稲積(読み)いねつみ

精選版 日本国語大辞典 「稲積」の意味・読み・例文・類語

いね‐つみ【稲積】

〘名〙
① 刈り取った稲を重ねて置くこと。《季・秋》
※俳諧・丈草発句集(1774)秋「稲積に出るあるじや秋の雨」
② 寝ること、特に病気をわずらうことをいう正月の忌み詞。
随筆一話一言(1779‐1820頃)二六「八丈島方言〈略〉正月祝ことば〈略〉イネツミ 煩ふ事」

いな‐づみ【稲積】

〘名〙 刈り取った稲を積み重ねたもの。稲塚。稲むら。
播磨風土記(715頃)揖保「山の形も亦稲積(いなづみ)に似たり」

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改訂新版 世界大百科事典 「稲積」の意味・わかりやすい解説

稲積 (にお)

刈った稲を円錐形に積み上げたものをいう。ニオは新嘗(にひなめ)のニヒ,ニフのほか,ニエすなわち贄の語とも関連するらしい。神霊に捧げる供物という意味である。刈ったばかりの稲穂のついたままの束を積み上げた場所は,そのまま田の神をまつる祭場と考えられていたという説もある。稲積の名称や形状は,各地で少しずつ異なっており,ニオのほかニゴ,ミゴ,ニュウ,ニョー,ツブラ,グロ,スズミススキ,ホヅミ,イナムラ,イナコヅミなどと呼ばれ,頂にワラトベ,トツワラ,トビなどと呼ぶわら製の笠形の飾りや屋根をのせるのが特徴である。稲積が田の神の依代(よりしろ)とみなされていたとすると,その中に稲種子が保存されていたと想像されている。沖縄八重山地方では,かつて稲積をシラと呼んでいた。シラは誕生に通ずる古語であるので,稲積は〈稲の産屋(うぶや)〉とも考えられる。これはここに保存された種子が,翌年再生することによって稲霊=田の神が永続していくという農耕心意に基づいている。現在では,脱穀の方法が発達しており,稲束を野外で乾燥させて脱穀したのちに,わら束だけを積んでおく形に変化している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「稲積」の意味・わかりやすい解説

稲積
にお

刈取った稲束を円錐形に積上げたもの。異名が多くイナムラ,イネコズミ,ニュウ,ニョウスズキなどともいう。今日では脱穀したのちわら束を積上げるワラニオが普通であるが,昔は穂のついたままの穂稲を積み,必要に応じて脱穀したものである。ニオの頂上にはわら帽子をつくっておおう習慣があり,本来ここが稲の収穫を祝う祭場であったらしい。沖縄ではニオをシラといい,それがまた産屋 (うぶや) をも意味している。このニオによって翌年の穀種が生育するという信仰があったらしい。

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世界大百科事典(旧版)内の稲積の言及

【新嘗祭】より

…アヘは〈饗〉で神に食物を供えることないしは神人共食の意味である)らしく,ニフナミという東国風の音(《万葉集》巻十四)もあった。ニヒ,ニフは稲積(にお)を意味するニホとも関連が深い。北陸に民俗行事として伝承されるアエノコトや,関東の十日夜(とおかんや)などは,民間で古くから行われた収穫関係の行事で,ニイナメの基礎をなすものである。…

※「稲積」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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