いなぶね‐の【稲舟の】
① 同じ音の繰り返しで「否
(いな)」を、また、
稲舟②は軽い小舟なので「軽し」を引き出す
序詞の一部として用いる。
一説には
枕詞とする。
※
古今(905‐914)
東歌・一〇九二「もがみ川のぼればくだるいなふねのいなにはあらずこの月ばかり〈みちのくうた〉」
② (「稲舟の否
(いな)にはあらずしばしばかり」という慣用表現から) 条件付きの
肯定の
気持を表わす。承知したがしばらく待ってほしい。
※後撰(951‐953頃)恋四・八三八・詞書「せうそこつかはしける女のもとよりいな舟のといふ事を返事にいひ侍りければ頼みていひ渡りけるに」
③ (②で示したのと同様の慣用表現から) 「しばし」を引き出す序詞のように用いられる。
※
拾遺(1005‐07頃か)雑下・五七五「如何せむわが身くだれるいな舟のしばしばかりの命たえずは〈藤原兼家〉」
④ (「稲」と「否」をかけて) 不承知の意を表わす。
※
山家集(12C後)下「縁
(ゆかり)有りける人の、
新院の勘当なりけるを許したぶべき由申入れたりける御返事に、
最上川つなで引くともいなぶねのしばしが程はいかりおろさん〈
崇徳上皇〉」
[
語誌]
上代に
用例がなく、①に挙げた「
古今集」の例が有名。その後は、この歌を踏まえて詠まれるものが多く、ほとんどが最上川のものとして歌われる。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「稲舟の」の意味・読み・例文・類語
いなぶね‐の【稲舟の】
軽小な稲舟の意から「軽」、また同音の「いな」を引き出す序詞。
「最上川のぼればくだる―いなにはあらずこの月ばかり」〈古今・東歌〉
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