童心説(読み)どうしんせつ(英語表記)tóng xīn shuō

改訂新版 世界大百科事典 「童心説」の意味・わかりやすい解説

童心説 (どうしんせつ)
tóng xīn shuō

中国,明代の思想家李贄りし)の基本的人間観。孟子赤子の心に人間の本来的姿の顕現をみたごとく,幼児に理想態をみる考えは古来あった。李贄は救いがたいほどに世俗的な汚濁,後天的な習気にまみれている現存在する人間に対する反措定として,後天的世俗的なものにいっさい汚染されていない童心こそが人間の本来性を象徴するものとし,万人が本来完全に具有するこの童心を覚醒して悪の世界から自己救済することを強調した。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の童心説の言及

【中国思想】より

…明が清に滅ぼされたとき,節を守って殉じた大儒劉宗周を右派の代表格とすれば,左派の代表者は李贄(りし)(卓吾)である。 李卓吾は王陽明の良知説を発展させて童心説を唱え,自然のままの童心に帰るべきことを主張した。その童心は私欲すなわち勢利(地位財利)の欲望を含むものであり,聖人といえども人間である以上,私欲をもつものである。…

【李贄】より

… 李贄の思想の特色は,儒・仏・道の三教の遺産を存分に活用しながらも,教学の枠にいささかも拘束されることなく,真実の生を求めて激しく生きたことである。とりわけ,いっさいの仮構を拒否して人間の本来性をうたいあげた〈童心説〉は著名である。人間の偽善性を鋭く剔抉(てつけつ)して思想界を震憾させ(《焚書》),秦の始皇帝や馮道(ふうどう)を高く評価して旧来の歴史観に安んずる者の度胆をぬき(《蔵書》),また小説を評価し,特異な女性観を表白するなど,彼の言動はことごとく旧態になずむ思想界にあまりにも挑戦的であった。…

※「童心説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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