細見(読み)さいけん

精選版 日本国語大辞典 「細見」の意味・読み・例文・類語

さい‐けん【細見】

〘名〙
① (━する) くわしく見ること。
※小右記‐正暦四年(993)正月二二日「余遂不参上、仍不細見
② 地図、案内書など、詳細に見られるように作って示したもの。「五海道中細見記」
③ 特に、妓楼名、遊女名、揚げ代などを細かに記した遊里の案内書。主として、江戸吉原のものをいう。
※談義本・教訓続下手談義(1753)五「粋には成たそふで細見(サイケン)買て熟読するが多し」
[語誌](③について) (1)大正五年(一九一六)まで出版されたが、初期の刊行は断続的で、一枚刷りの大絵図であった。享保以後は年々に刊行されて、享保一二年(一七二七)に伊勢屋版・鱗形屋版で初めて冊子仕立てで発行された。
(2)安永四年(一七七五)蔦屋重三郎が美濃半截竪型で、町筋を挟んで娼家が上下睨み合いになる新趣向の「籬(まがき)の花」を刊行し、寛政期(一七八九‐一八〇一)に判型が半紙半截に縮小されたが、上下睨み合い形式は踏襲されて定型となった。
(3)江戸では吉原細見以外に、品川・新宿の宿場や岡場所の細見、特殊なものとしては男色・夜鷹の細見がある。また、評判記内容を細見に見立てた歌舞伎細見や名物細見、狂歌師細見・俳諧師細見などもある。

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デジタル大辞泉 「細見」の意味・読み・例文・類語

さい‐けん【細見】

[名](スル)
詳しく見ること。「資料を細見する」
詳しく示した地図・案内書など。「五街道細見
江戸時代から明治にかけて刊行された江戸吉原の遊里案内書。遊女・遊女屋揚屋などが記載されている。吉原細見。
[類語](1まじまじじっとじろじろじろりきょろりぎょろりきょときょときょろきょろぎょろぎょろしげしげつくづくはたきっとはった明視がん熟覧嘱目瞠若どうじゃく瞠目どうもくめつすがめつの目たかの目のみ取りまなこ視一視目する見入る見張る見澄ます目を凝らす注目虎視虎視眈眈たんたん注視刮目かつもく目配り凝視目撃着目着眼直視正視見る眺める見遣る見詰める見据えるにら目に留まる目を留める目を配る目を注ぐ目を付ける目を向ける目をくれる視線を注ぐ目を遣る目にする目を据える瞳を凝らす瞳を据える目を奪われる目を輝かす目を光らす目を転ずる目を向ける目が行く目を皿にする

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改訂新版 世界大百科事典 「細見」の意味・わかりやすい解説

細見 (さいけん)

江戸時代から明治期まで発行された遊郭の案内書。略地図,家並図,妓楼(ぎろう)名,遊女名,遊女の階級合印(あいじるし),揚代(あげだい),芸者名,年中紋日(もんび)などを記す。遊郭の手引書としては遊女評判記の出版が先行しているが,1642年(寛永19)刊の《あづま物語》は案内書的性格が強いので細見の起りとされる。その後,遊女評判記から遊女の品評文を除き,家並図に妓名を入れた地理的案内書として独立したものが細見として定着した。初期の細見は一枚摺(いちまいずり)であったが,1730年(享保末)ごろから小型横本に,79年(安永8)から竪本(たてぼん)となり,毎年1~3回発行された。火災による仮宅(かりたく)営業中は仮宅細見を発行した。以上は吉原細見の例であるが,もちろん他の遊郭の細見も出版され,その土地の特殊性を反映させた。しかし,量的には吉原細見が抜群であり,ことに竪本以後は蜀山人,山東京伝ら著名文人序文を執筆したことで,吉原細見をいっそう有名にした。《一目千軒》(京都島原),《澪標(みおつくし)》(大阪新町)などの花街案内書に細見風の記事があるが,改版数で吉原細見に及ばない。また,細見は浮世草子(《傾城色三味線》など),洒落(しやれ)本(《両巴巵言(りようはしげん)》など)などの江戸文学との関係も深い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「細見」の意味・わかりやすい解説

細見
さいけん

江戸~明治時代に出版された遊廓(ゆうかく)案内書。遊廓内の家並みを図示し、各妓楼(ぎろう)ごとの抱え女の妓名・階級、遊興費用や男女芸者名などを掲載してある。遊廓案内書としては、遊女の容色・技芸・特徴などを品評した遊女評判記が先行したが、そのなかに挿入された地理案内が独立したものである。初めは一枚摺(ずり)であったが、享保(きょうほう)(1716~36)ごろから冊子型となった。江戸・新吉原のものが細見の代表で、享保末年から明治初年までほぼ毎年1回以上刊行され、火事で仮宅(かりたく)営業のときには仮宅細見を出すほどであった。細見とは細部を描いた地図のことで、街道案内で知られる『五海道中細見記』(1858)のように用いる。

[原島陽一]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「細見」の意味・わかりやすい解説

細見
さいけん

江戸時代から明治初期まで発行されていた評判記の一種。遊里の案内書,地図などをいう。揚屋 (あげや) ,茶屋,遊女の名および位付け,揚代などを詳細に記している。吉原 (よしわら) のものが最も多く,細見といえば吉原細見をさすようになった。遊女の紋を集めた紋尽しや遊女の名寄せの類を起りとし,寛永 19 (1642) 年刊『あづま物語』あたりを嚆矢とする。正徳3 (1713) 年刊『吉原大評判ゑにし染』などの頃から横本の細見の型ができ,安永 (72~81) 頃から竪本となり,以後明治初年にいたるまで継続。書名も竪本になると『吉原細見』とのみ記され,蜀山人,山東京伝らの文人,戯作者らが序文を書いて人気を呼んだ。

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