米切手(読み)コメキッテ

デジタル大辞泉 「米切手」の意味・読み・例文・類語

こめ‐きって【米切手】

江戸時代、諸藩の蔵屋敷が、蔵米の売却にあたって発行した払い米の保管証書。正米しょうまい切手。米札べいさつ

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「米切手」の意味・読み・例文・類語

こめ‐きって【米切手】

〘名〙 江戸時代、大坂の蔵屋敷で、蔵米を落札した者に、蔵屋敷が発行した米の引き換え札。
御触書寛保集成三四・享保二〇年(1735)一〇月「大坂にては米切手売之儀も右同前相心得」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「米切手」の意味・わかりやすい解説

米切手 (こめきって)

江戸時代,大名・旗本神社仏閣などの諸家は原則として米穀で収納した貢租の貨幣化を図る必要から,諸国物産の中央集散市場大坂に蔵屋敷・用所を置いた。米切手とはこの蔵屋敷が蔵米販売の際発行した払米(はらいまい)保管証券で,正徳・享保期(1711-36)まで米手形と称した。払米切手,出米切手ともいい,米仲買が蔵屋敷の払米告示を受けて入札・落札し,翌日敷銀を納め,法定蔵出期限までに残銀を掛屋(かけや)に完納し,その代銀完納請取証を蔵屋敷に持参して,これと交換に受け取った。米切手は蔵出期限まで払米の保管を蔵屋敷に委託する蔵預り証で,掛屋が直接交付する場合もあった。これにはだいたい西の内・泉貨紙などの厚紙を用い,切手面には俵数・蔵名前・切手番号・落札人氏名・発行期日が,ほかに通常蔵出期限経過のものは無効であること,水火の災難は蔵屋敷に責任がないことが記してある。なお,各藩の1俵当り詰米量の相違によって,表示俵数が20俵,25俵,30俵と異なるが,米切手1枚で10石を示す。

 米切手による米穀売買はすでに1654年(承応3)以前からみられ,97年(元禄10)ころ堂島米市場の成立とともに活発化した。正米取引を米穀売買の基本とする幕府は,米価統制の必要から再三米切手の売買を禁止し,1663年(寛文3)には代銀完納の米切手の持参人のみに払米を行い,またその蔵出期限を従来の30日から10日に短縮するなど,米切手の流通抑制策を講じた。だが実情は米代銀の完納のみで,蔵出期限を遵守せず,米切手の所有者による転売・質入れが,さらに延売買も行われていた。その間先物取引も横行し,在庫米の裏付けのない空米切手の発行もみた。発行事情からこれには,未着米に対する代銀先納の先納切手,在庫米以上に発行された過米切手,落札日・落札人名不記載の坊主切手,貨幣借入担保として蔵屋敷が出した調達切手がある。先納切手はさらに,堂島市場や米方両替の有力者が債権者で出米切手と同じような浜方先納と,貸主へ渡す借用証に債権の担保として秘密に添えた内証先納に区別された。これら各種米切手の発行は,大坂への蔵米回着量が18世紀に140万石ほどに達し,堂島市場が活況を呈したことによる。1730年(享保15)には堂島帳合米市場が成立し,帳合米取引(延売買・投機取引)が公認されたことでいっそう助長され,49年(寛延2)諸藩の財政窮乏を糊塗するために発行された空米切手(藩債一種たる先納切手が中心)は在庫米の3.7倍にも及んだ。幕府は以後,この弊害を是正するために米切手を闕所(没収)処分の例外とし,不渡米切手の官銀買上げ,米切手改役の新設,米切手の訴訟へ中抜裁判(訴訟審判の優先)の適用を打ち出し,米切手の流通保護を図った。しかし,増発を防止できず,明治にまで及んだ。

 米切手は一種の倉庫証券的機能を有し,両替商の融資担保物となったことから,江戸時代の商業取引・商業信用の発展に大きく寄与することとなった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「米切手」の意味・わかりやすい解説

米切手
こめきって

江戸時代、諸藩蔵屋敷が販売した米に対して発行したもので、本来、倉荷(くらに)証券的なもの。普通、仙花紙(せんかし)四つ切りを用い、俵数、蔵屋敷名、切手番号、買い手氏名、買い手期日が記載された。1枚で10石の米高を表す。通常、蔵出期限が記載され、保管中の損耗は切手所持者の負担であると明記されているが、これは江戸後期には装飾文言化した。米切手は形態別には、落札者・落札日の記載のある「落札切手」と、それらがない「坊主(ぼうず)切手」に分かれる。また発行の契機別にいうと、落札によって発行された「出(で)切手」と、借金の担保として発行された「先納(せんのう)切手」とがある。普通、落札切手は出切手の形態で、また先納切手は坊主切手の形態であったが、諸藩の財政難が深刻化した江戸後期には出切手タイプの先納切手が多量に発行された。しかし、先納切手はもともと現米の裏づけのない切手であったから、これにより現米が請求された場合、蔵屋敷は苦境に陥った。この場合この米切手は空米(くうまい)切手とか過米(かまい)切手とよばれた。

[宮本又郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「米切手」の意味・わかりやすい解説

米切手【こめきって】

江戸時代,大坂などの蔵屋敷蔵米が入札で売却された際,落札者に対して蔵屋敷が発行した払米(はらいまい)の保管証券。払米切手・出米(でまい)切手ともいい,16世紀半ば以前からみられた。落札者である米の仲買人は,米を処分するまで蔵屋敷に保管を依頼した。切手は西の内(にしのうち)・泉貨紙(せんかし)などの厚紙を用い,蔵名前・俵数・切手番号・落札人氏名・発行日などのほか,水火の災難は蔵屋敷に責任のないことなども記してあった。
→関連項目切手

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「米切手」の解説

米切手
こめきって

払米(はらいまい)切手とも。江戸時代,大坂の蔵屋敷が蔵米の買主に発行した保管証書。切手の所持者が米を蔵出しした際に回収される。米仲買人が蔵米を入札・落札すると,まず敷銀を,さらに期限内に代銀を指定の掛屋に納入して代銀領収書をうけとる。これを蔵屋敷に持参し,引替えに米切手が発給された。藩によって異なるが,ほぼ米10石に米切手1枚が一般的。転売可能で流通証券として取引された。在庫米以上に発行された米切手は空米切手といい,正米(しょうまい)の裏付けのある正米切手と区別した。諸藩は財政窮乏をきりぬけるため空米切手を発行したが,米価や米切手の流通に支障をきたすので,1761年(宝暦11)売買を禁止,田沼期には闕所(けっしょ)処分に対する除外など流通の保護・統制がはかられた。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「米切手」の意味・わかりやすい解説

米切手
こめきって

江戸時代,諸大名,旗本などの蔵屋敷が発行した蔵米の保管証書で,正米 (しょうまい) 切手と空米 (からまい) 切手の別があった。正米切手は払米 (はらいまい) 切手,出米 (でまい) 切手などとも呼び,蔵屋敷に蔵米が到着し,落札者に払出すまでの,蔵出準備のある場合のもの,空米切手とは代銀先納の場合,保有量以上の取引の場合,金銀調達の担保とする場合などに発行されたもので,後者はしばしば市場を混乱させた。1俵の容量に差があって,切手には 20俵,30俵などの表示と蔵の名を書くが,切手1枚は常に米 10石を表わす定めであった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「米切手」の解説

米切手
こめきって

江戸時代,蔵屋敷から蔵米の買い主に与えた保管証書
買い主が落札・支払いをすませた米を蔵屋敷にしばらく保管することを依託する間の預かり証で,大坂では貨幣同様に流通した。のちには空米 (くうまい) 切手が発行され,投機的取引も行われた。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の米切手の言及

【大名貸】より

… その選別で除外された藩は,浜方からの借入れに依存した。浜方とは,幕府が米価引上策として堂島米会所における米切手売買,帳合米取引を行う米仲買と,帳合米取引の清算機関たる米方両替とであって,米切手を担保とした大名貸である。その米切手は未着米に発行されたという意味で〈先納切手〉,また実米の裏づけがないという意味で〈調達切手〉と俗称された質入切手である。…

※「米切手」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android