立つ(読み)タツ

デジタル大辞泉 「立つ」の意味・読み・例文・類語

た・つ【立つ】

[動タ五(四)]
ある場所にまっすぐ縦になっている。
㋐足を伸ばしてからだを縦に支える。「通路に―・つ」
㋑草や木が地に生える。「街路樹が―・つ」
㋒長いものや高大なものが直立して位置する。「看板が―・つ」「電柱が―・つ」
㋓とがったものが突き刺さる。「とげが―・つ」「歯が―・たない」
㋔突き出た形のものが生じる。「霜柱が―・つ」
座ったり横になったりしていたものが起き上がる。また、低い位置から高く上る。
㋐身を起こす。立ち上がる。「呼ばれたら―・ちなさい」
㋑伏せていたものが起きる。「髪の毛が―・つ」「鳥肌が―・つ」
㋒《「勃つ」と当てて書くこともある》(興奮により)陰茎や乳首などが固く大きくなる。
[補説]本来「」は、物事が急に起こる意。
㋓煙や蒸気などが空中に上がり漂う。「土ぼこりが―・つ」
㋔鳥や虫などが飛び上がる。
「(昆虫ガ)ブンと鼻先へ―・って来たのを」〈風葉青春
身を起こしてその場を離れる。「席を―・つ」「手洗いに―・つ」
(「起つ」とも書く)決意して事を起こす。奮起する。「反対運動に―・つ」
戸や障子が閉じる。「雨戸が―・っている家」
自然界の現象・作用が目立って現れる。
㋐雲・月などが空高くかかる。「虹が―・つ」「霞が―・つ」
㋑風・波などが起こる。「涼風が―・つ」「土用波が―・つ」

㋐ある立場や状況に置かれる。「先頭に―・つ」「苦境に―・つ」
㋑重要な役目・地位につく。「教壇に―・つ」「証人に―・つ」「衆議院議員候補に―・つ」
㋒高位につく。「東宮に―・つ」
㋓目的をもってある場所に身を置く。「署名を求めて街頭に―・つ」
度合いが強くなって明らかになる。
㋐はっきり耳目に認められる。「声が―・つ」「目に―・つ」
㋑世に知れ渡る。「うわさが―・つ」「人気が―・つ」
㋒はっきり示される。「あかしが―・つ」「値が―・つ」
新しい季節が始まる。「秋―・つころのものがなしさ」
10 事物が新たに設けられる。
㋐催しなどの場が開かれる。「いちが―・つ」
㋑理論などが新しくつくり示される。「新説が―・つ」
㋒目標などが定まる。「予定が―・つ」「見通しが―・たない」
割り算で商が成り立つ。「六を二で割ると三が―・つ」
11
㋐盛んに気泡が生じる。「泡が―・つ」
㋑湯などが沸く。「風呂が―・つ」
12 感情が激する。たかぶる。「腹が―・つ」「気が―・つ」
13 技能などがいちだんとすぐれる。「弁が―・つ」「腕の―・つ職人」
14 物事が好ましい形で成り立ったり維持されたりする。
㋐目的にかなって使用価値がある。「役に―・つ」
㋑損なわれないで保たれる。「面目が―・つ」「暮らしが―・つ」
㋒筋道がきちんと通る。また、しっかりと成立する。「道理が―・つ」「義理が―・つ」「言い訳が―・たない」
㋓認められて世間を渡る。「小説家として―・つ」
15 乗り物などがとどまって、ある場所を占める。
雲林院知足院などのもとに―・てる車ども」〈・二二二〉
16 動詞の連用形のあとに付いて複合語をつくる。
㋐その状態が盛んであることを表す。「はやり―・つ選手」「湯が煮え―・つ」
㋑その動作がにわかであることを表す。「思い―・ったが吉日」
[可能]たてる
[動タ下二]た(立)てる」の文語形
[下接句]秋風が立つ足元から鳥が立つ彼方あちら立てれば此方こちらが立たぬ一分いちぶんが立つ腕が立つ男が立つ面影に立つ顔が立つ風下かざしもに立つ角が立つ川中には立てども人中には立たれず気が立つくその役にも立たぬ暮らしが立つ後悔先に立たず小腹が立つ先に立つ背負しょって立つ白羽の矢が立つ世間が立つとうが立つ年立つ・名が立つ・名に立つ歯が立たない腹が立つ火の無い所に煙は立たぬ額には立つともそびらに箭は立たず人と屏風びょうぶすぐには立たず人目に立つ筆が立つ弁が立つ的が立つ耳に立つ向かう鹿ししに矢が立たず目に立つ物も言いようで角が立つ役に立つ夢枕ゆめまくらに立つ用に立つ
[類語]佇む立ち尽くす突っ立つ起立起こす起きる立てる引き起こす起き上がる立ち上がる直立仁王立ち棒立ち吹く

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「立つ」の意味・わかりやすい解説

立つ
たつ

足(下肢)で躯幹(くかん)を支えることをいう。つまり、重力の方向と平行に身体を長軸として支持することであり、直立姿勢とは、人間特有なものである。人間は、両足で躯幹を支えるが、ときには片足で支えることもある(片足立ち)。ほかに一時的なものとして「逆立ち(倒立)」「膝(ひざ)立ち」がある。逆立ちは、足のかわりに手(上肢)を使って躯幹を支え、膝立ちは、膝を曲げ膝頭(ひざがしら)(大腿(だいたい))で躯幹を支えることである。

[森 義明]

立つことの意味

人間の体位の基本動作としては、立つ(立位)・座る(座位)・横たわる(横臥(おうが)位)の三つに分けられる。横たわることは、躯幹、四肢ばかりでなく、気持ちまでも休息の状態となるが、これに対して立つことは、歩く・走る・跳ねるなどのための前提であり、いいかえると、動くための基本型である。立つ肢位とは、足底(蹠(あしうら))を床面につけ、股(こ)関節と膝(しつ)関節を伸ばし、その上に骨盤が連なり、さらに躯幹、頭部がのり、これらの平衡感覚を中脳・小脳などが支配し、下肢を立て躯幹を支えるわけである。その場合、上肢は、バランスをとることに関与している。

 立つ姿勢としては、二本の足を用いるのが基本型であるが、休息のために杖(つえ)を用いたり、何かに寄りかかる際に一本の足に体重をかけて立ったりすることもある。乳児期や下肢筋の弱い場合には、四つんばい(高這(ば)い)となり両手を使って尻(しり)を高くあげ、二本足立ちの前段階にあたる四つ足立ちなどがある。

[森 義明]

蹠立(しょりつ)・趾立(しりつ)

立つ場合、足の底(蹠)全体を床面につける「蹠立」が基本となる。ほかに前足部を浮かしたかかとでの立ち方、足底の内縁を浮かし内反足ぎみに外縁だけでの立ち方、背伸びの場合には、尖足(せんそく)位となり、つまさき立ちの「趾立」がある。一般には趾(あしゆび)を曲げて趾の蹠部で立つが、バレリーナでは、趾を伸ばし趾の先端で立つ「蹄立(ていりつ)」の立ち方などがある。

[森 義明]

立つことと進化

人間が直立二足歩行をするようになった原因については諸説がある。上肢を手として使うようになったために、下肢で躯幹を支えるようになったという説や、樹上生活で枝にぶら下がって移動するブラキエーションbrachiation(腕渡り)が直立姿勢をもたらし、やがて下肢(後ろ足)で移動できるようになったとする説などである。

 いずれにせよ、直立姿勢は上肢(手)を歩行器としての役割から解放した。こうして、手がつかまり立ちや立つ場合のバランスをとるのに用いられるなど、下肢筋の補助的な役割を果たすようになり、さらに肩の運動や手を自由に使ったりすることで道具作りや道具の使用、そのための行為が脳を刺激し、さらに言語を生み出すに至ったと考えられている。

[森 義明]

いろいろな「立つ」

普段なにげなく立ったり座ったりしているが、立ち方について、すこし詳しくみてみよう。

[森 義明]

子供の立ち方

生後7~9か月に入ると股関節、膝関節を曲げ首をあげて座ることができる。そして足底が床面に触れると、足を伸ばし立とうとする支柱反射supporting spinal reflexが現れる。「四つんばい」から、さらに、手を伸ばし物につかまり躯幹を引き寄せながら立つことができるようになる。

[森 義明]

正座から立つ

無意識に行っている動作を分解してみると、正座位から趾を立て跪座(きざ)位をとり、ついで片方の足を前に出して立て、体重を前方に移し立ち上がる、そうした一連の動きがある。老人や筋力の弱い人は、手を膝に当て膝折れしないように手で支えて立つ(詳しくは項目「座る」を参照)。

[森 義明]

椅子(いす)から立つ

躯幹を前に曲げ、体重を前方に移し、膝関節を伸ばして立つ。椅子の場合でも、筋力の弱い人の立ち方は、大殿筋および大腿四頭筋筋力の低下のために、膝の上に手を当て、膝を伸ばしながら手を大腿近くへずらしながら、躯幹を押し上げるようにして起立する。これを「登攀(とうはん)性起立」climbing up his legと称し、進行性筋ジストロフィーなどにみられることがある。

[森 義明]

正しい立ち方・楽な立ち方

正しい立位とは、外見上美しく見え、機能的であり、同じ姿勢を続けても疲労感がなく、エネルギー消耗の少ない姿勢である。具体的にいうと、立位や歩行の際には、すっと背を伸ばし、自然に胸が腹より前に出ている姿勢がいい。疲労が重なると、あごが前に出、そのため肩があがり、背中が丸くなり、それに伴い代償的に腹を突き出す姿勢になる。そうなると、やがて立っていることも苦痛となり、腰を下ろし、座るか、しゃがむかせざるをえない。「気をつけ」という立ち方がある。これは意識的にとる立つ姿勢で、両かかとをそろえ、両足先の角度は約60度に開き、膝関節、腰を伸ばし、肩を後ろに引き正面を見てあごを引く。その際、両手は指先を伸ばし大腿部の横にぴたりとつける。この立位は、いかなる動き方を命じられても、すぐに対応できる立ち方であるといわれている。

 楽な立ち方とは、厳密な定義はありえないが、それぞれ自分が立っていて、もっとも楽な立ち方でいい。一般に両足を30~40センチメートルに開き、つまさきは30度程度、外側に向けて開き、両下肢に均等に体重をかけ、顔を持ち上げ、前面を見て、両手は軽く後ろにあわせる。この体位が楽な立ち方である。「休め」は、「気をつけ」に対しての反対の立ち方で、両肩・両手の力を抜き、片足を斜め前に出す。いわゆる、片足に体重をかけ、片足を休ませるという立ち方である。

 一本足で立つことは、先進国ではほとんどみかけることはないが、エジプトのナイル地方、イラン、インド、南アフリカに多くみられる。これらの立ち方は、遊び足を片方の膝の上に置き、はだしで行う立ち方である。遊び足の側に杖などを巻き付けている場合もあり、この姿勢は、もともとは野外休息の立ち方であったと考えられる。

[森 義明]

立つことの問題点

人間が立ったときには、二本の足の上に骨盤が床面に対して30度の、いわば前傾斜のすべり台のようになっていて、その上に脊柱(せきちゅう)・頭部というユニットがのっているとみることができる。このユニットが滑らないように働いている。前方には腹筋、後方には脊柱傍筋、殿(でん)筋があり、それに下肢筋が加わっている。しかし筋肉の助けを借りていても、立っている状態では、脊柱と骨盤が連なっている部分に絶えずストレスが加えられる。いいかえると、正しいきちんとした姿勢というものは、腰仙部ではつねに過酷な状態を強いられるため、椎間板ヘルニアなどによる腰痛が生じるおそれがある。

 したがって、長時間、立って仕事を続けなければならないときには疲労を少なくするくふうが必要である。たとえば、そばに10~15センチメートルの高さの踏み台を置き、一方の足をのせることにより骨盤の前傾を少なくし、腰椎が前方に弓なりになるのを防ぐようにするなどである。ときどき、踏み台にのせる足を交替させるのもいい。腰痛のほかの弊害として内臓下垂、痔(じ)などがみられることもある。

[森 義明]

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