稲荷講(読み)いなりこう

精選版 日本国語大辞典 「稲荷講」の意味・読み・例文・類語

いなり‐こう【稲荷講】

〘名〙
① 京都の伏見稲荷大社参詣のために組織した信者団体。旧暦二月の初午(はつうま)の日に参詣する。《季・春》
※鈴鹿家記‐応仁元年(1467)一二月五日「聖護院村田中村吉田村へ参相春の稲荷講に三ケ村衆寄合被下候こと」
② 江戸市中に多い稲荷小社の祭に、子供数人で、狐を描いた絵馬板をもち、「稲荷さんの御勧化御十二銅おあげ」といいながら、戸毎に銭を請い回ったならわし。また、その銭。
※歌舞伎・色一座梅椿(1812)四幕「若旦那のお使ひに出て、此やうな絵馬や、延喜百両を持ち歩いて、なぜ稲荷講(イナリカウ)を集めて歩くのだ」

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デジタル大辞泉 「稲荷講」の意味・読み・例文・類語

いなり‐こう【稲荷講】

稲荷を信仰する人たちが祭礼や参詣のために組織する団体。 春》
江戸市中の稲荷小社の祭りに、子供が数人で狐を描いた絵馬板を持ち、家ごとに銭を請い歩いた風習

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「稲荷講」の意味・わかりやすい解説

稲荷講
いなりこう

京都市伏見(ふしみ)区にある稲荷神社などに対する信仰から結ばれている講。稲荷の作神的性格から農耕神としてはもちろんのこと、豊漁を願う漁業の神、商業の神、ひいては鍛冶(かじ)の神として広く全国的に普及している。神棚に祀(まつ)るほかに、邸内や一定の土地の一区画など屋外に祭場をもつ形態、いわゆる屋敷神として祀られている場合が多い。これを大別すると、屋敷稲荷などとよばれる個人持ちのものと、小字(あざ)や組、町内単位で管理にあたる共同のものとがある。これらを中心にして稲荷講が行われるのである。

 稲荷講の盛んな神奈川県の事例から前者をみていくことにする。個人のとは別に、2月初午(はつうま)に数戸が集まって祀る稲荷をナカマイナリという。甘酒はかならず供えるので、前年と本年の宿の主婦が2日ほど前に仕込む。あらかじめ当番の家の一画、その四隅に榊(さかき)を立てて斎場として赤飯を供える。そのそばには幟(のぼり)を立てる。当日は講中の子供が太鼓をたたきながら、各家の稲荷を回る。夕方から本膳(ほんぜん)が始まる。祭りが終わるとすぐに幟を次の当番に送る。なお、天神講のように一定の年齢、あるいは男女別の集団の講もあるようだが、事例も少なく、古くからの形態とは考えにくいものである。

[佐々木勝]

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世界大百科事典(旧版)内の稲荷講の言及

【初午】より

…全国的に稲荷信仰と結びついているが,旧暦の2月初午は農事開始のころにあたり,そのために農神の性格をもつ稲荷と結びつきやすかったのであろう。関東地方では稲荷講が盛んで,稲荷の祠に幟(のぼり)を立て油揚げや赤飯などを供えて祭り,参加者が飲食を共にしている。スミツカリという独特の食品を供える所もある。…

※「稲荷講」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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