粉挽き(読み)コナヒキ

デジタル大辞泉 「粉挽き」の意味・読み・例文・類語

こな‐ひき【粉×挽き】

豆・麦などの穀類をひいて粉にすること。また、その仕事をする人。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「粉挽き」の意味・わかりやすい解説

粉挽き (こなひき)

ヨーロッパにおいては,古代ギリシア,ローマ時代以前から,主食はパンと大麦,小麦の粥などであったから,製粉の技術と組織は日常生活のなかで大きな位置を占めていた。すでに旧約聖書の《申命記》には〈ひきうす,またはその上石を質にとってはならない。これは命をつなぐものを質にとることだからである〉(24:6)とある。水車の技術はすでに古代から知られていたといわれるが,それが普及したのは中世に入ってからである。奴隷労働力が豊かにあった古代世界では人力を節約する必要はなく,むしろ飢えた大衆に仕事を与えなければならなかったから,水車の発明も実用化の社会的需要をもっていなかったのである。中世に入ってからも水車の設置には多くの費用がかかったから,主として領主によって設置され,まず大荘園領や修道院領につくられた。一般の農民は自家消費用の穀物手回しの回転碾臼(ひきうす)でひいていたのである。

 しかし9世紀後半以降ヨーロッパに成立した農村領主層は,罰令権(バン)を行使しはじめ,そのなかでも有名なのが水車小屋の独占とその使用強制であった。これは一定地域に領主の水車以外の水車の設置を認めず,指定された領主の水車で穀物をひくよう農民に義務づけたもので,領主に多くの収入をもたらした。すでに1158年の神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世のロンカリア立法で,水の利用にかかわるあらゆる水利権が国王大権(レガーリエン)に属するものとされ,それがやがて領主にゆだねられていった。村はずれにある水車小屋には領主の任命する粉ひきがいて,特権を行使していたが,粉ひきは村落共同体の構成員ではなく,自分の土地内では独自の裁判権すらもっていた。農民は自分の穀物は手回し碾臼でひこうとし,領主の水車小屋を使用させようとする領主との間でしばしば争いが起こった。13世紀末にイギリスのセント・オールバンズ修道院で,領主である修道院長は手工業者の碾臼を没収し,両者の間で激しい争いが展開された。このように農民や手工業者の碾臼への執着は強く,それだけ領主の水車小屋使用強制に対する抵抗は激しかった。このような背景の下で,粉ひきに対する賤視が生じた。村落共同体に属さない粉ひきは穀物の一部をかすめとっているといった噂が流され,水車小屋には何か怪しい雰囲気があるかに伝えられていった。こうした状況のなかで〈水車小屋の娘〉などの伝説が成立していったものと考えられる。
 →製粉
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世界大百科事典(旧版)内の粉挽きの言及

【賤民】より


[ヨーロッパ]
 ヨーロッパにおける賤民の系譜は,古代世界を別にすれば,初期中世の〈人間狼(人狼)Werwolf〉までさかのぼることができる。人間狼とは,氏族団体(ジッペ)の平和を乱す夜間の殺人,放火などを犯した人間が,氏族団体から追放されるとき(平和喪失)に呼ばれた名称である。平和喪失を宣告された者は死者とみなされ,その妻は未亡人,子は孤児とされる。氏族団体から追われた者は人間世界のなかに住むことを禁じられ,森のなかに入ってゆくが,彼らすべてが森のなかでのたれ死したわけではない。…

※「粉挽き」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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