日本大百科全書(ニッポニカ) 「科学博物館」の意味・わかりやすい解説
科学博物館
かがくはくぶつかん
日本では、「博物館法」によれば科学博物館を「産業・自然科学に関する資料を収集整理・保管し、展示および科学的研究をすることを目的とする機関」というように定義することができる。
[雀部 晶]
歴史
ヨーロッパでは、すでに16世紀ごろから科学博物館の萌芽(ほうが)をみることができる。本格的になるのは産業革命以後からである。近代的な科学博物館のスタートは、1799年にパリに創設された国立技術工芸博物館からである。その後、イギリス、ドイツ、アメリカ、オーストリアでもいっせいに科学・技術にかかわる博物館が創設されていった。
日本の科学博物館の歴史はほぼ130年である。1872年(明治5)国立博物館が設立され、そのなかに科学部門が設置された。そしてこの部門が1877年に分離独立し、教育博物館となり、科学教育を担うようになったのが、現在日本で唯一自然史と理工学・生産(技術)分野を展示している国立科学博物館の前身である。この独立時には、外国から入手した教育用具、理化学器械、博物標本などを展示した。1931年(昭和6)に科学博物館と名のるようになり、このころになると、理工学部門では、見学者自身が自ら実験できるような装置、自然史部門では生態展示などがされるようになってきた。
[雀部 晶]
種類
対象によっていろいろな種類の科学博物館がある。自然史全般を扱う自然史博物館、その自然史の個別分野だけを扱う個別自然史博物館、たとえば動物学・植物学・地質学などのジャンルを扱っている博物館、理学・工学・生産(技術)を対象にする科学・技術博物館、その個別分野を対象にした博物館、自然史・理工学・生産(技術)を総合的に扱う科学博物館などがある。
日本では自然史・理工学・生産(技術)を総合的に扱った博物館は、東京の上野にある国立科学博物館1館だけである。この国立科学博物館は、伝統があるだけに、自然史に関する史資料、理工学・生産(技術)に関する史資料とも意欲的に収集されており、わが国の科学博物館のメッカになっている。
個別の科学博物館でもそれぞれの分野の特徴、地域性などを生かしたユニークなものが少なくない。北海道の開拓史を中心にした北海道博物館(札幌市)、秋田県の仁別(にべつ)森林博物館(秋田市)、秋田大学国際資源学部附属鉱業博物館(秋田市)、新潟県の佐渡の金山に関する博物館、出雲崎(いずもざき)町の石油記念館、栃木県宇都宮市の大谷石(おおやいし)に関する大谷資料館、群馬県館林(たてばやし)市にある日清(にっしん)製粉製粉ミュージアム、長野県の岡谷蚕糸博物館、東京の紙の博物館(北区)、逓信(ていしん)総合博物館(千代田区)、交通博物館(千代田区。2006年5月閉館、後継施設「鉄道博物館」が、2007年10月に埼玉県さいたま市に開館)、神奈川県立生命の星・地球博物館(小田原市)、岐阜県の内藤記念くすり博物館(各務原(かかみがはら)市)、名和昆虫博物館(岐阜市)、愛知県の博物館明治村(犬山市)、大阪市立自然史博物館(東住吉区)、大阪市立電気科学館(西区)、兵庫県の赤穂(あこう)塩業資料館、島根県の和鋼記念館(安来市)、広島・長崎県の原爆資料館、愛媛県の別子(べっし)銅山記念館(新居浜(にいはま)市)、福岡県の直方(のおがた)市石炭記念館などがある。
[雀部 晶]
科学博物館の課題
本来、科学博物館は、現代の科学・技術の諸課題の解決のためのヒントを与えるようなものでなければならない。自然の変遷、科学・技術の発達過程を通して、今日的課題についても展示すべきである。しかし、諸々の制約と限界をも持ち合わせている。実際の「もの」を通して見学者に語りかけなければならないが、自然史を語るにもすべて「もの」を通して語ることはできない。火山の生成しかりである。生産(技術)についても、大きな機械を博物館に持ち込むことはできない。これらを視聴覚機器によって補っていくが、おのずと限界がある。一部には見学者をひきつけようとするあまりに、遊び的要素ばかりに目が向き、真理を逆に見失わせてしまうような傾向もある。科学博物館は、自然・科学・技術の発展法則を身につけるための援助者であることを忘れてはならない。
また、展示だけでなく、資料の収集・保存に関しても重要な位置を占めている。科学・技術に関する標本・文献を的確に収集・保存しないと、すべてにわたって保存することは不可能であり、現在の科学・技術の発達をみるならば、その判断基準を明確にしていかなければならないのは当然である。
さらに、研究機能を充実させることが重要である。わが国の科学博物館のほとんどが研究機能をもちえていない。研究機能を備えることによって、現代的・今日的課題に対峙(たいじ)している博物館内の研究者集団が、展示の中に現代的諸課題の解決の緒を示すことが可能となるのである。
展示、資料収集・保存、研究という三つの要素を兼ね備えてこそ、真の科学博物館になりえていくはずである。
[雀部 晶]
『加藤秀俊他編『世界の博物館』22巻・別巻1巻(1978~1979・講談社)』▽『徳川宗敬他監修『博物館学講座』全10巻(1979~1981・雄山閣出版)』▽『全国科学博物館協会編『科学博物館への招待』(1980・東海大学出版会)』▽『佐貫亦男著『科学博物館からの発想――学ぶ楽しさと見る喜び』(講談社・ブルーバックス)』