社会契約論(読み)しゃかいけいやくろん(英語表記)Du contrat social フランス語

精選版 日本国語大辞典 「社会契約論」の意味・読み・例文・類語

しゃかいけいやくろん シャクヮイ‥【社会契約論】

[1] (原題Du contrat social, ou du principe du droit politique) ルソーの主著の一つ。一七六二年刊。自由人の合意による国家の構成(社会契約説)と、「一般意志」による国家の運営(人民主権論)を骨子とし、理想国家を構想フランス革命の思想的根拠となった。明治一五年(一八八二中江兆民が「民約訳解」の題で翻訳刊行した。民約論。
[2] 〘名〙 =しゃかいけいやくせつ(社会契約説)〔音引正解近代新用語辞典(1928)〕

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デジタル大辞泉 「社会契約論」の意味・読み・例文・類語

しゃかいけいやく‐ろん〔シヤクワイケイヤク‐〕【社会契約論】

ジャン=ジャック=ルソーの著書。1762年刊。社会契約説人民主権を主張し、アメリカ独立革命フランス革命に影響を与え、民主主義の思想的基盤となった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会契約論」の意味・わかりやすい解説

社会契約論
しゃかいけいやくろん
Du contrat social フランス語

J・J・ルソーの主著。1762年刊。1755年に発表した『人間不平等起源論』『政治経済論』を発展させたもの。『不平等起源論』においては、私有財産制が人間の間に不平等をもたらし、現存の法・政治制度はすべて私有財産制を保護するようにつくられているから変革すべしとして、当時の絶対王制が批判されている。また『政治経済論』では、人間が生存するためには政治体(国家)が必要であり、この政治体の統一を保ち正しい政治を行うためには「一般意志」という基準が必要だとし、一般意志とは、「つねに全体(国家)および各部分(個人)の保存と幸福を目ざし、法律の源泉となるもの」と述べている。したがって、『社会契約論』は、いかにして一般意志が貫徹する政治体を形成し、人間が自然状態においてもっていたと同じ自由と平等を確保するかという課題を追究したものといえよう。このためルソーは、人々は生存するために集合し、その際、各構成員は以前にもっていた権利を共同体の全体に対して全面的に譲渡して身体と財産を守るような「社会契約」を結べ、と述べている。そして、既存のすべての特権を放棄して対等の立場で人々が設立した「共同の力」すなわち新しい政治体を一般意志という最高意志(主権)の指導の下に置け、というのである。ルソーは、主権は不譲渡、不分割また代行されえないと述べているが、これは、主権すなわち一般意志が、各人が契約を結んで力を結集した政治体の最高意志であるから当然の帰結であろう。主権は外国勢力や特殊利益を追求する一党派に譲渡したり、国王身分制議会に分割したりはできないし、また全人民の意志を代表していない議会イギリス)によって代行されえないのである。このように、各市民は政治体と一般意志を形成する主体であるから、ルソーの社会契約論は、人民主権論と法の支配という民主主義の二大原理を主張したものといえ、このため彼の思想はフランス革命や各国における民主主義の聖典となった。

[田中 浩]

『桑原武夫・前川貞次郎訳『社会契約論』(岩波文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「社会契約論」の意味・わかりやすい解説

社会契約論 (しゃかいけいやくろん)
Du contrat social

1762年,オランダで出版されたJ.J.ルソーの著作。ルソーは社会契約によって正当な政治体(国家)が成立すると考えたが,この契約は18世紀において国家成立の基本原理と一般に考えられていた人民と首長とのあいだの統治契約(首長が人民を保護する代りに人民は首長に服従するという契約)ではなかった。ルソーは,各個人が自分のもつすべて,すなわち財産や,必要とあれば生命をさえ全体に譲渡し,そのことによって強い力を蓄えた全体が各構成員を保護するという契約を構想した。ところで,全体は各個人の譲渡によって初めて成立するのであるから,ルソーの言う社会契約は,市民相互の平等の契約によって全体を設立する行為を意味する。このような契約によって成立した国家の主権は,当然人民に属するということになる。したがって,君主といえども一種の行政官であるにすぎない。《社会契約論》は18世紀において広く精読されていたとはいえないが,フランス革命の指導者たちの一部(たとえばロベスピエールなど)に強い影響を与えた。日本においては,本書は中江兆民により《民約訳解》(1882)という表題で初めて翻訳され,民主主義の思想と運動とに大きな影響を与えた。ただし,小国家を念頭においていたルソーは議会主義を否定したが,兆民たちの目標は選挙で選ばれた議員から成る国会を設立することであった。各社会の歴史的段階に即して《社会契約論》の応用の仕方は多様となるが,本書の精神は世界のさまざまな部分で民主化の運動を刺激してきたといえる。
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百科事典マイペディア 「社会契約論」の意味・わかりやすい解説

社会契約論【しゃかいけいやくろん】

J.J.ルソーが1762年オランダで出版した,社会契約説の論著。原題《Du contrat social》。《民約論》とも訳。4編からなり,前著《人間不平等起源論》の社会的・政治的・立法的・宗教的展開とみられる。フランス革命に大きな影響を与え,日本でも中江兆民訳(《民約訳解》。漢文部分訳)により,自由民権運動の思想的基盤の一つになった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「社会契約論」の意味・わかりやすい解説

社会契約論
しゃかいけいやくろん
Du contrat social, ou principes du droit politique

フランスの哲学者 J.-J.ルソーの著作。 1758年書き始められ,61年完成し翌年出版されたルソーの政治論の主著である。著者は封建制度の隷属的人間関係を強く批判し,人間の基本的自由を指摘することから始めて,自由な人間が全員一致の約束によって形成する理想的な国家形態を主張した。この書は政治論であるが,このような政体によって初めて道徳は成り立ちうるとの倫理観と不可分であって,主権者である人民の国家への奉仕が強く求められており,そこから全体主義的解釈も生れた。『社会契約論』はフランス革命に多大の影響を与えたが,日本では 1882年中江兆民によって『民約訳解』として漢訳され (第2編第6章まで) ,自由民権運動に大きな影響を及ぼした。

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旺文社世界史事典 三訂版 「社会契約論」の解説

社会契約論
しゃかいけいやくろん
Du contrat social
副題 ou principes du droit politique(「または政治的権利の原理について」の意)

フランスの啓蒙思想家ルソーの政治制度に関する著書。『民約論』とも訳される
1762年刊。社会(国家)は自由平等な人間同士の契約によって成立し,法律は人民の一般意思の表現であると説く。人民主権と反王政の姿勢に貫かれ,フランス革命に大きな影響を与えた。冒頭の一節は,人権宣言に引用されている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「社会契約論」の解説

『社会契約論』(しゃかいけいやくろん)
Du contrat social

ルソーの主著。1762年刊。政治社会の構成原理を論じ,その基礎を自由で平等な個人の相互的な契約に置いた。フランス革命をはじめその後の民主主義運動に大きな影響を及ぼした。

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世界大百科事典(旧版)内の社会契約論の言及

【エミール】より

…この人間の教育を経て,青年期以後,新しい社会を支えるシトワイヤン(市民)の形成が課題となる。これはそのまま《社会契約論》の課題に通じていた。 ルソーの教育思想はペスタロッチやフレーベルに,さらには20世紀における国際新教育の思想と運動に大きな影響を与えた。…

【社会契約説】より

… 18世紀に入ると,社会生活の組織化が進み,また社会契約は歴史的事実でないという経験科学的批判が起こったが,その中でJ.J.ルソーはこの図式に新しい内容を与え,この理論の革命的意味を明らかにした。彼によれば,主権はつねに契約によって社会を構成した諸個人の全体すなわち人民にあり,この人民はそのまま立法機関として定期的に集合し,その意思すなわち一般意思を法として制定するが,その執行は別に政府を選んでこれにゆだね,しかも政府の存立は全面的に人民の信任に依存するのである(《社会契約論》1762)。こうして,自由平等な個人の自然権から出発した社会契約説は,政治権力制限の理論から,人民主権の理論へと展開し,自由主義および近代民主主義の理論的骨格をつくり出して,近代国家の構成様式に絶大な影響を及ぼした。…

【民主主義】より

…彼はまた,みずからをJ.J.ルソーの弟子と意識していた。そしてルソーの《社会契約論》(1762)が,以後人民主権論と民主主義の聖典と仰がれるようになったのは事実であるが,しかしロベスピエールを含めてこの時期の革命指導者たちが,《社会契約論》を,フランスという大共和国の構成原理としてどこまで真剣に考えていたかは必ずしも明らかではない。 というのも,ルソー自身は,民主主義を,ただ主権の執行機関としての政府の一形態としてのみ考えたばかりでなく,主権は代表されえないとして代議制を信じず,しかも伝統的想像力の中にとどまって,住民の自治を中核とした平等な理想共同体は農民的小国家以外には不可能と考えていたからである。…

【ルソー】より

…田舎で書き上げた小説《新エロイーズ》(1761)は世紀のベストセラーとなった。62年《社会契約論》(4月刊)の翌月出版された《エミール》の筆禍により,逮捕を避けてスイスに赴いたが,ジュネーブ政府もこの両書を発売禁止処分とした。スイスのモティエにいったん落ち着いたものの,村民の迫害を受け,66年イギリスに渡った。…

※「社会契約論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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