結晶誘発性関節炎

内科学 第10版 「結晶誘発性関節炎」の解説

結晶誘発性関節炎(リウマチ性疾患)

定義・概念
 結晶誘発性関節炎は関節内に沈着した結晶によって引き起こされる急性ないしは亜急性関節炎の総称であり,尿酸塩(monosodium urate:MSU)結晶による痛風(gout)とピロリン酸カルシウム(calcium pyrophosphate dihydrate:CPPD)結晶による偽痛風(pseudogout)が代表的である.偽痛風はCPPD結晶沈着症の一病型である.関節炎の治療は非ステロイド系抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)が中心となり,痛風では高尿酸血症の是正によってMSU結晶を除去することが可能であるが,偽痛風ではCPPD結晶を融解除去するような根本療法はない.
分類
 MSU結晶やCPPD結晶に比べて頻度は低いが,ヒドロキシアパタイトやシュウ酸カルシウム,副腎皮質ステロイドエステルなど種々の結晶が結晶誘発性関節炎の原因となる.
原因・病因
 尿酸はナトリウムイオンの多い体液中では98%がイオン化したナトリウム塩として存在し,pH 7.4,ナトリウム濃度130 mEq/L,37℃の溶液中での溶解度は7.0 mg/dLで,血清尿酸値が7.0 mg/dLをこえた高尿酸血症の状態が長期間持続するとMSU結晶が組織に析出して沈着する.CPPD結晶が軟骨基質に沈着する原因は明らかでないが,局所には無機ピロリン酸濃度が増加しており,無機ピロリン酸を供給する軟骨細胞の細胞外酵素であるnucleoside triphosphate pyrophosphohydrolase(NTPPPH)やANKとよばれる膜蛋白チャネルなどの機能異常が沈着機序として推定されている.ANKの遺伝子(ANKH変異による家族性CPPD沈着症が報告されている.
疫学
 わが国の痛風患者は2010年度の国民生活基礎調査で95.7万人と推定され,25年前の調査と比較して4倍近くに増加している.圧倒的に男性患者が多い.特発性のCPPD結晶沈着症は高齢者に多く,有病率は65~75歳で10~15%,85歳以上では30~50%と加齢とともに増加する.性差はみられない.遺伝性や代謝疾患に合併したCPPD沈着症は55歳以下に多い.偽痛風はCPPD沈着症の25%にみられる.
病理
 関節腔内の軟骨や滑膜ないしは関節液中へのMSU結晶の析出は痛風関節炎に関連し,進行した痛風では痛風結節を形成する.痛風結節はMSU結晶を含んだ一種の肉芽腫であり,皮下組織,骨,腎間質などにみられる.偽痛風では半月板や椎間板などの線維軟骨に最も高度の石灰化がみられるが,関節包,関節軟骨などの硝子軟骨や腱,十字靱帯などにも石灰化がみられ,石灰化部位には種々の大きさのCPPD結晶の集合体が沈着している.
病態生理
 痛風関節炎も偽痛風発作も関節腔内に析出した結晶に対する生体の異物除去反応と考えられる.関節腔内に剥離した(crystal sheding)結晶を多核白血球が貪食してライソゾーム酵素が放出されることで炎症は完成するが,その過程には単球,マクロファージ,滑膜細胞などが産生するサイトカインやプロスタグランジン・ロイコトリエンなどが炎症性メディエーターとして複雑に関与する.関節炎の初期反応としてNLRP3インフラマソームを介するIL-1βの活性化が重要と考えられている.
臨床症状
 両疾患とも自然寛解する単関節炎をきたすが,痛風の方がより激烈である.関節炎の持続期間は痛風が数日~2週以内で,偽痛風の方が概して長く1カ月に及ぶものもまれならずある.痛風関節炎の好発部位は母趾の中足趾節関節(図10-17-1),その他の足趾関節,足関節,膝関節などであり,偽痛風は膝関節に好発するが,股関節,肘関節,足関節,手関節などにも発症する.いずれも発作は外傷,外科手術,心筋梗塞などの身体的ストレスで誘発されやすいが,血清尿酸値の大きな変動が最も痛風関節炎を誘発させやすい.
検査成績
 局所の炎症を反映して白血球増加やCRP高値がみられる.罹患関節が大きい偽痛風の方がこれらの数値は高い傾向にある.進行した痛風ではX線写真で骨びらんや骨の打ち抜き像がみられることがあるが,初期には軟部組織の腫脹がみられる程度で特徴的な所見はない.偽痛風では罹患関節のX線写真でCPPD結晶沈着に基づく点状もしくは線状の軟骨石灰化(chondrocalcinosis)像がみられる(図10-17-2).
診断
 確定診断は関節液中で白血球に貪食された結晶を証明することであるが,痛風では特徴的な臨床症状から構成される診断基準に従って診断するのが通常であり,偽痛風はX線写真の軟骨石灰化像で診断するのが一般的である.
鑑別診断
 化膿性関節炎,回帰性リウマチ,外傷性関節炎などの急性関節炎や,変形性関節症,外反母趾,蜂窩織炎など,関節痛をきたすすべての疾患が鑑別対象となる.痛風と偽痛風との鑑別には偏光顕微鏡による関節液の鏡検が有用である(図10-17-3).
合併症
 痛風では関節炎のほかにも腎結石や腎機能障害,高血圧,耐糖能異常,脂質異常症を合併することが多い.偽痛風は変形性関節症をよく合併する.また,原発性副甲状腺機能亢進症やヘモクロマトーシス,低マグネシウム血症などのミネラル代謝異常に伴うCPPD結晶沈着症もある.
経過・予後
 痛風の予後は動脈硬化性疾患の発症に左右され,高尿酸血症を是正することで痛風関節炎の再発は完全に防止することができるが,高血圧や糖・脂質代謝異常などの合併症対策を疎かにすると,長期予後の改善は期待できない.偽痛風では高度な関節破壊や発作が反復する場合は日常生活に支障をきたすが,一般に予後は良好である.
治療・予防
 両疾患とも発作に対してはNSAIDs投与が一般的である.偽痛風では関節内洗浄,副腎皮質ステロイド薬の関節内注入なども行われる.いまのところCPPD結晶の沈着を防止したり,結晶を融解除去する治療法はなく,偽痛風の治療は対症療法に終始する.MSU結晶は体液中の尿酸濃度を溶解度以下に低下させることで融解除去することが可能で,生活習慣の改善を目指した生活指導に加えて尿酸降下薬による薬物治療が行われる.急激な尿酸値の下降は痛風関節炎を誘発しやすいため,尿酸降下薬は関節炎の消褪後に最少量から開始し,血清尿酸値の推移をみながら漸増して,血清尿酸値が6.0mg/dL以下を維持するようにする.[藤森 新]
■文献
日本痛風核酸代謝学会,高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン改訂委員会編:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版),メディカルレビュー社,東京,2010.
Schumacher HR, Chen XI: Gout and other crystal-associated arthropathies. In: Harrison’s Principles of Internal Medicine. 17th ed (Fauci AS, Braunwald E, et al ed),pp2165-2169, McGraw-Hill, New York, 2008.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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