組織(社会学)(読み)そしき(英語表記)organization

翻訳|organization

日本大百科全書(ニッポニカ) 「組織(社会学)」の意味・わかりやすい解説

組織(社会学)
そしき
organization

もっとも広義には、ある機能を遂行するように制御されている諸要素の集合である。普通には、人々からなる組織をさしており、特定の目標を達成するために人々の諸活動を調整し統括するシステムのことを意味する。諸活動を調整し統括するには、そこになんらかの指導・管理の主体が存在しなければならない。それは1人の指揮者の場合もあるし、スタッフをもつ管理機関の場合もある。数人の歩行者が道路をふさぐ石を動かすために、1人の指図で全員が力をあわせるとき、そこに小さい一時的な組織が形成されている。また多数の職員をもつ官庁は、職階を通じて管理される恒常的な大組織をもっている。

 指導・管理の主体によって秩序が維持されているような集団は団体とよばれている。この団体が掲げる目標は、その達成のために組織を必要とする。この意味において、組織とは、典型的には団体の組織として、団体の内部に存在するのである。しかし概念拡張によって、今日ではしばしば組織は「組織された団体」をさし、組織体と別称されることがある。これは、現代の社会で巨大な団体が林立し、複雑な組織が発達していることの反映ともいえる。組織という社会現象は、かつては集団や団体の社会学によって論じられたが、今日では学際的な組織科学の研究対象となっている。

[塩原 勉]

組織の要素と要件

組織理論の基礎をつくったアメリカの経営学者バーナードChester Irving Barnard(1886―1961)によれば、組織が成立するための基本的な要素は、共同目的、コミュニケーション、および協働意欲の三つである。したがって管理主体の職能は、目的を適切に定義して意思決定すること、コミュニケーション体系を維持すること、および積極的な協働意欲を開発することである。組織が成功裏に存続できるかどうかは、二つの要件が等しく充足されるかどうかによる、と彼は考えた。すなわち、〔1〕共同目的が達成されること、〔2〕組織に関与する人々の個人的な目標が達成されること(つまり欲求が満たされること)である。要するに組織目的の達成と参与者欲求の満足とが同時に実現されることこそが、組織の成功の目安である。しかしこれは容易なことではない。それゆえに管理主体の適切な職能の遂行が不可欠になるのである。

[塩原 勉]

組織構造のとらえ方

20世紀初期には、国民皆兵の軍隊や大量生産の工場のような規律ある大組織への関心が強まるにつれ、機械を手本にして組織をつくり、合理性と能率を最大にしようという考え方が出てきた。その典型的なものがM・ウェーバーが指摘した官僚制であった。それは、規則の重視、明確な権限と職階制、業績本位の人員配置、規律と専念、専門知識、文書によるコミュニケーション、公私の厳しい区別を特徴としている。要するに、組織は能率をあげるために機械的に編成されるわけである。しかし、組織は機械のように設計どおりに動くものではない。それどころか組織は変形しながら生存する有機体のようなものと考えられる事実が明らかになってきた。たとえば、組織のなかで成員たちが相互作用を繰り返すうちに自然発生的に非公式な小集団が創発してきて組織行動全体に影響を及ぼすという事実、あるいは、本国の基地にいる空軍部隊の組織構造と前線基地でのそれとが異なるというように、環境が変わると組織構造が変わるという事実、さらには肝心の組織目標そのものが自然に変容してゆくという事実などが知られるようになり、組織は機械ではなく、適応的なシステムであるという考え方が有力になってきた。

 他方、適応的なシステムだとみる考え方に対する批判も出てきた。すなわち、組織には固有の緊張ジレンマが内在していて、それを近似的に解決するための絶えざるくふう改善によって組織は存続しているとする主張がそれである。たとえば、組織の内部で権威の源泉が二つあること、つまり技能に基づく権威と規律に基づく権威が同時に存在することが固有の緊張源になっていること、あるいは秩序と自由の二律背反に根ざすさまざまなジレンマが組織に内在しているということが明らかになった。

[塩原 勉]

近年の組織論

1960年代の前半までに以上のような考え方がみられたが、近年の組織論はそのような論議を踏まえてさらに進展してきた。まずコンティンジェンシーcontingency理論の登場が注目される。この理論の基本命題は「環境特性に適合する構造をもつ組織は、そうでない組織よりも、高い有効性を示す傾向がある」というものである。技術や組織規模といった要因が異なれば、それに対応して有効な組織構造のあり方も異なるということは、すでに知られた事実であったが、さらに環境特性に目が向けられるに至ったわけである。たとえば、次のような発見がある。安定し見通しのきく確実な環境に直面している組織は、官僚制型の構造をとる場合に有効性が高い。逆に不安定で見通しのきかない不確実な環境に直面している組織は、非官僚制型の構造をとる場合に有効性が高い。このような調査結果が示唆するものは、ただ一つの最善の普遍的な構造は存在しないということである。

 このコンティンジェンシー理論に対しては、いくつもの批判がある。第一に、環境への適合を重視しすぎて、組織による環境改変を軽視していること、第二に、環境の変化に対する組織の側の構造の革新がどのように進むのか明らかでないことが指摘される。そこで組織の変化に注意が向けられるに至った。そして組織は混乱や緊張をもともと含むものであって、突然変異として新しい観念や行動様式が絶えず組織内で生じており、それらを選択しつつ採用してゆくところに、組織の創造的進化と自己組織化があると考えられるようになった。ただし、組織進化の型は複数あり、環境特性と関連している。

[塩原 勉]

『C・I・バーナード著、山本安次郎他訳『経営者の役割』(1968・ダイヤモンド社)』『H・A・サイモン他著、土屋守章訳『オーガニゼーションズ』(1977・ダイヤモンド社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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