日本大百科全書(ニッポニカ) 「福の神(狂言)」の意味・わかりやすい解説
福の神(狂言)
ふくのかみ
狂言の曲名。脇(わき)狂言。大晦日(おおみそか)の夜、男(シテ)は福天(ふくでん)へ年籠(としごも)りしようと、友人を誘って出かける。神前に着いた2人が、富貴を祈願して「福は内へ、鬼は外へ」と囃(はや)しながら豆を打っているところに、福の神(福の神の面を着用)が笑いながら登場。神は神酒(みき)を所望し、2人に幸せになる方法を教えてやろうと、早起き、慈悲、人づきあい、夫婦愛、そしてなによりも神にうまい酒を捧(ささ)げることを説き謡い、ふたたび朗らかに笑って留める。中世庶民の現実的な人生の幸せを求める心のよりどころであった「福神(ふくじん)信仰」を反映した作品。笑いのもつ祝言性が、もっとも素直に、かつ効果的に機能を発揮して、狂言の笑いの本質を示唆している。
[油谷光雄]