内科学 第10版 「突然死」の解説
突然死(不整脈)
予期しない,事故や外傷によらない内因性の急性死を突然死とよぶ.おもに発症から24時間以内に死亡するものを指すが,狭義に瞬間死や1時間以内の死亡をさすこともある.心臓疾患によるものを特に心臓突然死(sudden cardiac death)とよび,米国においては年30万〜40万件と推測されている.
ここでは心血管系疾患を中心に突然死の概要を述べるが,遺伝性素因が関与する先天性QT延長症候群とBrugada症候群の詳細は他項に譲る【⇨5-6-1)】.
原因・病因
突然死の頻度は年齢,冠危険因子,心不全などに依存し,健常若年者では厳密な意味での「予期せぬ死」は少ない.遺伝的背景が明らかでない特発性心室細動が記録されることもまれである.図5-6-43の心室細動は初発の失神発作を契機に若年者から記録されたものであり,異型狭心症や遺伝性不整脈は確認できなかったため,特発性心室細動と診断された.
表5-6-9に突然死のおもな原因を列挙する.わが国での疫学調査の結果(小西ら,1995)を図5-6-44に示す.この報告では20〜74歳の突然死発生率は10万人あたり年35人,急性心筋梗塞や陳旧性心筋梗塞後の不整脈死を含め冠動脈硬化が関与することが明らかなものは1/4前後であった.しかし,原因が確認できない症例もしばしば冠動脈疾患によるものと考えられている.
病理
冠動脈硬化症のほか,肥大型心筋症,弁膜症はまれならず認められる.拡張型心筋症,不整脈源性右室心筋症,心筋炎,サルコイドーシスもときに遭遇する.若年者や乳幼児では年齢に特異的な病理像が知られており,川崎病による非動脈硬化性冠動脈異常や先天性の冠動脈形成異常がある.
病態生理
突然死の危険因子を表5-6-10に示す.心房細動,心房粗動,心室頻拍,心室細動の既往はいずれも予後予測因子である.Holter心電図による突然死の観察では80%が頻脈性不整脈であり,房室ブロック,心静止,electrical mechanical dissociationが残りの20%を占めている.救命救急の現場での心電図所見は発症後の時間経過に左右され,発症直後の方が心室頻拍や心室細動を検出する割合が高い.
心不全の有無,その重症度は突然死に関して精度の高い予測因子である.また,心不全症例の突然死に関して性差が大きい.Framingham研究の報告(Kannel,1984)では血圧,血清脂質,呼吸機能,喫煙,体重,心拍数,あるいは心電図異常などがリスク予測因子としてあげられているが,これらを補正しても男女間の差は有意であった.年齢が10歳増すごとに突然死の頻度は倍増し,さらに心不全や冠動脈疾患があれば突然死のリスクは9倍に増加するが,どの年齢でも男女比として3倍の開きを認めている.
大動脈弁狭窄症の失神は末梢血管拡張および抵抗の低下に相応の心拍出量が維持できないときにも生じるが,突発的なエピソードは労作に伴う心室壁への高度圧負荷が惹起する迷走神経反射によって説明される.高度狭窄はあるが無症候性の大動脈弁狭窄症における突然死は息切れ,失神,胸痛などを認める前にも生じる. 貧血は消化管腫瘍や血液疾患など非心臓疾患と関連して生命予後に反映されるが,一部の心臓疾患でも予後との関連が示唆されている.特発性の拡張型心筋症ではまれならず貧血を認めるという.心不全や低血圧とともに貧血も突然死と関連する.貧血は代償的な心拍出量の増大を招き,交感神経活動の亢進や進行性の心不全を介して突然死の増悪因子となることは理解しやすい.
一見,関連が乏しいようにみえるが統合失調症でも突然死が健常者の3倍に上るとする集計がある.生活習慣の反映,あるいは治療に関連した代謝異常から心血管障害の発生が促されるという仮説も提示されている.抗精神薬によるQT延長症候群,あるいは圧受容器感受性反射や心拍変動の低下から推測される自律神経機能障害の関与も推測される.
肥満は高血圧,脂質異常,糖尿病のいずれとも関連するため,心血管系疾患および腎疾患を介して予後に大きな影響をもつ.また,経済レベルと突然死との関連も指摘されている.
診断
心血管系疾患の診断が優先するものの,器質的心疾患を有するときにも症例ごとに致死的心室不整脈の出現傾向を推測することは,薬物治療や植え込み型除細動器などの非薬物治療の選択に重要となる.冠動脈造影や心エコーのほか,平均加算心電図,QT dispersion,マイクロボルトT波交互脈,心拍変動による自律神経機能評価,圧受容体感受性(baroreflex sensitivity)などが行われる.疾患の種類により予後予測精度には差があり,感度や特異度を考慮して複数の検査を総合して評価することが勧められている.
治療
直接に原因となる病態への薬物治療と非薬物治療,および間接的に生活習慣や冠危険因子への考慮が必要となる.心室不整脈にはアミオダロンと植え込み型除細動器がおもな選択であるが,高血圧など慢性疾患に対する治療は心事故の減少に有効である.[村川裕二]
■文献
Kannel WB, et al: An epidemiological perspective of sudden death. 26-year follow-up in the Framingham Study. Drugs, 28: 1-16, 1984.
小西正光:予防疫学に関する研究.平成6年度厚生科学研究補助金成人病対策総合研究事業「突然死に関する研究」(統括主任研究者:尾前照男),pp233-245,国立循環器病センター,大阪,1995.
豊嶋英明,田辺直仁:心臓性突然死の疫学,新不整脈学(井上 博編),pp508-512,南江堂,東京,2003.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報