細菌類(読み)さいきんるい(英語表記)Bacteriomycota

日本大百科全書(ニッポニカ) 「細菌類」の意味・わかりやすい解説

細菌類
さいきんるい
Bacteriomycota

広義では原核菌類をさすが、狭義では、原核菌類のうち、マイコプラズマ類、粘液細菌類、スピロヘータ類、放線菌類は除かれる。普通に細菌といわれるものは、狭義の細菌類に含まれる場合が多い。細菌類は細胞壁のある微小な単細胞体で、不動か、または鞭毛(べんもう)によって運動する。栄養法は一般に他養(他力栄養=従属栄養=有機栄養)であるが、一部には他の生物群に例のない各種の自養(自力栄養=独立栄養=無機栄養)がみられる。

[寺川博典]

生態と栄養

細菌類は、腐生、あるいは寄生・共生して他養を行うか、自生して、必要とする有機物を自力で無機物からつくりあげる。細菌類は地球上の至る所にすむが、とくに肥沃(ひよく)な土壌や水中に多く、1グラム中には30億以上の細菌が含まれる。一般に20~50℃で生育するが、これ以外の低温菌や高温菌もある。細菌類は各種の栄養法によって自ら生きると同時に、重要元素(炭素、窒素、硫黄(いおう))の地球規模での循環に重要な役割を果たしている。また、その働きによる種々の生産物は人間によって利用される。たとえば、乳酸、酢酸、グルコン酸などの有機酸、グルタミン酸その他のアミノ酸アミラーゼプロテアーゼなどの酵素剤、アセトンブタノール、ビタミンC、代用血清となるデキストラン、抗菌性抗生物質、さらには、細菌性ワクチン、免疫血清ヨーグルト、チーズ、納豆などがある。

〔1〕栄養法の基本型 細菌類が有機物をつくるには、炭素源と水素供与体とエネルギー源が必要である。この三つに注目すると、栄養法には次のような基本型があることとなる。まず、エネルギー源、つまりATP(アデノシン三リン酸)を生成するリン酸化には、酸化還元反応によるものと光化学反応によるものとがある。前者は細菌類に一般的で、解糖系、クエン酸回路系、呼吸酵素系で行われる。こうした基本型のすべてがみられるのはシュードモナス綱に限られ、そのうち、光化学反応によるものは紅色細菌類でみられる。

〔2〕酸素との関係 細菌類の栄養法の基本型は、分子状酸素との関係によって、多様化している。嫌気性のものもあるが、むしろ好気性のものが多い。他養菌関係についてその栄養法をみると、嫌気他養には嫌気発酵(酪酸菌など)と嫌気呼吸バチルスなどでみられる硝酸呼吸その他)とがある。好気他養には好気発酵(酢酸菌など)と一般的な酸素呼吸とがある。任意他養は環境条件によって嫌気発酵を行い、あるいは酸素呼吸か硝酸呼吸を行う(大腸菌)。酸素呼吸は、とくに土壌中で盛んで、これによって有機物を酸化して二酸化炭素を生ずる。体重1キログラム当りの酸素消費量をヒトと比較すると、細菌類の消費量はヒトの数百倍から数万倍で、アゾトバクターでは6万倍となる。

[寺川博典]

体制

〔1〕形態 細菌類の形と大きさは条件によって変わることはあるが、一般に、球菌は直径が0.5~1マイクロメートル、桿菌(かんきん)はほぼ球菌の長さで、幅はその2分の1ないし7分の1である。コンマ菌は1回湾曲した形であり、らせん菌は4~20回巻いた形である。特徴的な細胞集団をつくるものとしては、8細胞が立方体状に並ぶ八連球菌、細胞が連鎖状の連鎖球菌・連鎖桿菌、細胞が不規則塊状となるブドウ球菌などがある。これらとは異なる特殊細胞集団として毛状体がある。毛状体は多細胞体ではないが、一列に並んだ細胞間が密接であり、さらに細胞間に分化が現れて支持細胞(付着器)になるものや生殖細胞になるものもある。細菌類の鞭毛は真核生物の鞭毛よりも構造が簡単であり、微細構造や運動形式も異なっている。また、細菌類の鞭毛は脱落しやすい。形態的にみると、チフス菌は体周に8~12本の鞭毛をもつ周生多毛菌であるし、コレラ菌は一端に1本の鞭毛がある極生一毛菌である。このほか、一極生および両極生多毛菌もある。

〔2〕細胞表層 細菌類の細胞膜は脂質分子からなる二つの層の内外にタンパク質が散在しているとみられる薄い膜であって、呼吸関係酵素のほか、少数のものでは光合成関係の電子伝達系酵素を含んでいる。細胞膜の外側にある細胞壁には、1層のもの(グラム染色反応陽性菌)と2層のもの(グラム染色反応陰性菌)とがある。前者はペプチドグリカンテイコ酸が主成分であり、後者は少量のペプチドグリカンとリポ多糖・リポタンパク質からなっている。ところで、ほとんどの細菌細胞は少なくともある時期には粘液層で覆われる。粘液層にはポリペプチドの場合と多糖類の場合とがあるが、細胞を有害なものから保護する役を果たしている。細菌によっては莢膜(きょうまく)がその役を果たすことがある。莢膜は寒天状の厚い層で、その主成分は莢膜多糖である。たとえば連鎖球菌ではヒアルロン酸である。

〔3〕細胞内構造 細菌類の原核(核酸DNA)はギムザ染色などで選択的に染色され、染色された粒状部は核様体とよばれる。DNAは細胞膜またはリソゾームに連絡している。リソゾームとは、細胞膜が一部で陥入し、巻き込むようにしてできた膜構造物である。細菌類のリボゾーム(RNA‐タンパク質複合体)は真核細胞のそれよりも小さく、細胞内にほぼ均等に含まれている。また、細胞内には多糖体・脂質などの顆粒(かりゅう)、硫黄・炭酸カルシウムの結晶なども含まれる。ポリメタリン酸を主成分とするボルチンという貯蔵物質は、異染顆粒ともいわれ、ジフテリア菌にはかならず存在する。なお、細菌類の細胞内には色素体や空胞(液胞)がなく、細胞質には流動性がない。

[寺川博典]

生殖

細菌類の増殖は二分裂が一般的で、1回の分裂に15~20分かかり、条件がよければ1個が24時間で10の21乗個、総重量にして約4トンとなる。大腸菌の場合でみると、必要な無機塩類数ミリグラムを含む培養液1ミリリットル中における増殖は、36時間で数十億個にもなる。出芽という増殖形式は硝酸菌などにみられる。また、毛状体の細胞内にはゴニジアといわれる内生胞子、あるいは極毛のある遊走子が生ずる。桿菌は細胞内に一つの休眠胞子を形成する。大腸菌では、個体によって鞭毛のほかに多数の短い繊毛をもつものがあり、これによって繊毛のない個体と結合し、繊毛を通してDNAの一部の組み替えが行われる(これを偽(ぎ)接合という)。

[寺川博典]

分類

細菌類は、リケッチア綱、真正細菌綱、シュードモナス綱の三つに分類される。リケッチア綱は他の細菌よりも小さく、動物細胞内に寄生し、グラム陰性である。真正細菌綱は他養菌で、無鞭毛、または周生鞭毛(一部のものは極生鞭毛)をもち、グラム陽性または陰性である。シュードモナス綱は他養を基礎として各種自養を行うもの、および関連他養菌を含み、無鞭毛、または極生鞭毛(一部のものは周生鞭毛)をもち、グラム陰性かどうかは不明である。以下、それぞれの綱に沿って述べる。

〔1〕リケッチア綱
(1)クラミジア目 オウム病クラミジアは鳥類に寄生してネコ、ヒトに空気伝染し、トラコーマクラミジアはヒト、サルなどに寄生する。

(2)リケッチア目 ツツガムシ病リケッチアはアカツツガムシが媒介となってネズミからヒトヘ伝染する。日本に常在する唯一のリケッチアである。

〔2〕真正細菌綱
(1)真正細菌目 広く分布する細菌で、グラム陽性菌にはブドウ球菌、酪酸菌、乳酸菌、ジフテリア菌など、グラム陰性菌には根粒菌、アゾトバクター、大腸菌、コレラ菌などがある。

(2)カリオファノン目 長さ数十マイクロメートルの毛状体が水中や有機物上で腐生し、周生鞭毛によって活発に運動する細菌もあれば、節足動物やウシ、ヒツジなどの消化器官中でみられるものもある。

〔3〕シュードモナス綱
(1)シュードモナス目 他養、あるいは化学自養を行う細菌で、多くは土壌や水中にすむ。酢酸菌、緑膿菌(りょくのうきん)、メチル酸化菌、硝化菌、硫酸還元菌、好塩菌、メタン細菌などがある。

(2)紅色細菌目 硫黄泉、沼水沼土、海水中にもすむ細菌で、水素供与体として硫化物、水素分子、脂肪酸、ケト酸などを用いるが、酸素を発生しない細菌型光合成を行う。無硫黄紅色菌、硫黄紅色菌、硫黄緑色菌などがある。

(3)硫黄細菌目 硫化物のある土壌や水中にすむ細菌で、硫化水素その他の化合物や硫黄を、好気または嫌気酸化して化学自養、あるいは他養生活を行う。これに属する細菌には毛状体もみられ、固体に触れると、滑走運動や横揺れ運動を行う。

(4)サヤ細菌目 第一鉄塩や亜マンガン酸塩、または有機物の多い水中において酸化第二鉄の厚い鞘(さや)に包まれて腐生する細菌や、第一鉄イオン酸化によって化学自養を行う鉄細菌などがある。泉の流水中において生活するネジレ鉄細菌の仲間では、鞘のかわりに柄(え)がある。

[寺川博典]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「細菌類」の意味・わかりやすい解説

細菌類
さいきんるい
bacteria

分裂菌類ともいう。最も微小な単細胞の生物の一群で,単一体は顕微鏡の力を借りなければ見られず,その細胞は高等の生物に比べて著しく未分化であり,増殖は細胞の2分裂による。しかし,それぞれの種を比較検討すると,それらの生活史や生態にはいろいろの変化もあり,未分化ながら適応,変異などの現象もみられる。分布はきわめて普遍的で,種類は 1957年の D.バージーの細菌検索便覧にしたがっても 188属 1450種に及んでいる。クロマティウム Chromatiumのような紅色バクテリアなどの僅少の例外を除いては従属的栄養摂取を行うので,腐生または寄生生活をしている。したがって人間をも含めて動物の病原となったり,それらの保有食品などの腐敗現象の原因となるものが多い。このようなことから,細菌類に関する研究は,まず医学的,衛生学的な見地から進められ,比較的のちになってから純粋の生物学的な研究が進められるようになった。細菌類の生産する物質や,種々の物質を分解する能力のうちには,人間にとって重要なものも多い。たとえば抗生物質の生産や,汚染廃水の浄化などのように,いろいろの面で活用されている。

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