細気管支炎(読み)サイキカンシエン(英語表記)Bronchiolitis

デジタル大辞泉 「細気管支炎」の意味・読み・例文・類語

さいきかんし‐えん〔サイキクワンシ‐〕【細気管支炎】

気管支肺胞に入る手前の呼吸細気管支に生じる炎症。急性と慢性がある。急性はウイルス性で、生後1か月から2歳までの乳幼児に多い。冬に流行し、感冒に似た症状が数日続いた後、喘鳴が聞かれるようになり、呼吸が困難になる。軽症の場合は1週間ほどで回復する。原因はRSウイルス大半で、他にアデノウイルス、パラインフルエンザウイルスなどの場合もある。慢性は主に成人が罹患するが、原因ははっきりしない。

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六訂版 家庭医学大全科 「細気管支炎」の解説

細気管支炎
さいきかんしえん
Bronchiolitis
(子どもの病気)

どんな病気か

 ウイルス感染による細気管支を中心とした下気道の炎症性疾患です。呼気性喘鳴(こきせいぜんめい)(息を吐く時に聞かれるゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)、呼吸困難が特徴的です。冬期を中心に1歳未満の乳幼児に起こり、とくに6カ月未満の乳児に発症率のピークがあります。

 また、6カ月未満の乳児や早産児、先天性疾患、慢性肺疾患、免疫不全状態(めんえきふぜんじょうたい)の乳児では重症化しやすい疾患です。

原因は何か

 下気道へのウイルス感染です。細気管支炎の50%以上はRSウイルスにより起こり、その他にはヒトメタニューモウイルスによっても起こります。ウイルスが感染することにより、浮腫(ふしゅ)滲出液(しんしゅつえき)、粘膜・細胞性残渣蓄積(ざんさちくせき)、さらにウイルスの浸潤による細気管支の部分的な閉塞が起こります。気道が閉塞すると、閉塞した先は無気肺(むきはい)となります。

 気管内の空気は、細くなるほど流れにくくなるので、細気管支が肥厚して細くなると気流抵抗が増大します。加えて、管の内径は呼気のほうがより小さくなるため肺から空気が出にくくなり、細気管支より末梢の部分に空気を閉じこめるようになり、肺は過膨張(かぼうちょう)となります。

 これらのことから、無気肺と肺の過膨張は混在するようになり、正常なガス交換が損なわれ、症状が進行した場合には血中酸素濃度が減少し、低酸素血症を来します。

症状の現れ方

 初期は鼻汁くしゃみなどの上気道炎症状を示します。発熱も認めますが、無熱のこともあります。続いて多呼吸、頻脈(ひんみゃく)、激しい(せき)込みを伴う呼吸困難が起こってきます。

 乳児では、咳や呼吸困難が出現した後、最初の48~72時間で急速に呼吸困難が進行することがあります。呼吸困難の進行により、口のまわりのチアノーゼ(皮膚が紫色になる)や、肋骨下や肋間、胸骨上部で呼吸時に陥没する陥没呼吸(かんぼつこきゅう)が認められたり、呼気性喘鳴が聞かれるようになります。

 年少乳児では、呼気性喘鳴などの症状を認めず、無呼吸が初発症状の場合もあります。

 重症例では、多呼吸、不穏、意識障害、無呼吸発作などが認められます。通常は、数日で急速に改善しますが、呼吸管理を要する場合もあります。

検査と診断

 2歳未満の小児で、初めての喘鳴を示した場合には、細気管支炎や喘息が疑われます。胸部聴診では喘鳴、呼気延長(こきえんちょう)、しばしば小水泡音(しょうすいほうおん)が聞かれます。胸部X線写真では過膨張(かぼうちょう)した肺、横隔膜(おうかくまく)下降、著しい肺門陰影を認めます。

 喘鳴を示す疾患として、喘息との区別が重要ですが、過去に喘鳴を示したことがある場合や、本人を含めた家族内にアレルギー性疾患がある場合は、細気管支炎よりも喘息を疑うことになります。

 RSウイルス感染の診断には、鼻腔ぬぐい液や吸引液を用いた迅速抗原測定キットが有用です。RSウイルス感染が証明された場合は、喘息よりも細気管支炎が強く疑われます。

治療の方法

 呼吸困難や脱水がある場合には入院加療が必要になります。細気管支炎はウイルス感染症であり、細菌による二次感染を起こすことが少ないことから、抗生剤は必要ありません。基本的には全身状態の管理を中心とした対症療法を行うことになります。

 治療としては、気管支拡張薬の吸入や、低酸素血症を示している場合には加湿および酸素投与がなされます。ステロイド薬の効果については定まっていません。吸入療法については、エピネフリンβ(ベータ)刺激薬より有効と思われるという報告もあります。低酸素血症や二酸化炭素貯留が進行している場合には、人工呼吸器管理が行われます。

坂井 貴胤

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「細気管支炎」の解説

さいきかんしえん【細気管支炎 Bronchiolitis】

[どんな病気か]
 細気管支というのは、気管支より肺胞(はいほう)に近い、多数に枝分かれした細い気道のことです。ここに炎症がおこり、内側の粘膜が腫(は)れて、たんがたまると、息ができなくなります。
 生後6か月くらいの赤ちゃんから2歳までの子どもが、冬から春にかけてよく発病します。パラインフルエンザウイルスなどのウイルスが感染しておこります。
 入院が必要になることが、たいへんに多い病気です。周囲のおとながたばこをよく吸っている家庭に多くみられることがわかっています。
[症状]
 最初は、鼻水や熱が出ますが、数日のうちに呼吸が速くなります。
 とくに重症では、数時間のうちに急にせきこんで、呼吸が苦しくなり、飲んだり食べたりできなくなります。呼吸は浅くなり、呼吸数が、しばしば1分間に60~80にもなります。このような場合は、すぐに救急車を呼んで入院しなければなりません。
 もちろん、軽い場合も多く、少し苦しそうでも、飲んだり食べたりでき、そんなに不機嫌でもなければ、1~3日で自然に治ります。
[治療]
 家庭では、「喉頭(こうとう)・気管(きかん)・気管支炎(きかんしえん)」の治療で説明したのと同じように、吸入する空気の加湿を中心にケアをしますが、入院しなければならない子の割合がたいへん多いのが特徴です。
 病院では酸素吸入をしたり、もっと重症ならば気管にチューブを入れて、人工呼吸器をつける場合もあります。
 細気管支炎には、閉塞性細気管支炎(へいそくせいさいきかんしえん)という病気もあります。この病気は、傷が治るときにできる肉芽組織(にくげそしき)(増殖のさかんな若い結合組織)というものが、細気管支にできすぎて、細気管支がせばまってしまう病気です。
 小児では、はしか(麻疹(ましん))やインフルエンザ、百日ぜきなどが治っていくとき、また化学物質を吸い込んだ後などにおこります。
 もとの病気が治りはじめたのに、呼吸が苦しくなってくるような場合に考えなければならない病気ですが、めったにみられません。

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