立正安国論(読み)リッショウアンコクロン

デジタル大辞泉 「立正安国論」の意味・読み・例文・類語

りっしょうあんこくろん〔リツシヤウアンコクロン〕【立正安国論】

鎌倉時代の仏教書。1巻。日蓮著。文応元年(1260)成立。執権北条時頼に呈上。当時の天変地異法華経にそむいた結果と断じ、正法すなわち法華経を信じなければ安国にならないと、問答体で述べたもの。

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精選版 日本国語大辞典 「立正安国論」の意味・読み・例文・類語

りっしょうあんこくろん リッシャウアンコクロン【立正安国論】

仏教書。一巻。日蓮著。文応元年(一二六〇)成立。幕府に上呈されたもので、法華経に基づく諸経・諸宗の統一を主張し、正法が確立されない限り国の安泰はないと説く。法然念仏が邪法として鋭く攻撃される。

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改訂新版 世界大百科事典 「立正安国論」の意味・わかりやすい解説

立正安国論 (りっしょうあんこくろん)

日蓮の代表的著作の一つ。《安国論》と略称する。1260年(文応1)撰述したが,その自筆本はなく,1269年(文永6)これを書写浄書したと思われるものが千葉県中山法華経寺に所蔵され国宝になっている。さらにのちこれを増補して広本とよばれる一本が京都本圀(ほんこく)寺に現存する。1250年代,東国に地震,大風,大雨,飢饉,疫病等災害が続出,多くの人びとが死に,病み,飢えに苦しんだ。鎌倉にいた日蓮はこうした状況のなかで,災害続出の原因とその対策とを考え,先に《守護国家論》を述作,これにもとづき《安国論》を撰述した。本書は,旅客と主人との問答を重ねていく形式をとりながら,原因と対策がともに宗教的な問題であるとしているところに特徴がある。日蓮は,災害続出の原因は法然浄土教の流布にあるとし,この流布の結果,人びとは法華信仰を棄捨し,そのため国土を守護する善神や聖人が離去したので,悪鬼が跳梁してこれらの災害が起こるのだとする中世的災害観をとっている。したがって,法然浄土教の流布をとどめ,人びとが法華信仰に回帰するならば,三界はことごとく仏国土となるから,そこに災害の生ずるはずはないとして,〈正法の樹立を優先させ,それが国土の安穏をもたらす〉という考え方を示した。さらに日蓮は本書のなかで,このまま放置すれば,経典に指摘されながらいまだ起こっていない自界叛逆難(じかいほんぎやくなん)(内乱)と他国侵逼難(たこくしんぴつなん)(侵略)も起こること疑いなしと述べている。1268年(文永5)の元の国書の到来によって,日蓮自身も周辺の人びとも,これをその予言とするにいたった。日蓮は本書を,天台沙門日蓮の名において,前執権で北条氏得宗として政界最高の実力者であった北条時頼に提示した。いっぽうこの論旨は,鎌倉の法然浄土教徒の知るところとなり,彼らは日蓮と理論闘争を行ったばかりでなく,襲撃している。こうした浄土教徒との葛藤や,《安国論》に結果的ではあるが政治批判もみられるところから,日蓮の意図は実現されず,かえって1261年(弘長1)5月,伊豆伊東に流謫(るたく)され,3年の流人生活を強制された。後年,日蓮はその生涯において〈三度の諫暁(警告)〉を行ったとし,これを自己高名としたが,《安国論》提示をその最初としている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「立正安国論」の意味・わかりやすい解説

立正安国論
りっしょうあんこくろん

鎌倉時代の仏書。1260年(文応1)日蓮(にちれん)39歳の著作。一巻。略称して『安国論』ともいう。日蓮真筆は1269年筆のものが千葉県市川市中山法華経(ほけきょう)寺に現存。原漢文で、旅客と主人との10番の問答からなる。当時、鎌倉では天変地異が打ち続いたが、1257年(正嘉1)8月の大地震はことに激烈を極め、住民の困苦甚だしく、日蓮はまる3年をかけて、災難の原因と災難退治の方法とを仏書に求め(伝説では静岡県岩本実相寺(いわもとじっそうじ)の経蔵にて研究)、前執権の北条時頼(ときより)に上呈した。題名は、正法(しょうぼう)を建立して国土を安穏にするという意味である。正法に対する邪法には法然(ほうねん)(源空)の念仏をあげているが、そこに現世厭離(おんり)して来世極楽往生(ごくらくおうじょう)を欣(ねが)うことに末代の宗教の役割があるのではなくて、この穢土(えど)を仏国土化しようと発菩提心(ほつぼだいしん)することのたいせつさを訴える主張がみられる。国家諫暁(かんぎょう)の書であるため、結論に達するための経過の説明に乏しく、前年に発表された『守護国家論』を併読するとよい。『安国論』の献上は、本論の諫暁の趣旨が、かえって幕府の反感を買い、以後は絶えず幕府などの迫害を受けることになった。しかし迫害により日蓮の立正の情熱はいっそう高まり、法華経体験は深まったので、本論は日蓮の宗教の出発点として尊重され、三大著作の一つに数えられる。

[浅井円道]

『鈴木一成著『日蓮聖人正伝』(1948・平楽寺書店)』


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百科事典マイペディア 「立正安国論」の意味・わかりやすい解説

立正安国論【りっしょうあんこくろん】

鎌倉時代の仏書。1巻。1260年日蓮撰。《安国論》とも。打ち続く天変地異と社会不安について思索した結果,正法(しょうぼう)である《法華経(ほけきょう)》に帰することによって,国が安泰になると確信して書かれたもので,北条時頼(ほうじょうときより)に提示された。安国を客とし,立正を主人として対話させ,立正の確立によって安国がもたらされる理を示そうとしたもの。日蓮の三大部の一つ。
→関連項目妙蓮寺

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「立正安国論」の解説

立正安国論
りっしょうあんこくろん

日蓮著。1260年(文応元)宿屋左衛門入道を介して前執権北条時頼に提出した建白書。「開目鈔」「観心本尊鈔」とならぶ日蓮の三大部の一つ。旅客と主人の問答9番よりなる。あいつぐ天変地異は,「法華経」の正法にそむき念仏の邪法に帰依するためで,もし念仏の邪法を禁じなければ自界反逆と他国侵略がかならずおこるとして,「法華経」に帰依するよう勧め,立正安国の理想をのべた。時頼に提出したものは伝わらないが,69年(文永6)の日蓮真筆本(国宝)が千葉県市川市の中山法華経寺に現存するほか,直弟たちによる写本がある。「日本古典文学大系」所収。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「立正安国論」の意味・わかりやすい解説

立正安国論
りっしょうあんこくろん

日蓮著。1巻。文応1 (1260) 年成立。日蓮の代表的著作である五大部の一つ。当時しきりに起きた天変地異は,浄土教などの邪法の弘通によるとして排斥し,諸経,諸宗を『法華経』のもとに統一して正法を広めるべきことを主張した書。先に国家を祈ってのち仏法を立てるとして,安国に重点をおく客 (俗) が,正法の確立によって国が安泰になるとする主人 (僧) に次第に導かれてゆく対話形式で書かれている。

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旺文社日本史事典 三訂版 「立正安国論」の解説

立正安国論
りっしょうあんこくろん

鎌倉中期,日蓮の著した問答体の仏教書
1260年完成。『法華経』こそ唯一の正法であると説き,他宗派を激しく攻撃。天変地異が続くのは邪法を信じるがためと述べ,国難を予言した。この結果,日蓮は伊豆国に流罪となった。

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世界大百科事典(旧版)内の立正安国論の言及

【鎮護国家】より

…摂関政治・院政期には鎮護国家の概念に代わって,むしろ王法仏法(王法)の観念が強まってくるが,鎌倉時代には禅宗,日蓮宗の勃興とともに仏法による護国論が提起された。栄西は《興禅護国論》を著して禅院の建立は国家を守護し民衆を利するものとし,道元は永平寺を建立してこれを実践したし,日蓮は《立正安国論》《守護国家論》を著した。1338年(延元3∥暦応1)から足利氏が諸国に設けた安国寺は,〈安国利生〉に基づく創建で,これも南北朝動乱の終焉を祈るとともに国家の安寧平和を目的としたものであった。…

【日蓮】より

…天台寺院清澄寺で道善房を師として出家し,1253年(建長5)同寺で法華信仰の弘通(ぐづう)を開始,法華仏教至上の立場から浄土教を批判したため,浄土教徒に圧迫され同寺を退出,弘通の場を鎌倉に求めた。そのころ地震,疫病,飢饉等災害が続出し,日蓮はこの原因を法然浄土教の流布と人々の法華信仰の棄捨によるものとし,浄土教徒への資援禁止と法華信仰への回帰を対策として,これを《立正安国論》にまとめ,60年(文応1)前執権で北条氏得宗(とくそう)の北条時頼に提示した。同書には,このまま放置すれば経典が指摘する自界叛逆(ほんぎやく)難(内乱)と他国侵(しんぴつ)難(侵略)が起こるだろうと記され,のちに後者が蒙古襲来の予言として受けとめられた。…

【仏教】より

…日蓮は《法華経》だけを唯一の正法と認め,この《法華経》の眼目が〈南無妙法蓮華経〉の題目であるとし,《法華経》への唯一絶対の信心をもとに,専持法華と唱題だけで,すべての人びとが差別なく成仏できると説いた。しかも日蓮は,彼岸での救済よりも,主著《立正安国論》で明示したように,正しい仏法が興隆すれば国土の災害除去は可能であると,現実国土の世なおしや現世での救済を重視し,この教説における強靱な現世性がこの宗派の特色となった。 以上述べたように,浄土宗・浄土真宗・時宗・日蓮宗は,それぞれ教説に特色をもつが,その反面でいくつかの共通点ももっていた。…

※「立正安国論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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