紙燭(しそく)(読み)しそく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「紙燭(しそく)」の意味・わかりやすい解説

紙燭(しそく)
しそく

屋内で用いる松明(たいまつ)のことで、「ししょく」ともよび、「脂燭」とも書く。手火の一種である。古く奈良時代から夜間の儀式に用いられた照明具の一つで、『続日本紀(しょくにほんぎ)』聖武(しょうむ)天皇天平(てんぴょう)18年(746)10月甲寅(こういん)の条にもみえる。太さ3センチメートルほどの棒状マツの木を長さ45センチメートルぐらいに切り、あらかじめ先のほうを炭火で黒く焦がし、その上に着火しやすいように油を引いて乾かし、手元を紙で巻いて用いたところから紙燭といわれる。紙燭の製法については一定ではない。布や紙を撚(よ)り合わせて蝋(ろう)や油、あるいは松脂(まつやに)などを塗り込んでつくったものや、スギの芯(しん)、マツの小枝なども使われた。

 一般に使われたもので紙燭に近いものは信州などで行われたコトボシであろう。マツの「ヒデ」(マツの根の脂味(あぶらみ)の部分)を30~40センチメートルの手ごろな長さに切り、大人の親指ほどの細さに引き割って、その先端に火を点じ夜間室内の灯火に使った。マツのヒデは火が燃え尽き、燃え殻になっても落ちず、防火上からも安心できた。油やろうそくのたやすく手に入る江戸時代以降も携帯用灯火として重宝がられた。

[金箱正美]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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