破門(読み)はもん

精選版 日本国語大辞典 「破門」の意味・読み・例文・類語

は‐もん【破門】

〘名〙
① 師が弟子に対して、その弟子であるという関係を断ち、門人の列から除くこと。門人を除名すること。
歌舞伎幼稚子敵討(1753)六「向後はもん致て其元の弟子に成ませう」
② 信徒を宗門から除名すること。
※奉教人の死(1918)〈芥川龍之介〉一「『ろおれんぞ』が破門されると間もなく」
③ こわれた門。〔羅鄴‐送張逸人詩〕
植物からだいおう(唐大黄)」の異名。〔重訂本草綱目啓蒙(1847)〕

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デジタル大辞泉 「破門」の意味・読み・例文・類語

は‐もん【破門】

[名](スル)
師弟の関係を絶って門下から除くこと。「弟子を破門する」
信徒としての資格を剝奪はくだつし、教会・宗門から除名・追放すること。
[類語]免職解任解職罷免無職無業離職解雇馘首首切りくびお払い箱失業失職食い上げお役御免リストラ食いはぐれるあぶれる免ずる解く暇を出す暇を遣る首になる首を切る首が飛ぶ

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改訂新版 世界大百科事典 「破門」の意味・わかりやすい解説

破門 (はもん)

主としてユダヤ教キリスト教において,信者を教会から除外追放して,さまざまな懲罰を科すこと。英語ではexcommunicationといい,文字どおり〈交わりcommunicationを断つex〉ことがその原義。一般に破門には〈小破門minor excommunication〉と〈大破門major excommunication〉とがあって,小破門は期限つきで救済の処置がとられているが,大破門は他の信者とのいっさいの交通の禁止,現在のみならず来世にわたっての教会からの排除を意味した。ヨーロッパの中世社会では,ローマ教皇は国王との権力闘争のなかでしばしば破門権を行使した。たとえばグレゴリウス7世によるドイツ王ハインリヒ4世の破門(カノッサの屈辱,1077),インノケンティウス3世によるイギリスのジョン欠地王の破門(1213)はよく知られている。しかし宗教改革以後,プロテスタント諸教会は破門を制度化することをしなかった。ユダヤ人の哲学者スピノザも教会から破門された一人であったが,そのとき発せられた破門状には,毎日毎夜,何時いかなるときにおいても〈呪われてあるべし〉という文言がくり返し記されていた。すなわち教会からの追放は呪われた存在になることであり,破門は同時に〈宗教上の公式の呪詛(じゆそ)〉(アナテマanathema)を意味したのである。日本ではヨーロッパのそれに対比できる破門の事例は少なく,わずかに15世紀以降,異安心(異端の信仰)の者を追放に処した本願寺教団においてみられるにすぎない。なお破門には,師弟の縁を切って門弟を追放する意味もある。そのような事例は古今東西に多いが,日本では1680年(延宝8)の浅見絅斎けいさい)と佐藤直方が山崎闇斎によって崎門学派から排除された事例が有名である。
異端
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「破門」の意味・わかりやすい解説

破門
はもん
excommunication

原語のexcommunication(ラテン語excommunicatio)は文字どおり「コミュニケーションの外にあること」、つまりcommunion(交わり)の停止、community(共同体)からの排除を意味する。通常宗教用語として使用され、信仰共同体からの除外、聖職者資格の剥奪(はくだつ)、宗教儀礼への参加禁止など、種々の形態がある。

 仏教の破門は、比丘(びく)・比丘尼(に)を教団・宗派から追放すること、あるいは師僧が弟子との師弟関係を断つことをさす。僧伽(そうぎゃ)からの永久追放は、淫行(いんこう)・窃盗(せっとう)・殺人など重大犯罪を犯した場合で、『戒本』に定められている。仏教では破門は教団統一の手段であるから、共同生活の持続や道徳的規準の堅持に重点が置かれ、個々の信仰内容の問題で破門に付されることはない。

 破門をめぐっては、キリスト教とくにローマ・カトリック教会の事例が代表的である。破門の精神はたとえば『コリント書I』(5章1~13)にあるように、元来懲戒的意味をもっている。カトリック教会では破門に関する教会法が制定され、初めは矯正的意味が強かったが、中世には法的処罰の性質が増し、大破門・小破門の区別が設けられた。現在はこの区別は廃されている。歴史上の事件としては、ドイツ王ハインリヒ4世の破門、宗教改革者ルターの破門などがある。プロテスタントでは『教会の戒規』による陪餐(ばいさん)停止が破門に該当する。

[赤池憲昭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「破門」の意味・わかりやすい解説

破門
はもん

一般には師弟の義を絶って門人中から除斥すること,あるいは信徒の資格を奪い宗門から除斥することをいう。キリスト教では,excommunicatioの訳語として使われる。カトリックの教会法では「ある人を信者の交わり communioから追放する懲戒処分」と規定され,細別が論じられている。破門には,信者の交わりからは除外されるが教会員として残りうる場合と,教会員としても除外される場合の2種があり,さらに強く教会より氏名を公表される場合もある。破門されたものは秘跡を受けること,教会で葬儀を行うことが禁じられる。プロテスタント教会でも当初礼典にあずかることを禁じる懲戒としてあったが,次第に除名,放逐などに代っている。

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旺文社世界史事典 三訂版 「破門」の解説

破門
はもん
excommunication

ユダヤ教やキリスト教会の刑罰の1つで,信者を教会から除外追放するもの。一般的にはローマ−カトリック教会のものをさす
大破門と小破門があり,前者は姦淫 (かんいん) のような大罪に対して行われ,キリスト教徒との交際や教会での埋葬を禁じ,その救済を否定した。後者は破門を宣告された者と交際した者に対する軽い罰で,サクラメントへの参加が認められない。赦免 (しやめん) は破門者の司教か教皇が行う。ローマ−カトリックが支配した中世ヨーロッパでは絶大な政治効果をあげたので,教皇は世俗君主との抗争の武器とし,イギリスのジョン王・ヘンリ8世やドイツのハインリヒ4世らと対決した。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「破門」の解説

破門(はもん)
excommunication

カトリック教会の罰則。使徒時代より異端者,棄教者に課され,教会共同体からの除外を宣する。中世では特に儀式を伴う場合をアナテマ(詛斥(そせき))と称した。教皇権と対立した君主が破門を受けると,臣下は封建的忠誠義務を解かれるので,事実上君主の廃位を意味した。教皇のほかに司教にも破門権があり,聖務の一時停止(インターディクト)も行われた。

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百科事典マイペディア 「破門」の意味・わかりやすい解説

破門【はもん】

一般には師弟の縁を断ち,門弟を追放すること。キリスト教では教会当局による除名その他の懲罰,秘跡の授受・聖職停止,資格剥奪(はくだつ)などがある。中世ヨーロッパでは教皇が国王(世俗権力)との争いにおいて有力な武器として用いた。

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普及版 字通 「破門」の読み・字形・画数・意味

【破門】はもん

門下を追放する。

字通「破」の項目を見る

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