組織(生物)(読み)そしき(英語表記)tissue

翻訳|tissue

日本大百科全書(ニッポニカ) 「組織(生物)」の意味・わかりやすい解説

組織(生物)
そしき
tissue

生物体を構成している形態上の単位の一つ。多細胞生物においては、発生の進行に伴って細胞が形態的、機能的に分化し、一般に同じ種類の細胞が集合して一定の働きを営むように配列している。このような有機的細胞集団を組織という。

[川島誠一郎]

動物の組織

動物の組織は、形態と機能から、上皮組織結合組織軟骨組織、骨組織、血液とリンパ、筋組織、神経組織の七つに分けられる。これらのうち、結合組織から血液とリンパまでの四組織は発生学的にすべて間充織(間葉組織ともいう)に由来し、まとめて支持組織、あるいは広義の結合組織とよばれることがある。組織の分類はかならずしも発生学的起源を基準にしたものではなく、たとえば、神経組織は神経管上皮に由来するが、発生の進行に伴って上皮の形態学的特徴を失うので、神経組織として別にされる。

 上皮組織は、体表面、消化器や呼吸器の管腔(かんこう)、腹膜腔や心膜腔の体腔などの表面を、一層から数層の細胞ですきまなく覆っている。隣り合う細胞は密着し、細胞間質がほとんどない。上皮組織はときに陥入し、分泌細胞群(腺(せん)組織)をつくる。視覚、聴覚、平衡覚の感覚上皮や毛、つめのように特殊な性質を獲得した上皮もある。

 支持組織には細胞間質が豊富で、骨、軟骨、結合組織は体や器官の形を保つ枠組みとして働いている。細胞間質は繊維と基質とからなり、細胞はそれに埋もれて散在する。血液とリンパを支持組織のなかに入れるのは、血漿(けっしょう)やリンパ漿を基質、フィブリンを繊維とみなすことができるからである。

 筋組織は収縮運動を営む筋細胞からなる。筋細胞は全体として細長い繊維状の外形をとるので、筋繊維とよばれる。筋は横紋筋と平滑筋に分けられ、横紋筋は一般に強力ですばやい収縮と緊張を行い、平滑筋は緩やかな収縮と緊張にあずかる。

 神経組織は神経細胞(ニューロン)と神経膠(こう)細胞(グリア細胞)からなり、生体情報の有線的伝達を行う。高等動物では、脳と脊髄(せきずい)を中枢神経系、これらより外に出るものを末梢(まっしょう)神経系という。中枢神経系は神経組織に血管と結合組織が加わったものである。神経細胞体の多い部分を灰白(かいはく)質、神経繊維の多い部分を白質とよぶ。グリア細胞はどちらの部位にも多数存在する。末梢神経系も神経細胞と繊維、および繊維を取り巻くシュワン細胞(グリア細胞に相当)が主成分である。神経細胞は、高等動物では一生の早期に細胞分裂を行い、成体では分裂能力をもたない。神経細胞の機能を支持するグリア細胞は、一生を通じて分裂能力を維持している。

[川島誠一郎]

植物の組織

維管束植物における組織は、構成する細胞の種類や形状、細胞壁の性質、起源や発達段階、あるいは細胞や組織の果たす生理作用などによっていろいろに分けられる。

 茎と根の先端にはそれぞれ成長点があり、この部分は活発に分裂を続ける未分化の細胞からなっているため、頂端分裂組織、または、この組織が直接胚(はい)の両端に由来することから一次分裂組織ともいう。このほか、形成層やコルク形成層を側部分裂組織または二次分裂組織という。これらの分裂組織で生じた多数の若い細胞は、やがて成熟して一定の形となり、特定の生理機能を営む各種の組織に分化する。これを永久組織という。永久組織は、成長点すなわち一次分裂組織から直接由来する一次組織と、側部分裂組織に由来する二次組織とに分けられる。

 植物体の成熟した部分の永久組織にはいろいろな組織が含まれているが、そのうち、同一種類の細胞からなる組織を単一組織、2種以上の細胞からなる組織を複合組織という。

 単一組織の主要なものに柔組織がある。柔組織は葉肉、茎や根の皮層や髄、果肉など一次組織の多くを占め、ほぼ等径またはそれに近い多面体で、細胞壁は薄く、原形質を含む生きた組織である。柔組織の生理的な働きはきわめて多様で、葉肉のように細胞内に葉緑体を含有し、もっぱら光合成を営む同化組織、細胞内にデンプンやタンパク質などの貯蔵物質を蓄える貯蔵組織などさまざまに分かれる。柔組織以外の単一組織としては厚角組織や厚壁組織がある。また、二次組織に特有の単一組織にはコルク組織がある。

 複合組織には維管束の木部と篩部(しぶ)がある。たとえば、木部は道管、仮道管、木部繊維木部柔組織からなる複合組織であり、全体として水分の通道や植物体の支持などの役割を果たしている。

 なお、藻類の一種であるワカメやホンダワラなどの体のつくりはかなり複雑であるし、コケ植物には茎や葉をもつ種類もある。しかし、これらの植物では、外形は複雑にみえても、体を構成している細胞にはそれほど著しい分化はみられないため、シダ植物や種子植物などの維管束植物でいう組織は認められない。

 以上のような多種多様な組織のうち、植物体における存在位置、発生、機能などの面で互いに密接な関係にあるいくつかの組織をまとめて、組織系という高次の構造単位が設定されている。組織系の分け方は植物学者によって異なるが、主要なものとして次の三説をあげることができる。しかし、これらの説にも多少の問題点は含まれている。(1)ザックスの説 ドイツのJ・von・ザックスは、1868年、植物体を表皮系、維管束系、基本組織系の三系に分けた。表皮系は表皮とそれに付属する気孔や各種の毛からなり、維管束系は木部と篩部からなる。また、基本組織系は前二者を除く他の部分である。この分け方は広く行われているが、基本組織系に含まれる組織があまりにも多様である点に批判もある。(2)ファン・ティーゲンの説 フランスのファン・ティーゲンP. E. L. van Tieghemは、1886年、植物体を表皮、皮層、中心柱の三組織系に分けた。中心柱は維管束とその外部の内鞘(ないしょう)、および髄をあわせた部分である。この説は組織の形態、発生、系統などを考慮したものであり、茎や根のような軸状の器官については広く採用されているが、葉のような平面的な器官には適用しにくい。また、種子植物の茎では、皮層と中心柱との境界が明確でない場合が多い。(3)ハーバーラントの説 ドイツのハーバーラントは、1914年、植物生理解剖学の見地から、植物体を組織の営む機能に基づいて次の12系とした。すなわち、分裂組織、皮膚組織、機械組織、吸収組織、同化組織、通道組織、貯蔵組織、通気組織、分泌組織、運動組織、感覚器、刺激伝達組織である。この説は、とくに植物生理学や生態学の面から支持を受けているが、組織系によっては、主要な生理的機能がなんであるかが不明確な場合もあるほか、組織の発生がまったく考慮されていない点などに問題がある。

[相馬研吾]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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