祖師像(読み)そしぞう

改訂新版 世界大百科事典 「祖師像」の意味・わかりやすい解説

祖師像 (そしぞう)

祖師とは釈迦より仏教を伝授され,これを集大成し,発展させ,あるいはそれによって一宗一派を開創し,またこれをひろめた高僧たちを指し,これら祖師肖像を祖師像という。仏教の始祖たる釈迦とその教えに対する信仰は,インド,中国,日本各地にあってこれを伝えひろめた各祖師たちへの尊敬へと発展し,多くの肖像が製作された。まず仏教成立初期の釈迦在世時代,釈迦に近侍し直接教えを受けた仏弟子としての大迦葉,阿難などの十大弟子像があり,日本では清凉寺,大報恩寺などの像が知られる。さらにインドにおける仏教学の大成者としての高僧,および中国における伝法とインドからの取経,訳経そして教学の発揚に業績のあった高僧などの肖像として,無著・世親像(興福寺),玄奘三蔵像(東京国立博物館),慈恩大師像(薬師寺),善導大師像(知恩寺)などがある。さらに日本に戒律を伝えた鑑真和尚像(唐招提寺)がある。また維摩居士像(興福寺)や倭国教主としての聖徳太子像鶴林寺法隆寺)も祖師像に準じて造られた。

 独自の教学を確立し一宗一派を開創した高僧も,それぞれの宗派の祖師として尊崇された。日本では真言宗の空海(大阪金剛寺本),天台宗の最澄(延暦寺本,滋賀観音寺像),浄土宗の法然(二尊院本),真宗親鸞(西本願寺本),日蓮宗の日蓮(本門寺像)などの肖像は,各祖師の個性的な教えと活動をよく物語っている。各宗,各寺の発展や中興に力のあった高僧も祖師と並んで多くの肖像を残している。行基菩薩像(唐招提寺),勤操僧正像(普門院),智証大師像(園城寺),良弁僧正像(東大寺),俊乗上人像(東大寺),明恵上人像(高山寺),叡尊像(西大寺),空也上人像(六波羅蜜寺)などがあげられる。さらに各宗の開祖よりその教えを師資相承し,後世にひろめた法脈を示すべく,列祖画像が多く製作された。法相六祖像(興福寺),真言八祖像(神護寺),天台高僧像(一乗寺),浄土五相像(愛知曼荼羅寺),真宗七高僧像などがある。かつて東大寺大仏殿内に,南都六宗の各宗ごとに厨子が造られ,その扉には各宗の祖師たちを描いていたが,平安末期の俱舎曼荼羅(東大寺)はこの六宗厨子の扉の祖師像を継承していることが知られる。このように多くの場合,その祖師たちの個性が描き分けられ,さらに生前の姿を正確に伝えることが要求された。各祖師の肖像は,やがて一定の図像が定まって継承伝受され,複写流布が行われた。鎌倉時代になって中国より入った禅宗は,ことに師資相承の法系を重んじ,禅宗の始祖達磨大師の肖像はもとより,それに連なる多くの高僧たちの肖像(頂相(ちんそう))を製作し,生けるがごとくに礼拝した。頂相は各高僧の個性を写実的に表しており,祖師像あるいは肖像の彫像,画像の中でも特異な一群を形成している。なお禅宗では達磨大師のみを祖師とよぶ。
肖像
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「祖師像」の意味・わかりやすい解説

祖師像
そしぞう

仏教の一宗一派の開祖や開山,あるいはその法系の高僧を絵画,彫刻で表わした肖像。各宗の寺院では祖師像を祀る祖師堂や開山堂が建立され,祖師会,開山忌を行う。密教,禅宗では祖師崇拝が重視され,祖師像の制作も盛んに行われた。ただし禅宗の祖師といえば達磨大師だけをさす。遺品としては『真言七祖像』 (絵画) ,『法相六祖像』 (彫刻) などが著名。

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世界大百科事典(旧版)内の祖師像の言及

【肖像】より

… 日本の肖像は,中国の影響を受けて発達したため,当初勧戒画あるいは礼拝対象として成立した。仏教における祖師像は礼拝,供養の対象として制作され,御影(みえ)像を生む。御物の《聖徳太子像》も祖師像の一種だが,むしろ中国の勧戒画的要素が強い。…

※「祖師像」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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