筋痙攣

内科学 第10版 「筋痙攣」の解説

筋痙攣(筋痙攣とミオグロビン尿症)

(1)筋痙攣(muscle cramp)
概念・定義
 運動後に腓腹筋が「つる」,「腓返りする」ことがある.これが筋痙攣で,痛みを伴う不随意な筋の収縮と定義される.一方,ニューロミオトニアや里吉病など有痛性の筋収縮を伴う疾患は,筋痙攣類似の特異な病態である.筋痙攣とその類似疾患の原因はさまざまで,筋疾患だけでなく末梢神経や中枢神経病変も多い(表15-21-10).
a.筋痙攣
概念・症状
 一般に腓腹筋,ときに母指球筋などに筋痙攣を生じる.数秒から数分間持続し,痙攣している筋は固く触れる.針筋電図検査では,痙攣中に200~300 Hzの運動単位の反復(筋痙攣放電,cramp discharge)がみられ,末梢神経終末部の過剰興奮によると推定される. 筋を伸展すると痙攣が止まるが,これは筋内Golgi受容体に生じた伸長刺激が脊髄の抑制系を活性化するためとされる.健康者でも運動負荷や寒冷で誘発されるが(特発性),筋萎縮性側索硬化症や腎不全などさまざまな疾患に続発する(表15-21-10).
診断
 限局する筋痙攣と,伸展による症状消失が特徴である.針筋電図上の筋痙攣放電は筋痙攣類似疾患との鑑別点になる.
予後・治療
 痙攣時には,筋伸展が有効である.予防は原疾患の治療と対症的に筋弛緩薬や抗てんかん薬を投与する.欧米ではキニーネ,わが国では芍薬甘草湯を使うことがある.
b.筋病変による筋痙攣類似疾患
 筋型糖原病(McArdle病や垂井病など)では,四肢近位筋が収縮したまま弛緩せず痛みを伴う.運動負荷によりATPが枯渇し,筋弛緩に必要なエネルギー供給ができないためで筋拘縮とよぶ.筋電図上は,筋は収縮位なのに運動単位放電がないelectrically silentの状態である.ミオトニアを伴う筋疾患も筋痙攣類似の症状を呈する.Schwartz-Jampel症候群はミオトニアの持続が長く,筋痙攣様の症状に眼裂狭小と低身長を伴う常染色体劣性遺伝性疾患である.
c.ニューロパチーによる筋痙攣類似疾患
概念
 ニューロミオトニア(Isaacs症候群)では,四肢遠位筋優位にミオキミアと筋痙攣が出現する.発汗過多(自律神経異常)の合併も多い.筋電図所見の特徴はニューロミオトニア性放電(neuromyotonia discharge)とミオキミア性放電(myokimia discharge)である.
病態
 電位依存性カリウムチャネル(VGKC)に対する自己抗体が高率に陽性で自己免疫性チャネロパチーと考えられる.末梢神経α運動枝の終末部でVGKCが減少し,末梢神経が過剰興奮するため筋症状を呈する.重症筋無力症など自己免疫疾患の合併が多く,肺癌による傍腫瘍性症候群としての発症もある.
診断
 臨床症状,筋電図所見,抗VGKC抗体検査から診断する.不眠,うつ状態などの精神症状が強い場合はMorvan症候群とよばれる.
治療
 血漿交換による自己抗体除去が一過性だが有効である.
d.中枢性の筋痙攣類似疾患
概念
 スティッフマンstiff-man(person)症候群(全身硬直症候群)は全身性の筋固縮と痙攣を呈する.中高年の男性に多い.体幹筋の固縮により前屈姿勢になり,歩行障害も伴う.筋電図所見は持続的で高頻度の運動単位放電を示す.
病態
 神経伝達物質GABAの合成やシナプス放出にかかわるグルタミン酸脱水素酵素(GAD)やamphiphysin,gephyrinに対する抗体が出現し,脳幹・脊髄のGABA作働性介在運動ニューロンを障害する自己免疫疾患と考えられる.抗GAD抗体陽性の糖尿病や甲状腺疾患の合併,または傍腫瘍性症候群(小細胞性肺癌と乳癌が多い)としての発症例もある.
診断
 睡眠や全身麻酔下で消失する特異な症状から本症を疑う.抗GAD抗体の陽性率は70%で診断に有用である.
治療
 ジアゼパムバクロフェン(GABA誘導体)が有効である.血漿交換など免疫抑制療法の効果は,症例によりさまざまである.
e.里吉病(全身腓返り病)
概念
 全身の筋痙攣,脱毛,および下痢を3主徴とする.小児期~思春期の女性に多い.下肢の筋痙攣で初発し,経過とともに全身の筋痙攣を呈する.無月経,糖吸収障害,骨病変などの合併症がある.免疫異常が推定されているが,疾患特異的な自己抗体は未発見である.
診断
 特異な臨床症状から診断する.
治療
 ダントロレンNaが有効である.ステロイド大量療法は生命予後を改善する.[川並 透・加藤丈夫]
■文献
有村公良,渡邉 修:免疫介在性ニューロミオトニア(Isaacs症候群).脳神経,62: 401-410,2010.
Bosch X, Poch E, et al: Rhabdomyolysis and acute kidney injury. N Eng J Med, 361: 62-72, 2009.
Ropper AH, Samuels MA: Disorders of muscle characterized by cramp, spasm, pain and localized masses. In: Adams and Victor’s Principles of Neurology. 9th ed, pp1434-1443, McGraw-Hill, New York, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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