社会計画(読み)しゃかいけいかく(英語表記)social planning

日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会計画」の意味・わかりやすい解説

社会計画
しゃかいけいかく
social planning

加速化する社会変動の過程で生ずる緊張制御し、望ましい未来の社会を創出するため、体系的に社会的諸資源を配分すること。社会を革命的手段によらずに、科学的、技術的に制御することは、19世紀以来、実証主義的社会科学者の夢であったが、近時、システム論や社会工学的技術の発展により脚光を浴びるようになった。それは「社会政策」や「社会事業」の概念よりいっそう体系的であり、構造的変化をも指向する点に特徴がある。

[大塩俊介]

内容

まず第一に、人間の集団生活の制御や計画的変化という構想は、小集団レベルから国際社会のレベルまで含むが、普通は国家的計画と地域的計画をさす。マクロな計画実施には、立法議会の合意、政治・行政的権威、財政的資源、十分な情報の収集・解析能力などが必要だからである。第二に、社会計画の内容には、〔1〕人口計画、住宅計画、交通計画など、社会の基盤に関する資源配分計画、〔2〕家族計画、地域計画などの部分システムに関する計画、〔3〕教育計画、経済計画、福祉計画など、個別的制度システムに関する計画などを含むが、いずれも相互に機能的に依存しあっており、それらをトータルに整合的に扱うのが広義の社会計画の理念である。第三に、いずれの計画も人と環境系を扱うが、人間的価値や生活ニーズの開発、それらを充足する環境系の活性化、すなわち、機関=施設系の整備、人間関係や集団=組織系の調整と活性化、文化的諸価値や制度体系の改善と創出、などによるシステム・メカニズムの制御と活性化が目標となる。

[大塩俊介]

用法

社会計画を実施する手法には、一方的強制から協議と合意に基づくものまで、さまざまなタイプを含むが、大まかに分けると、(1)指令タイプ、(2)刺激タイプ、(3)指示タイプに分けられる。

 (1)は、情報を独占し、テクノクラートを集中し、財源をもつ中央政府機関が、一方的、強制的に計画を実施するタイプである。社会主義圏諸国、発展途上諸国にこの傾向が強い。(2)は、国家が民間セクターに対して利潤を刺激し、計画実施を誘導するタイプである。(3)は、国家は青写真の提示と相談にとどまり、住民、および住民のボランタリー諸組織に対し、優れた情報の供給と説得を通して合意をつくりだすタイプである。1945年以降、欧米諸国では(2)および(3)の手法への動向が顕著にみられる。

[大塩俊介]

問題点

社会計画にはデータの数量化がきわめて困難な分野が多く、将来予測にとって多くの不確定性を含む。したがって計画は、多かれ少なかれ、思弁的シナリオによらざるをえない。そのため個別的計画相互間の整合性を確保することがむずかしい。たとえば国家計画と地域計画との間のトレード・オフ(交通計画と福祉計画)、ある計画の投入が意図しない逆機能をおこすこと(経済開発と公害)などがその例である。社会システムは多次元的であり、多次元方程式の最適解を求めることはきわめて困難である。現実には、いくつかのシナリオを用意し、討論と合意を通して計画を決定し、結果を修正してゆくサイバネティックス方式が採用されるべきであろう。

[大塩俊介]

『K・レヴィン著、猪股佐登留訳『社会科学における場の理論』増補版(1979・誠信書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「社会計画」の意味・わかりやすい解説

社会計画 (しゃかいけいかく)
social planning

政府,地方自治体などが,政策的手段を用いて社会の自然の流れを一定の目標に向けて誘導する行動をいう。社会主義諸国はいうまでもないが,先進資本主義諸国においても現在こうした社会計画の策定と実施が広く一般化している。開発途上国も例外ではない。各種の経済計画,地域開発計画,多様な社会保障政策,人口政策,教育政策,資源・エネルギー政策といったように,その分野はきわめて多方面にわたる。その意味で現代は一面,計画の時代という性格をもっている。

 ところで,ユートピアのデッサンはそれ自体では社会計画ではないし,また自由放任主義は社会計画とその思想を異にする。さらに〈存在するもの〉と〈存在すべきもの〉との原理的区別を欠く歴史法則的な決定論も社会計画的思考になじまない。こうした見方は,かつて〈自由のための計画〉(《自由・権力・民主的計画》,1951)を説いたK.マンハイムのものでもある。しかし他方,ユートピア的要素を欠き,人間の自由な選択意思を否定し,さらに現実世界の経験的規則性を無視したのでは社会計画の成立する余地はなくなる。計画的思考が相互依存的,システム的思考と呼ばれるのも,ひとつには分析的には峻別さるべき他の思想(上記のようなユートピア主義,自由放任主義,歴史主義など)からその長所を吸収する必要があること,ふたつには経済,政治,社会,技術,文化などの相互作用に注目しその調整を図る必要があるからにほかならない。しかしこのように,ユートピアと計画,自由と計画,法則と計画が必ずしも互いに排他的でないとすれば,具体的な社会計画の作成と実施には小さくない困難が伴うとみなければならない。

 社会計画の有責主体は,現状とありうる将来について〈診断〉を下し,規範的に望ましいとみなされるだろう目標のヒエラルヒーを明示する必要に迫られる。さらにその目的を達成するための手段について,経験的規則性を想定したうえで費用-便益計算を行い,採用すべき手段と投入さるべき資源を確定しなければならない。これら診断,目標設定,手段選択,経験的規則性の確認に関しては,しかしそれぞれについて当然異なった意見と見方が存在する。そこに計画における合意調達の必要が生ずる。〈計画の時代〉に,有責主体である行政当局に対して情報公開に関する要請が強まるのは,したがって自然のことである。

 現状の診断と目標の設定に関しては,1960年代後半以降,社会指標social indicatorづくりが国際機関,各国政府ならびに地方公共団体等によって行われてきている。日本での代表的な試みには,経済企画庁国民生活局のものがある。しかし各指標間の相互依存関係の分析,各指標の社会構造的説明など多くの課題を残している。むしろこうした社会指標とはかけ離れた形で,いわゆるタテ割り行政を背景として個別に計画が策定され実施されているのが現実だといってよい。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「社会計画」の意味・わかりやすい解説

社会計画
しゃかいけいかく
social planning

人間の生活福祉の向上を目的とし,これを実現するための手段や手続として総合的な経済・社会・文化政策を考案する創造的な活動。 J.ハイムズによれば社会計画とは「望ましい状態,関係,価値を実現するために観察,討議,合意,実践という4つの行動を結びつける意識的な相互作用の過程」であり,社会悪を改め直し,社会変動のコースを変えようとする意識的協力,つまり社会進歩のための集合的行動であるという。それには,(1) 全体計画,(2) 中央・地方制の行政計画,(3) 経済,教育,文化などの機能別計画,(4) 都市計画,農村計画といったコミュニティー計画などがある。

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