。〈標結(しめゆ)う〉は,〈結界する〉ことを意味するが,これは〈印〉を結ぶ意であって,かならずしも界を結ぶ意ではない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「結界」の意味・わかりやすい解説

結界
けっかい

仏教で一定の場所を決定し、聖なる目的のために利用すること。「界を結する」の意で、界の境界を示す石を結界石(せき)という。仏教の出家教団(僧伽(そうぎゃ))は団体生活をしたから、会議のときには一定の地域内の僧は特定の場所に集合した。この地域の限界を大界(たいかい)といい、また摂僧界(しょうそうかい)という。大和(やまと)国(奈良県)の室生(むろう)寺や東大寺戒壇院などに大界の外相を示す結界石が残っている。集会(しゅうえ)の場所(集会堂)も結界によって決定され、これを小界(しょうかい)という。僧はこの中で宗教儀式を行い、とくに受戒の儀式を行うので戒壇(戒場)ともいう。密教で修法をする場所(道場)の界区を決めることを結界というのも、この小界の一種である。このほか原始仏教では、僧が三衣(さんえ)を離して宿泊してよい範囲を結界することを摂衣界(しょうえかい)といい、食物庫を結界することを摂食界(しょうじきかい)という。日本で、空海(くうかい)が高野山(こうやさん)に結界して女人の入ることを禁じ、最澄(さいちょう)が比叡山(ひえいざん)に結界して12年間の下山を禁じたのも、摂僧界の一種とみてよい。真宗などでは本堂の外陣(げじん)と内陣とを分ける木の柵(さく)を結界というが、これも聖なる場所の決定の趣旨から出たものとみられる。

[平川 彰]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「結界」の解説

結界
けっかい

一定の区域を限って障害を避け,修行の場とすること,またその区域。律宗では,受戒や懺悔・自己反省の布薩(ふさつ)を行うために他の人を入れない摂僧界(しょうそうかい),比丘(びく)が三衣(さんえ)(儀式・礼拝・作業の3種の僧衣)を離れて宿さないように一定の地域を区切って護持する摂衣界(しょうえかい),乞食(こつじき)を原則としみずからの調理を制限された比丘が病気などのために調理を許される摂食界がある。密教では,ある区域を設定し,印や真言で魔障のない宗教的空間とする。修験道では,道場となる山などを竹やしめ縄で区切る。空海は高野山の7里四方を結界したが,これは大結界である国土結界に属し,このほか中結界の道場結界,小結界の壇上結界がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「結界」の意味・わかりやすい解説

結界
けっかい
sīmābandha

仏教用語。教団に所属する僧尼が規則に合った適切な行動を守るために,ある一定の地域を限ること。密教では,修法を行う場所に魔障が来ないよう一定地域を限ること。転じて,商家で帳場の囲いとして立てる格子や,茶室で客畳と道具畳の境界を示す置物の意にもなっている。

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葬儀辞典 「結界」の解説

結界

一定の場所をくぎり、その内側を聖域として外側から不浄なものが入らないようにすること。仏式の葬儀では幕(神式では、しめ縄)で結界をつくります。

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普及版 字通 「結界」の読み・字形・画数・意味

【結界】けつかい

戒の境域。

字通「結」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の結界の言及

【下座音楽】より

…さらに現行のような黒御簾の位置と形式になったのは安政(1854‐60)ごろからである。一方,上方では,明治末期まで上手側舞台ばな寄りに設けられた結界(けつかい)の内側で演奏されており,その場所を〈下座〉とは称していなかった。したがって,〈下座音楽〉という呼称は,創始期以来の歌舞伎の囃子全般を指すには,必ずしも適切な用語ではない。…

【帳場格子】より

…和風の商店,旅宿などの帳場(勘定や帳付をするところ)の三方を囲う細かいたて格子。結界ともいう。この囲いの中に主人や番頭がすわって机に向かい,商売の事務をとる。…

【女人禁制】より

…後者の場合は時間に制約されずつねに女性を排除すべき対象としており,これには,いうまでもなく若者組,僧侶など男性に限られる集団や組織,漁業や狩猟の習俗に認められるように男女間の労働内容の差が明確にされ,男性の労働とされるものへの女性参加が禁止されているものと,社寺や山岳など一定の聖域に女性の立入りを禁ずるものとがある。このうち,これまで女人禁制の習俗として注目されてきたのは,単に性の差にとどまらず女性を穢れ(けがれ)の多いもの,不浄なものと考える不浄観と結びついて,神祭への女性参加を禁止する習俗や,社寺,山岳などが結界(けつかい)を設けて女性の立入りを禁止する習俗であった。しかしながら,女性を不浄とする観念を本来的なものとみることには疑問がある。…

※「結界」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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