筋萎縮性側索硬化症(ALS/アミトロ)(読み)きんいしゅくせいそくさくこうかしょうえーえるえすあみとろ(英語表記)Amyotrophic Lateral Sclerosis

家庭医学館 の解説

きんいしゅくせいそくさくこうかしょうえーえるえすあみとろ【筋萎縮性側索硬化症(ALS/アミトロ) Amyotrophic Lateral Sclerosis】

[どんな病気か]
 40~60歳代(平均50歳)での発病が多く、男性の患者さんがやや多くなっています。ほとんどは遺伝(いでん)とは関係なく発病しますが、数%は遺伝によって発病します。
 上位ニューロンと下位ニューロンの障害が組み合わさって出現するので、それに応じて症状も変化します。
 ふつう、神経の変性が頸髄(けいずい)から始まるので、一側上肢(いっそくじょうし)(片側の腕)、とくに手指の筋肉の筋力低下と萎縮が徐々に出現してくることが多いものです(上肢型)。
 やがて、もう一方の腕にも障害が現われ、両側性の障害となり、さらに上肢と同様に下肢(かし)(脚(あし))の末端の筋力低下と萎縮が進行し、足のつま先が垂れる垂(た)れ足(あし)がおこります。
 萎縮した筋肉には、筋線維束の不規則なぴくつき(線維束(せんいそく)れん縮(しゅく))がおこり、これを皮膚を透かして見ることができます。
 最終的には、眼筋(がんきん)と肛門括約筋(こうもんかつやくきん)を除く全身の筋肉に、まひと萎縮がおよぶようになります。
 病変延髄におよぶと舌やのどの動きが悪くなり、うまく話せなくなったり(構音障害(こうおんしょうがい))、食事のときにむせたり(嚥下障害(えんげしょうがい))します。
 末期には寝たきりになりますが、感覚は保たれているので、とこずれができることはほとんどなく、膀胱直腸障害(ぼうこうちょくちょうしょうがい)(大小便の失禁(しっきん))もおこらないのが特徴です。
 多くは、発病から5年以内に呼吸器の合併症をおこし、予後は不良です。
■進行性球(しんこうせいきゅう)まひ
 筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)の特殊型で、延髄(えんずい)の運動神経細胞から病変が始まり、声が鼻に抜ける鼻声(びせい)、徐々に進行する嚥下困難(えんげこんなん)(物を飲み込みにくい)、舌の萎縮と線維束(せんいそく)れん縮(しゅく)(筋肉の不規則なぴくつき)などがおもな症状です。
 会話と食事ができないために心理的な負担が大きく、栄養障害と衰弱をきたしやすいものです。
 進行も早く、発病から3年程度で肺炎などにより死亡します。
■脊髄性進行性筋萎縮症(せきずいせいしんこうせいきんいしゅくしょう)
 筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)の下位ニューロン症状だけを示す型で、上肢(じょうし)の末梢(まっしょう)(末端)、ときに近位(四肢(しし)のつけ根)から筋力低下と萎縮が始まり、腕、肩、さらに下肢(かし)(脚(あし))へと徐々に広がっていきます。
 筋萎縮性側索硬化症に比べて経過が長く、ときに非進行性の時期もみられます。発病から5年以上、しばしば10年以上も生命を維持できることがあります。
◎充実した生活を心がける
[治療]
 治療の担当は、神経内科です。現在のところ、まだ根本的な治療法が確立されていません。
 症状の進行度合いや正確な予後の見通しは一人ひとりで異なります。
 したがって、いたずらに悲観したりせず、充実した生活を心がけることがたいせつです。患者さんが充実した生活を送るためには、家族の保護と支援が必要です。
 この家族の協力のもとに、仕事や趣味を見いだし、可能なかぎり生活の喜びを見つけるようにしましょう。
 医師、看護師、保健師、セラピストヘルパーなどの支援ネットワークも、ぜひ利用しましょう。
◎日常生活における対策
●筋力低下
 手のまひ、歩行障害の進行を遅らせるには、運動療法を欠かすことができません。リハビリテーションの専門家の指導に従い、実行しましょう。
 その際、必要となる装具や車いすを入手するために、早めに身体障害者手帳を入手しておきましょう。
●呼吸まひ
 末期になると必ずおこってくる障害で、呼吸筋のまひと気道内分泌物(きどうないぶんぴつぶつ)の増加のために、肺活量が徐々に低下してきます。
 肺活量が50%以下の状態になると人工換気が必要になりますが、人工呼吸器はリースのものを利用でき、その費用も医療保険が適用になります。
●コミュニケーション
 病状が進行すると会話が困難になり、手やくびのまひのために身振りで意思を伝えることもできなくなります。
 しかし、まばたきや眼球(がんきゅう)を動かすことはできるので、ある程度のコミュニケーションは可能です。
 従来からある文字盤やワープロを使ってのコミュニケーションのほか、最近のコンピュータ意思伝達装置には、まばたきや眼球運動で入力できるものもあります。
●嚥下困難(えんげこんなん)
 症状の軽いときは、とろみをつけるなど、のどを通りやすい調理を工夫し、食べさせるようにします。
 障害が高度になると、誤嚥(ごえん)の危険が増すので、経鼻(けいび)チューブ栄養(鼻から挿入(そうにゅう)したチューブを介して胃に栄養を送り込む)や胃瘻造設術(いろうぞうせつじゅつ)(腹部に孔(あな)を開け、そこに挿入した管を介して胃に栄養を送り込む)などが考慮されます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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