硬タンパク質(読み)こうたんぱくしつ(英語表記)scleroprotein

日本大百科全書(ニッポニカ) 「硬タンパク質」の意味・わかりやすい解説

硬タンパク質
こうたんぱくしつ
scleroprotein

タンパク質を水や低塩溶液、弱酸、弱アルカリ、アルコールに対する溶解度によって大まかに分類した場合、アルブミングロブリンプロラミンなどと違い、すべてに不溶性の単純タンパク質の一群をさし、アルブミノイドともよばれた。動物組織の支持物質や骨格物質として構造的役割を果たすものが多く、酵素のような活性をもつものではない。骨、皮、腱(けん)、軟骨などのコラーゲン(Ⅰ型からⅩⅧ型)をはじめ、角(つの)、毛、爪(つめ)などのケラチン、血管などのエラスチン絹糸フィブロイン、節足動物とくに昆虫の外骨格のレジリン、海綿スポンジン、サンゴのゴルゴニン、イガイの殻のコンキオリンなどがある。レジリンはチロシン三つがベンゼン環を介して連結したトリチロシン構造をもっている。コラーゲンやフィブロインは薄い酢酸や塩溶液に溶かすことができ、研究が進んでいる。コラーゲンやエラスチンは特徴的なアミノ酸配列をもち、それぞれ、デヒドロリジノノルロイシンやデスモシンのような分子架橋(構造)が形成されてしだいに不溶化し、老化との関連が注目されている。

 これらのタンパク質は、それぞれに特異的なプロテアーゼであるコラーゲナーゼ、エラスターゼ、ケラチナーゼなどによりそれぞれ特徴的なアミノ酸配列の個所で切断を受け、断片化され、さらに別のプロテアーゼにより、アミノ酸まで分解される。

 なお、ウニの受精膜はかならずしも硬タンパク質とはいえないが、孵化(ふか)するときに受精膜を溶かす孵化酵素、エンベライシンenvelysinは哺乳(ほにゅう)類のコラーゲナーゼなどを含むマトリックスメタロプロテアーゼグループの一員である。

[野村晃司]

『宮本武明他編『21世紀の天然・生体高分子材料』(1998・シーエムシー)』『藤本大三郎著『コラーゲン物語』(1999・東京化学同人)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「硬タンパク質」の意味・わかりやすい解説

硬タンパク質 (こうたんぱくしつ)
scleroprotein

一群のタンパク質の分類上の総称。水,塩溶液,有機溶媒,弱酸,弱アルカリなどのほとんどの溶媒に溶けない繊維状タンパク質。一般にタンパク質分解酵素にも作用されにくく,分子の分解を伴わないような温和な条件で溶解させることは困難。明確な生理的作用をもたない。動物の骨格構造を構築している主要な構成成分であり,また生体を保護する役割を果たしているタンパク質でもある。植物界では,硬タンパク質の代りにセルロース類が,同じ役割をしているものと考えられている。

 例としては骨,皮,腱などに含まれているコラーゲン,靱帯や動脈などの成分であるエラスチン,毛髪,羽毛などのケラチン,絹のフィブロイン,カイメンのスポンジ(海綿質)などが知られている。不溶性の原因はコラーゲンの場合には年齢とともに生ずる分子間の橋かけ結合であり,エラスチンの場合には分子内の橋かけ結合によるものと考えられている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

栄養・生化学辞典 「硬タンパク質」の解説

硬タンパク質

 アルブミノイドともいう.コラーゲン,エラスチン,ケラチンなど,塩類溶液に溶けないタンパク質の総称.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android