(読み)フエ

デジタル大辞泉 「笛」の意味・読み・例文・類語

ふえ【笛】

管楽器のうち、らっぱ類を除いたものの一般的呼称。フルート篠笛しのぶえなどの横笛と、リコーダー尺八篳篥ひちりきなどの縦笛に分けられる。また、口笛草笛など。
特に、横笛のこと。
呼び子ホイッスルなど、合図に吹き鳴らすもの。「集合のが鳴る」
汽笛
(「吭」とも書く)のどぶえ
「横に―を切ったが、それでは死に切れなかったので」〈鴎外高瀬舟
[下接語]の笛・しょうの笛早笛(ぶえ)あしうぐいす神楽かぐらからすきじ草笛口笛こま高麗こま鹿しかしのしばせみ竹笛縦笛調子笛つの唐人笛・鳥笛・のどはと鼻笛雲雀ひばりまき麦笛虫笛虎落もがり指笛横笛
[類語]横笛縦笛草笛葦笛麦笛角笛

てき【笛】[漢字項目]

[音]テキ(漢) [訓]ふえ
学習漢字]3年
〈テキ〉管楽器の一。ふえ。「汽笛銀笛警笛鼓笛牧笛魔笛霧笛
〈ふえ(ぶえ)〉「草笛口笛角笛横笛
[難読]横笛ようじょう

ちゃく【笛】

ふえ。また、ふえの音。
せう、―、琴…その音もたへなりといへども」〈沙石集・六〉

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精選版 日本国語大辞典 「笛」の意味・読み・例文・類語

ふえ【笛】

〘名〙
① 吹いて鳴らす楽器の一種。中空の竹、木、角、骨、石、金属などに孔をうがって製し、一孔(歌口)から息を吹き、普通は指で他孔を開閉して音律を調えるが、指孔のないものもある。縦笛・横笛のほか岩笛、壎(けん)なども含まれる。
※書紀(720)継体二四年一〇月・歌謡「枚方ゆ 輔曳(フエ)吹き上る」
② 篳篥(ひちりき)などに対し、特に横笛の称。
※平家(13C前)四「此宮は蝉をれ、小枝ときこえし漢竹の笛をふたつもたせ給へり」
③ 喉笛(のどぶえ)。気管。〔十巻本和名抄(934頃)〕
④ 捕方などが人を呼ぶ合図に吹く具。呼子の笛。競技の時や警察官などが合図に吹く具。ホイッスル。
⑤ 汽笛。
※別離(1910)〈若山牧水〉上「山かげの闇に吸はれてわが船はみなとに入りぬ汽笛(フエ)長う鳴る」

ちゃく【笛】

〘名〙 ふえ。また、ふえの音。てき。
※観智院本名義抄(1241)「笛 チャク フエ」

てき【笛】

〘名〙 ふえ。特に中国で用いる横笛。ちゃく。〔亀田本下学集(室町中‐末)〕 〔説文解字‐五篇上〕

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改訂新版 世界大百科事典 「笛」の意味・わかりやすい解説

笛 (ふえ)

ふきえ(吹柄,吹枝)〉の意から生じたともいわれる古来の言葉で,元来は吹いて鳴らす楽器一般を指し,吹奏楽器とか管楽器など近代の用語とも範囲がほぼ重なる。しかし日本では,それらのなかでもいわゆる横笛の類が多用され,とくに親しまれてきたため,笛といえば横笛のことという観念もまた強い。

 横笛とは竜笛(りゆうてき),能管篠笛等々を指す俗称で,演奏時の構えに由来する呼び方であるが,原理的・構造的にも共通性があり,和楽器以外(たとえば洋楽のフルート)にも適用が可能である。その発音機構には目で見る限り,音づくりのきっかけをつくる振動体であるリードの存在が認められない(このことを指してノンリードなどともいう)。実は楽器を〈吹く〉ことによって生ずる気流それ自体が,楽器との接点で振動的現象を起こして器内の空気に作用し,リードと同様に機能するのである。これを指してエア・リードなどという。楽器自体は一端(頭部)を閉じた1本の管であって,閉端に近い管壁を切り込んで歌口(うたぐち)という穴をあけてあり,歌口の縁の一部は鋭いナイフ・エッジになっている。歌口のエッジに向けて吹きつける気流の諸条件(流速,断面形,角度等々)がととのえば,気流はエッジの両側(歌口の内外)へと急速にゆれ動くようになり,笛は鳴るのである。

 エア・リードは横笛以外の楽器でも利用されている。たとえば縦に構える楽器として,まずリコーダースリン,タイのクルイなどがある。管の上端を一応は閉じてあるが,なんらかの形で狭い隙間(気道)がつくってあり,管端をくわえて吹くと呼気は気道に入って歌口に導かれる。気流の幅,厚さ,角度などは気道の形によって規制される。歌口から上の部分を吹口とみなすこともできよう。オルガンパイプの主軸であるフルー管もこれと基本的に同じで,機械送風を用いることと,吹込み口も歌口も下部にある点が異なる。

 やはり縦型の尺八,洞簫(どうしよう)(),ケーナネイなどの場合は,管の上端が開放されており,気道は設けられていない。気流の諸条件は横笛の場合と同じく,すべて奏者の肉体的制御にゆだねられ,管端が歌口を兼ねる。管端の1個所を斜めにそいでつくったナイフ・エッジがエア・リードの発生を促すのである。

 エア・リードの利用は管以外のさまざまな形をした吹奏楽器にもみられ,オカリナ郷土玩具の鳩笛がその例である。なお〈フルート〉という言葉を広義に用いれば,これらエア・リード楽器すべてが包括される。

 以上の諸楽器は,たいてい器壁に数個の指孔があり,それを利用してさまざまな音高をつくり,音階の吹奏を可能にしているが,無指孔で単音の笛を何本も並べてセットした楽器もある。パンパイプ(正倉院の甘竹簫,中国の排簫,パン・フルートなどの通称で親しまれているルーマニアのナイ等々を含む)がそれであり,機械化・大規模化したのがオルガンである。
執筆者:

笛の音の発生の筋道には未解明の点も多いが,ほぼ次のように言える。笛の気壁の1個所に鋭い角をもった楔状の部分がある。狭い隙間(たとえば奏者の唇の間)から吹き出す帯状の空気流がここに当たって,楔の両側に急速にゆれ動き,器内の空気が共鳴して音になるのである。発音の要因である気流と鋭い角をもった物体はわれわれの周辺にも随所に存在し,その原始型として風化した獣骨やアシの切口などに風が当たって音が生じる現象などを想定できる。笛は古く先史時代から使われたのである。

 笛は1本の管である場合のほか,球状,卵形,その他変則な形の器体をもつ場合もあるが,いずれにしても中空であり,器内に空気を包み込んでいる。音高は器内の空気の体積と温度および吹き込まれる空気の圧力によって決まる。管状の笛では管の長さと音の周波数とは反比例の関係にある。管の側面に指孔を設けてある場合は,その開閉によって器内の空気に管長変化と同じ効果を与え,音階がつくられる。球状などの笛では外壁に孔をあけ,振動する空気の体積を減少させて音を高める。管または器内の空気の振動は疎密波であり,この振動の伝播速度(音速)は気温によって異なる。〈音速/周波数=波長〉という関係から,笛は一定気温の波長に合わせて寸法が定められているので,管または器内の気温が長時間の演奏や室温の変化などで上昇すると伝播速度は増し,管の長さが変わらなければ音は高くなる。したがって演奏中にピッチの微調整を要することが珍しくない。吹き込まれる空気は,一定の範囲内では圧力が高くなると音高は上がり,低くなると下がるが,気圧変化の幅は非常に小さく,単位には1万分の1気圧が用いられる。

 笛の音色は帯状の空気の吹出し口と楔部の先端との間隔,楔に対する吹出しの方向,笛の管形,管径に対する長さの比率,管径に対する楔の幅(歌口の大きさ)の比率などの構造的要素によって定められるほか,奏者の技術や口腔,頭腔などの肉体的条件に影響されるところも大きい。笛の材料と音色の関係については議論の絶えないところであるが,管や器の内壁面が音色に影響を与えることは明らかであり,管または器そのものが内部の空気とともに振動する度合が大きくなるほど音色との関連が深くなるであろうことは推察される。歌口の構造は最初に述べたように3種類に大別され,そのどれであるかによって奏法や演奏効果が異なり,楽器自体の性格にも影響している。歌口に至る気道を設けていない笛では奏者自身が唇で息を吹き出す狭い隙間と吹き出す方向とを決めなければならないので,音を出すこと自体にくふうが要求される反面,吹き方によって音色や音高にさまざまな変化を与えることができ,種々の効果(たとえば尺八のメリ,カリ,能管のヒシギ,ユリ)が得られる。気道が設けられている笛は風圧以外の要素は気道の形と方向で規制されてしまうため,音を出すこと自体は容易でも,表現の幅が限られる。ヨーロッパにおいて18世紀前半まで隆盛を極めたリコーダーが現在のフルートに道を譲ることになったのもこの理由からである。笛という語感からは遠いものの,構造的には風路のついた笛の集合であるオルガンでは,送風機によって一定の圧力に調整された空気が送られる。個々の笛の音に表現力はないが,種々の音色や音高の笛を組み合わせて,複合された壮大な笛の音の響きを構成することができる。
執筆者:

笛といえば横笛と考えられがちであるが,〈ふえ〉という言葉が,可視的な振動体をもつ楽器,縦に構える楽器等々を含むことは,《源氏物語》に〈さうのふえ(笙)〉〈さくはちのふえ(尺八)〉とあるなどの例から明らかである。また日本の吹奏楽器のほとんどが竹を素材とした管であるのに対して,〈石笛(いわぶえ)〉〈土笛(つちぶえ)〉などという場合は,材質も器形も異例である。

 石笛や土笛は先史時代の遺跡などから出土し,形や孔の数はさまざまである。石笛は石に孔をあけたり,自然の孔を利用する。土笛は粘土や土の素焼である。竹製の笛については《日本書紀》巻十七の歌謡に〈流れくる竹の い組竹節竹(くみだけよだけ) 本辺(もとへ)をば琴に作り 末辺(すえへ)をば笛に作り吹き鳴(な)す〉とうたわれている。朝鮮や中国から渡来した伎楽,雅楽には横笛が使われた。現存する最古の横笛は正倉院にある4管で,それぞれ斑竹・呉竹・白牙・蠟石製だが,竹以外の管も竹を模している。いずれも指孔は7孔で,節の所に小枝(さえだ)(小枝の根元の形)を残してある。現行の横笛は雅楽の竜笛(唐楽用),高麗笛(こまぶえ)(高麗楽用),神楽笛(神楽用),能・狂言などの能管,歌舞伎囃子や民俗芸能篠笛(しのぶえ)が主である。雅楽ではこのほか東遊笛(あずまあそびぶえ)(東遊用,中管(ちゆうかん)とも)があったが,平安時代か鎌倉時代に廃絶した。これらの横笛は厳密にいうといずれも円筒管ではなく内径が先細りのため,尾端に近い指孔による音高は円筒管の場合に比べて低くなり,音域が広くなる。また指で直接開閉し,指孔が大きいため指をずらせ,また歌口への唇の角度を変えることにより,音高をなめらかに微妙に変化させることができる。

神楽笛はやまとぶえとも呼ばれ,日本固有の笛と考えられてきた。指孔は6孔,長さ約46cm,高麗笛よりも管が太く,太笛(ふとぶえ)とも呼ばれる。高麗笛は6孔,竜笛は7孔で,これら3種の笛は長さや管径が異なるが,素材や外観は共通する。素材は女竹で,いろりやかまどのある部屋で長年いぶした煤竹(すすだけ)が固くしまって,虫が食わず良材である。歌口と頭端の間に蟬(せみ)という木片の飾りがついている。これは紫檀,黒檀,タガヤサンなどの材で,前述の正倉院の笛にもある小枝の変形とみられる。管内に漆を塗り,管の表面には籐巻きあるいは樺巻きを施す。歌口より頭寄りに鉛あるいは鉄のおもりを入れ,蠟でふさぎ,頭端に布を張る。竜笛には赤地錦,高麗笛には青地錦の地が多い。筒音(指孔を全部閉じて出す音)は神楽笛がほぼ1点ロ,竜笛はそれより長2度高く,高麗笛はさらに長2度高く,音域はいずれも約2オクターブである。

能管

能管は外観が竜笛に似るが,管内に挿入した細い管(喉(のど))によって音律と音色が変化すること,製作過程で竹を縦割りにしてからまとめる割継ぎ工法があること,ヒシギという最高音を使用することが特徴である。能管の成立期についての確実な記録はないが,世阿弥は《習道書》(1430年(永享2)奥書)で,申楽笛(さるがくぶえ)は雅楽の笛と違い,シテの謡に従って調子を斟酌すべきだと説いている。

篠笛

篠笛は上述の横笛とは異なって構造が単純で,女竹をそのまま用い,樺巻きは管の両端のみであり,管内の漆塗りも薄い。歌や三味線の音高に合わせるため長さの異なる笛を用意する。民族芸能では篠笛の指孔の数はさまざまで,素材はビニルの管で代用されることもある。

明治以降に考案された横笛に隆笛(りゆうてき)と,みさと笛があり,両者とも篠笛を改良したもの。隆笛は町田嘉章(1888-1981)が昭和初期に考案したもので,材はエボナイトで指孔は七つ。C管(ハ音)とA管(イ音)の2種がある。調子を正確にして合奏に適するようにした。みさと笛は山川直春(なおはる)(1911- )が1956年に考案したもので,指孔を裏にもあけて,7孔または8孔とし,その配置を調整してあるので,長音階,短音階が吹きやすい。この笛には基音の異なる13種がある。材は竹のほか,木,塩化ビニルなどがある。このような横笛類のそれぞれは,使用される種目のなかでは単に〈笛〉と呼ばれることが多い。
執筆者:

笛 (てき)

中国のノンリード管楽器。八音(はちおん)の分類では竹の部に属する。雅楽,俗楽に多くの種類の笛が用いられてきた。笛という字は漢代ころから使用され,それ以前の周代では横笛を篴(てき)と書いた。漢代に胡人の横笛が伝わって横吹と呼ばれ,軍楽,俗楽に用いられた。その後,種々の笛が雅楽,俗楽,胡楽で使用されたが,南北朝,隋・唐の時代の胡楽の笛はインド系と考えられている。指孔は5~8。元以後は俗楽器として戯劇の伴奏に用いられ,明の崑曲(こんきよく)では笛が主要楽器となった。現在は笛子(てきし)とも称し,南方系の曲笛(きよくてき)(崑曲に用いられたため曲笛と称する)と北方系の梆笛(ほうてき)がある。ともに6孔。曲笛は長さ約60cm,柔らかい音色を有し,江南糸竹合奏にも用いられる。梆笛は曲笛より長さが短く,4度高く,明るい鋭い音色をもつ。北方戯曲の梆子の伴奏に用いられるのでこの名称があるが,独奏,器楽合奏にも使われる。ほかに,新笛とも呼ばれる優美な音色を有する11孔笛もある。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「笛」の意味・わかりやすい解説


ふえ

日本における吹いて鳴らす楽器の総称。語源はフキエ(吹柄・吹枝)あるいはフキイルネ(吹気入音)の略など諸説あり、さだかではない。今日笛という語はもっとも広義には、吹き方、リード(簧(こう))のあるなし、形態を問わず、吹奏楽器の総称の意味で用いられるが、狭義にはこのうち横笛、すなわちリードのない横吹きフルートのみをさすことが多い。これは日本ではとくに横笛が優れて発達したためで、世界には横笛をもたない民族も多いことを考え合わせると、横笛の発達は日本を含めて東アジア音楽の特徴の一つといえよう。英語で笛にあたるものにフルートflute、パイプpipe、ホイッスルwhistleなど各種あるが、日本では洋楽器のうち主として木管楽器類をさすことが多く、トランペットのようにマウスピースを用いる金管楽器類は「らっぱ」とよんで区別していた。

 日本における笛の歴史は古く、『古事記』や『日本書紀』にも記述がみられる。古来、日本人は音楽のことを「ふえつづみ」と呼び習わして親しんできたが、最古の笛がどのような形態であったのかは不明である。ここでは横笛、縦笛、その他、の3種に分けて考察する。

[川口明子]

横笛

雅楽で用いられる横笛に神楽笛(かぐらぶえ)(和笛(やまとぶえ)、太笛(ふとぶえ))、竜笛(りゅうてき)(横笛(おうてき))、高麗(狛)笛(こまぶえ)の3種があるが、雅楽で「笛」というととくに竜笛のことだけをさす。神楽笛はほかの二つが大陸から輸入される以前に存在した日本古来の笛だともいわれるが、さだかではない。室町時代になると能楽の興隆とともに竜笛を改作した能管が現れた。さらに、歌謡にあうようなより柔和な音色の篠笛(しのぶえ)も生まれ、江戸時代には歌舞伎囃子(かぶきばやし)をはじめ各地の民俗芸能などで広く用いられた。このほか中国から伝わった明清楽(みんしんがく)用の明笛(みんてき)や清笛(しんてき)も愛用され、西洋音楽にも適合するので明治時代に流行した。

 これらの横笛はすべて竹製で、竹の表面そのままのものと、割れにくいように表面をカバやサクラの皮で巻いて漆を塗って固めたものとがある。後者は乾湿の変化の激しい気候にあわせた日本独特のくふうである。指孔は6孔または7孔だが、吹口と指孔にキーのような特別の仕掛けはなく、その簡素な構造ゆえに可能な、微妙な息づかいや指づかいの妙技により、微小音程や音色のあやを粋(すい)とする繊細で豊かな表現を生み出している。

[川口明子]

縦笛

リードを用いないものに一節切(ひとよぎり)、尺八、天吹(てんぷく)などの尺八系の笛が、リードを用いるものに雅楽の篳篥(ひちりき)、屋台の中華そばでおなじみのチャルメラ(いずれも2枚リード)などがあるが、リードを用いる管楽器は笛に含めないこともある。このほかホイッスル式のリコーダーも今日では教育楽器として広く普及し、縦笛の愛称で親しまれている。

[川口明子]

その他

丸型・容器型のものとして石に穴をあけて吹く石笛や岩笛、土で壺(つぼ)型をつくってそれに吹口と指孔をつけた土笛(中国の塤(けん)と同型)なども古代の遺跡から発掘されている。このほか雅楽の笙(しょう)や山伏の楽器ともいえる法螺貝(ほらがい)、さらに草笛・麦笛など自然の植物を利用したものや、口笛、指笛なども広義には笛に入れられよう。また、歌舞伎でも黒御簾(くろみす)でさまざまな鳥の鳴き声や虫の音を模倣した擬音笛が用いられている。世界にはこのほか鼻で吹く鼻笛(オセアニアなど)や、パンパイプのような多数管、インドの蛇使いの笛プーンギのような複管、バッグパイプのようなふいご式など、種々の笛がある。

[川口明子]

玩具

笛を玩具(がんぐ)化したものは数多く、音の出るおもちゃとして、玩具のなかで大きな分野を占めているが、古くは草笛、麦笛などの自然物玩具の程度にすぎなかった。玩具としての笛が発達したのは江戸時代に入ってからで、その先駆をなすものは鶯笛(うぐいすぶえ)以下の鳥寄せ笛である。鶯笛は10センチメートルほどの竹製のもので、指でその両端を押さえ、指先の開閉でウグイスのさえずりに似た音を出す。1633年(寛永10)刊の『犬子(えのこ)集』に、「けふははや鶯笛もねの日かな」とあり、当時すでに用いられていたが、まだ鳥寄せや芝居の擬音用などのものであった。元禄(げんろく)年間(1688~1704)前後は、鶯笛に次いで、雲雀(ひばり)笛や伊勢(いせ)参宮土産(みやげ)の笙(しょう)の笛が子供たちに親しまれるようになった。笙の笛とは、篳篥(ひちりき)に似た音を出す短い縦笛と推察されるが、これは子守歌にも詠み込まれ、江戸時代を通じて長い期間愛玩された。このほか、頭に獅子(しし)を飾り付けた獅子笛、子供をあやす猿松(さるまつ)笛などもあった。鶯笛は会津若松(福島県)で、「初音(はつね)の笛」の名で正月の縁起物玩具として売られるほか、大正時代から昭和期にかけて、日光(栃木県)、善光寺(長野県)、伊勢(三重県)、屋島(香川県)など各地に郷土玩具としてあり、現在も観光地などにみられる。

 笙の笛に続いて中国からチャルメラ形の唐人笛が伝来し、乳児用の鳴り物玩具としてつくられた。野沢温泉(長野県)にはアケビ細工のものがある。また管の中に経木(きょうぎ)などの舌をつけた「ぴいぴい」や、土製の鳥笛などが子供たちに愛用された。

 明治以降は、外国から輸入された新しい材料や製作技法で、育児玩具などが各種出回っているが、筒を吹くと巻紙が伸びる巻笛、ゴム風船が取り付けてあって、風船がしぼむとき笛が鳴る毛笛がある。また江戸期から明治にかけて、金属製のビヤボンという笛玩具が流行したほか、土製の鳩笛(はとぶえ)や木製の挽物(ひきもの)細工、竹笛、張り子製など、現在も郷土玩具として全国各地にみられるものが少なくない。

[斎藤良輔]

『赤井逸著『音楽選書 53 笛ものがたり』(1987・音楽之友社)』


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山川 日本史小辞典 改訂新版 「笛」の解説


ふえ

管楽器の総称。「和訓栞(わくんのしおり)」によれば吹枝(ふきえ)を語源とし,「日本書紀」や「古事記」に初見。広義には石笛(いわぶえ)や土笛,シングル・リードの笙(しょう),ダブル・リードの篳篥(ひちりき),リードのない尺八,歌舞伎のさまざまな擬音笛も含めて笛とよび,狭義には横笛を意味することが多い。日本の横笛には東遊(あずまあそび)や神楽(かぐら)歌などで使う6孔の神楽笛,雅楽の7孔の竜笛・高麗(こま)笛,能の7孔横笛(能管),祭囃子(まつりばやし)の7孔や6孔の篠笛,沖縄音楽で使う7孔のファンソウがある。近世までに発展した横笛に共通する構造特性は,煤竹(すすだけ)を素材とし指孔の間に桜皮を細く裂いた紐を巻き,管内部に漆を塗り調律している点である。能管は,歌口(吹口)と第1孔の間に細い竹管を差しこみ音律に変化を与えている。

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百科事典マイペディア 「笛」の意味・わかりやすい解説

笛【ふえ】

管楽器,特に木管楽器に対する一般的な呼び名。日本の場合は竜笛(りゅうてき)(横笛),篠笛(しのぶえ),篳篥(ひちりき),尺八など。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「笛」の意味・わかりやすい解説


ふえ

楽器名,または楽器分類名。一般的には,管楽器のなかでも縦または横吹きの無簧楽器をいう。リコーダーやフルート,鼻笛などが含まれる。日本の伝統的な管楽器について用いるときには,現在では縦吹きのもの,つまり尺八類を除外するのが普通である。古くは気鳴楽器の総称としても用いられ,縦吹きの尺八はもちろん,笙のような有簧楽器も含まれた。各種目ごとでは,それぞれが用いる横吹管楽器を単に「ふえ」といい,同類を2種以上併用する場合には,そのなかの特定の1種だけを「ふえ」という。たとえば雅楽の竜笛 (りゅうてき) ,能楽の能管,歌舞伎囃子や民俗芸能の篠笛など。


てき
di

中国の横笛。中国の史料には,笛の字は漢代から現れる。漢代の軍楽および俗楽で用いられた横笛は,胡人から輸入したもので横吹と呼ばれた。隋・唐代に盛んに行われた西域楽の横笛はインド系である。後世各種の笛が俗楽でも雅楽でも用いられた。指孔は5~7孔である。俗楽用のは笛子という。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【雅楽】より


【楽器】
 管楽器,弦楽器,打楽器の3種は,それぞれ奏法によって,〈吹きもの〉〈弾きもの〉〈打ちもの〉とよばれる(表1)。〈吹きもの〉には篳篥(ひちりき)と各種の笛,(しよう)がある。篳篥は最も多くの種目で用いられる重要な楽器で,〈塩梅(えんばい∥あんばい)〉というポルタメントの効いた奏法に特徴があり,大きな音量で曲の骨格となる旋律を奏する。…

【楽器】より

… 音楽の模倣起源説は動物の鳴声の模倣から音楽が発生したとみなすのであるが,肉声だけでなく道具を用いて動物の鳴声をまねるものも多い。今でも狩猟民はこのような道具を使うが,日本の鹿笛などもその一例である。これらが楽器に転用されたと考えることもできる。…

【篠笛】より

…日本の管楽器。横笛。竹笛あるいは単に笛,〈しの〉ともいう。…

【日本音楽】より

…この変化は改革ではなく,別系統の琴の制覇ではあるまいか。ほかに竹製横吹きの笛と皮を張った打楽器があった。前者は〈やまとぶえ(大和笛,倭笛)〉と呼ばれ,後者は〈つづみ(鼓)〉と呼ばれる。…

【能】より

…構造面では能本(のうほん)の詞章やその小段(しようだん)構成など,技法面では謡の美を息扱いとリズムの細かな変化に求めることなどがそれである。なお,囃子は,世阿弥のころすでに笛,鼓(つづみ),太鼓(たいこ)が用いられていたが,小鼓(こつづみ),大鼓(おおつづみ)の区別があった確証はなく,現在の囃子の楽型が確認できる資料は,江戸時代初頭のものまでしかさかのぼれない。狂言猿楽
【能本】
 能の脚本を古くは能本と呼んだ。…

【能管】より

…日本の横笛の一種。能・狂言においては唯一の旋律楽器であり,歌舞伎囃子,江戸の里神楽,京都の祇園囃子などでも用いられる。…

※「笛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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