社会構成体(読み)しゃかいこうせいたい(英語表記)Gesellschaftsformation[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「社会構成体」の意味・わかりやすい解説

社会構成体 (しゃかいこうせいたい)
Gesellschaftsformation[ドイツ]

史的唯物論立場から社会発展を世界史的に把握する際の基本概念。発展段階あるいは歴史の時代区分にも相当する。経済的社会構成体ökonomische Gesell-schafts formationあるいは社会経済構成体sozialökonomische Formationともいう。人間は生きていくために,彼自身の意志を超えて与えられている一定の社会関係にはいらねばならない。この関係の基本が生産関係であり,これは,その時代に相応する発達程度の生産力に照応している。こうした生産諸関係の総体が社会の経済的構造であり,いわば土台Basis(下部構造Unterbau)である。政治的・法律的諸制度や社会的諸意識形態すなわちイデオロギーあるいは固有の文化などは,いわば上部構造Überbauであって,こうした土台のうえにのみ成立し,そこからさまざまな規定制約を受ける。そこで,その時代に相応する生産諸力が特性的な経済的構造に編成されるしかたを生産様式と呼ぶとすれば,生産様式は土台と上部構造との関係をも基本的な点で特色づけることになり,ここに歴史的に固有な社会構成体が成り立つのである。

 社会構成体は累重的かつ前進的に生成する。マルクスは《経済学批判序言でアジア的,古代的,封建的,近代ブルジョア的という四つの生産様式をあげ,その発展段階を示唆したが,現在では原始共同体,奴隷制社会,封建制社会,資本主義社会,社会主義社会という5段階を想定するのが定説とされている。こうした諸段階は,一つの社会構成体の内部で生産力が十分に発達し,既存の生産諸関係がそれに照応しなくなることによって土台が変わり,それに応じて徐々に,あるいは急激に上部構造が変革されることを通じて継起していく。こうした変化を具体的に表現するものが階級闘争であり,社会革命である。しかし,上部構造はとくにその文化的な面でしばしば強い相対的自律性をもち,具体的にある地域にある民族によって形成される社会の発展を制約するものであるから,こうした発展段階がすべての社会によって順次にたどられるのではない。
時代区分
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会構成体」の意味・わかりやすい解説

社会構成体
しゃかいこうせいたい
(ökonomische) Gesellschaftsformation ドイツ語

唯物史観の立場から世界史の累重的発展を考察する際の基本的概念。人間はその生活を社会的につくりあげるにあたって、彼らの意志のいかんにかかわらずに存在する社会関係、すなわち物質的な生産力に照応する生産関係に入る。この生産関係の総体つまり社会の経済的構造は「土台」(下部構造)として、また法律的、政治的、宗教的などの社会的意識諸形態はこの土台のうえに形成される「上部構造」としてとらえられ、歴史発展の究極的原動力はこの土台の内部における生産力と生産関係との矛盾に求められる。この意味での土台と上部構造とを包括的に把握するものが社会構成体としての社会の概念にほかならない。マルクスは、アジア的、古典古代的、封建的および近代市民的生産様式を(経済的)社会構成体の相次ぐ諸時期として区別し、近代市民的(ブルジョア的)生産関係を社会的生産過程の最後の敵対的形態とみた。

[大江泰一郎]

『マルクス著、マルクス=エンゲルス全集刊行委員会訳『経済学批判への序説』(『マルクス=エンゲルス全集 第13巻』所収・1964・大月書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「社会構成体」の意味・わかりやすい解説

社会構成体
しゃかいこうせいたい
Gesellschaftsformation

マルクス主義の社会構造論。生産力の一定の発展段階に見合う生産関係 (生産,分配,交換,消費をめぐって形成される社会関係) が社会の下部構造をなし,その現実的土台のうえに政治的,法律的制度や組織が整えられ,さらにそれが宗教的,芸術的,哲学的,また理念的,イデオロギー的な社会的意識が照応する形で上部構造が成立する。このようにマルクス主義の社会構造論は建築のアナロジーで組立てられている。この枠組みを用い,生産力と生産関係,生産関係と上部構造の矛盾調和のダイナミズムという視点から歴史を全体的にとらえようとするのが史的唯物論のアプローチである。

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世界大百科事典(旧版)内の社会構成体の言及

【時代区分】より

…ただし各国史における時代区分はそれぞれ違う場合が多いので注意を要する。 一方,マルクスは近代資本制の本質を明らかにすることによって人間による人間の搾取なき社会の建設を革命の目標としたため,社会の全体的構造の変革を可能にする方法概念として〈経済的社会構成体〉(あるいはたんに〈社会構成〉)なる範疇をつくりあげた。そして人類の歴史を社会の経済構造を基礎とする社会構成の相次ぐ交替としてとらえ,原始共同体に後続する歴史時代の区分原理を,当該社会の社会構成によって規定される階級関係の質,搾取形態の質に求めた。…

※「社会構成体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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