精選版 日本国語大辞典「節」の解説
ふし【節】
〘名〙
① 植物の幹や茎にあって盛り上がったり、ふくれ上がったりしている部分。
(イ) 竹・葦などの茎にあって、間をおいて盛り上がり、隔て、くぎりとなっているもの。
※竹取(9C末‐10C初)「ふしを隔ててよごとにこかねある竹を見つくる事かさなりぬ」
※新撰六帖(1244頃)六「杣山のあさきの柱ふししげみひきたつべくもなき我が身かな〈藤原家長〉」
② 一般に、物の盛り上がったり瘤(こぶ)のようになったりして区切り目にもなっている部分。
(イ) 骨のつがい目。関節。
※彌勒上生経賛平安初期点(850頃)「手足の指は、〈略〉節(フシ)骨現にあらず」
(ロ) 肉腫(にくしゅ)。瘤(こぶ)。また、突出したりふくれたりしているもの。〔字鏡集(1245)〕
(ハ) 絹・綿・麻などの糸で、ところどころ瘤のようになっている部分。また、織糸をつないだ結い目。〔十巻本和名抄(934頃)〕
(ニ) 矢竹の長さ相当の位置にあるでっぱり。三節篦(みふしの)・四節篦(よふしの)により、それぞれの名称がある。「おっとりの節」「篦中(のなか)の節」「すげ節」などの類。
※就弓馬儀大概聞書(1464)「ふしは三ふし篦本なり。すげぶし一所、羽中一所、篦中のふし一所、以上三所なり」
③ 物を隔てるもの。区分するもの。区切るもの。遮断するもの。
※仮名草子・恨の介(1609‐17頃)下「われをは誰とかおぼしめす。庄司が後家に頼まれし、あやめの前とは自らなり。心にふしなおかれそ」
④ きめ。すじ。すじみち。節理。
※新訳華厳経音義私記(794)「文理 合文也 又理者云二布之一又天文地理也」
⑤ 他と区別される事柄。
(イ) 物事の、ある点。所。箇所。かど。事柄。箇条。
※竹取(9C末‐10C初)「くれたけの世々の竹とり野山にもさやはわびしきふしをのみ見し」
※風流魔(1898)〈幸田露伴〉一「他に思ふ節(フシ)ありて」
(ロ) 特に詩歌の表現で、きわだった箇所。目立つ箇所。
※新撰髄脳(11C初)「ふるく人のよめることばをふしにしたるわろし」
⑥ 区切りとなる箇所。段落。
⑦ 富籤の当たりの一つ。一定の間を置いた番号を当たりとするもの。千両富で、一番と、一〇番・二〇番…九〇番・一〇〇番、および、五番・一五番・二五番…九五番の計二一種の番を当たりとして、各番に賞金を定める類。
※洒落本・突当富魂短(1781)吉原の遊び「これらはうわべの客、拾番目の節(フシ)のあたりこんな事なるべし」
⑧ (他と区別される時の意から) あるとき。おり。時期。きっかけ。機会。時。際。
※源氏(1001‐14頃)帚木「またよきふしなりとも思ひ給ふるに」
⑨ 音楽や歌謡の曲節。旋律。ふしまわし。
※梁塵秘抄口伝集(12C後)一〇「娑羅林、早歌、高砂、双六など様の歌は、我にも習ひたりき。謡ふに、ふしいとたぢろがず」
⑩ 楽器の旋律に対して、特に歌の旋律をいう。
⑪ 語り物音楽の中で、詞に対立する語。謡曲や浄瑠璃などをいう。
⑫ 三味線組歌で、歌詞の中に入れた意味のない「ン」のこと。「待つにござれ」の中の「いとしのン君や」など。
⑬ ⑨から転じて、歌の文句。歌詞。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)湊「歌のふしにてかごの鳥かや恨めしき浮世と、わけもなふ取みだされければ」
⑭ (「フシ」と書く) 浄瑠璃の節章の一つ。文句が一段落したところ、あるいは作曲者が特に必要と認めたところで、語りの旋律が一段落する部分の安定した旋律型。「中フシ」「ウフシ」「ハルフシ」「上フシ」「ノルフシ」などの総称。
※浄瑠璃・曾根崎心中(1703)「照る日の神もおとこ神、よけて日まけはフシよもあらじ」
⑮ 浪花節、浪曲をいう、寄席芸人の語。
⑯ 図星。急所。痛い所。
※洒落本・南遊記(1800)一「穴(フシ)をさされても怳(とぼ)けた顔」
⑰ なんくせ。言いがかり。苦情。もつれ。
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)四「わきざしの抜身は竹と見ゆれども喧𠵅にふしはなくてめでたし」
⑱ 魚の身をたてに四つにさいた一つ。
⑲ 鰹節あるいは鮪節・鯖節・鮫節などの略称。また、それらを数える時にも用いる。
※狂言記・察化(1700)「鯣二連と鰹十節とって来たわ」
⑳ 漆を塗るとき、塗面に付着した塵埃。これを取り除くことを節上げという。
㉑ 里芋の茎を干して乾燥させたもの。ふし汁に用いる。〔随筆・貞丈雑記(1784頃)〕
㉒ 定常波で振幅がゼロまたは極小となるところ。⇔腹。
㉓ 取引市場で、過去の高値安値や株価の大台などをいう。「ふしをぬく」
㉔ 植物「ふしぐろせんのう(節黒仙翁)」の異名。〔重訂本草綱目啓蒙(1847)〕
㉕ 植物「ぬるで(白膠木)」の異名。
せつ【節】
〘名〙
① 自己の信ずる考え、志、行動などを貫き通して変えないこと。みさお。節操。節義。
※続日本後紀‐承和一一年(844)五月丙申「伴直富成女〈略〉厥後守レ節不レ改」
※太平記(14C後)五「匡正之忠有て、阿順之従無し、是良臣之節也」 〔春秋左伝‐成公一五年〕
② 適度。ほどあい。ほど。
※菅家文草(900頃)一・仲春釈奠聴講孝経同賦資事父事君「於是円冠
レ節、博帯摳レ衣」

※養生訓(1713)三「客となりては、殊に飲食の節つつしむべし」 〔礼記‐曲礼上〕
③ 君命を受けた使者や大将に賜わるしるし。てがた。符節。符信。
※続日本紀‐天平一二年(740)九月丁亥「勅以二従四位上大野朝臣東人一為二大将軍一〈略〉委二東人等一持レ節討レ之」 〔周礼‐地官・掌節〕
④ 時間的経過の一時期、または、くぎりめ。
(イ) ある事柄の存在する、または行なわれる、そのとき。折(おり)。時期。ころ。
※菅家文草(900頃)四・驚冬「節是安寧心最苦、天時為レ我幾相違」
※黄表紙・文武二道万石通(1788)下「その節のおいはぎは、われわれ両人でござる」
(ロ) 一年を、春・夏・秋・冬でくぎった期間。季節。時節。
※菅家文草(900頃)一・賦得躬桑「候レ節時无レ誤、斎レ心採不レ遑」
※仮名草子・浮世物語(1665頃)五「鳥の囀、獣の鳴く、皆これその節に応ず」
(ハ) 暦でいう二十四節気のこと。また、そのうち立春に始まる一つおきの節気をいう。また、節から次の節までの一か月間。陰暦の吉凶の暦注の多くは節を基準として配当されている。節月ともいう。
※権記‐長保四年(1002)四月一九日「芒種、五月節」
※浄瑠璃・暦(1685)一「それより世々をへてたとへば日月のめぐり、又はせつのかはる事つらつら是をかんがふるに」
(ニ) 易の六十四卦の一つ。
、上卦は坎(かん)(=水)、下卦は兌(だ)(=沢)。水沢節ともいう。水が沢にはいって、多すぎれば流出し、一定の分量があるさま。


(ホ) 節気の変わりめの祝日。節供(せっく)。節日(せちにち)。せち。
※日本後紀‐弘仁三年(812)二月辛丑「花宴之節始二於此矣一」
※仮名草子・恨の介(1609‐17頃)上「過ぎにし夏の頃、雲の上にて、女御后(きさき)の御節の遊びの有りし時」
⑤ 歌曲の調子。音調。ふし。
⑥ 物事のくぎりめ。また、そのくぎられた部分。
(イ) 詩の一行をいくつかにまとめてくぎった部分。聯(れん)。詩歌・文章・楽曲などの一くぎり。また、文章の段落。
※即興詩人(1901)〈森鴎外訳〉流離「一折(セツ)畢るごとに、客の喝采してあまたたび幕の外に呼び出すを」
(ロ) 商品取引所で行なわれる立会(たちあい)の小区分。〔新しき用語の泉(1921)〕
(ハ) プロ野球などの日程のくぎり。
(ニ) 予算編成上の区分の名目。項の下の小区分、目の下の小区分をいう。
(ホ) 数学で、方程式の辺(へん)のこと。〔数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書(1889)〕
⑦ 竹、枝または骨などのふし。
※菅家文草(900頃)三・舟行五事「無レ心雲自到、有レ節雪纔封」
せち【節】
〘名〙
① とき、時節。季節。
※経信母集(11C中か)「やよひの日かずのうちに、夏のせちのきたるをわきまへ」
② 季節のかわりめの祝日。節供(せっく)。節日(せちにち)。せつ。
※宇津保(970‐999頃)内侍督「せちする時の騎射(まゆみ)・競馬(くらべうま)も、さらに見所なしかし」
③ 節日、とくに正月の馳走。節振舞(せちぶるまい)。
※忠見集(960頃)「ある所の御屏風に正月せちする」
※波形本狂言・末広(室町末‐近世初)「一族達にお節(セチ)を申す」
④ =せち(節)の旗(はた)
※御代始鈔(1461頃)御禊の行幸の事「節下の大臣といふ事あり。節といふは旗の名なり。世俗には大かしらと名付く」
せっ‐・する【節】
〘他サ変〙 せっ・す 〘他サ変〙
① 物事の程度をちょうどよくする。適度にする。調節する。
※福翁百話(1897)〈福沢諭吉〉八四「暑中熱するときは氷を室内に解かし、冬は石炭又は蒸気を以て寒温を節(セッ)すべし」
② 数量や程度を制限して減らす。また、控えめにして抑える。〔文明本節用集(室町中)〕
※破垣(1901)〈内田魯庵〉四「会員は無用の虚飾を謹み冗費を節して教育慈善等の公益に義捐する事」
よ【節】
〘名〙
① 竹・葦(あし)などの、ふしとふしとの間。ふしの間の中空の部分。多く、歌などに「世」「夜」などと掛けて用いる。
※竹取(9C末‐10C初)「此子を見つけて後に竹とるに、節(ふし)を隔ててよごとに黄金ある竹を見つくる事かさなりぬ」
② 転じて、竹・葦などの、ふし。
※平治(1220頃か)上「其後大きなる竹のよをとほして入道の口にあてて、もとどりを具してほりうづむ」
せっ‐・す【節】
〘他サ変〙 ⇒せっする(節)
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