研究組織/研究施設(読み)けんきゅうそしき/けんきゅうしせつ

大学事典 「研究組織/研究施設」の解説

研究組織/研究施設
けんきゅうそしき/けんきゅうしせつ

[大学の研究組織]

研究を遂行するためにつくられた人的組織のこと。大学が置かれた制度と密接な関係を持つ。

[大学] 自然科学分野のとくに実験系では,研究組織の中心は研究代表者(principal investigator: PI)が主宰する研究室である。これは形のない組織の名称であるとともに,実験台や実験装置を備えた複数の実験室を含む物理的存在としての実験施設全体も表す。各研究室は,大学院の研究科あるいは学部の学科に属している。大学院重点化後の現在では,教員は多くの国立大学で大学院所属となっているので,研究室は大学院に所属している場合が多い。研究室は通常,教員としては教授,准教授,講師,助教などで構成される,ここに学部4年生,大学院生,博士研究員,企業からの派遣研究者などが所属して研究実験を行う。理工系学部,農学部薬学部などの実験系研究室では,大学設置基準における講座制の規定が削除(2006年改正)された現在でも,教授(場合により准教授)を研究代表者(PI)として,准教授や助教で研究室体制(複数の教員がグループで研究を遂行)をつくっている場合が多い。

 これは,設置基準改正前の講座制が実質的にそのまま残っているという面もあるが,グループ制の方が学生の指導も複数の教員が参画するため多角的な観点から行え,研究費の調達と使用という面からも効率が良いことがおもな理由である。また,それにも関係するが,実験系研究室では,講座制の規定削除前後において徒弟制的訓練(apprentice system)による研究体制(学生にとっては教育体制)は変わっていない。これは,応用分野を含む自然科学系では,学生は,PIを中心として設定される研究室の課題を遂行する中で研究者に向けての訓練を受けるからである。この点は,大学あるいは研究室の規模にはよらず,またヨーロッパでも,教員が採用時点(通常,助教授)から独立して研究を行うアメリカ合衆国でも同じである。このように学生は,研究室で行われている研究課題を教員と相談の上選択して研究実験を遂行し,その結果をまとめて卒業論文修士論文,博士論文を作成していく。学位論文作成後あるいはその過程で,成果がまとまればそれは学術雑誌に論文として投稿される。

 学位あるいは卒業のための論文作成は研究者あるいは専門職業人養成としての教育機能であるが,各学生や博士研究員による研究結果が学術論文として教員と連名で発表されていく過程は大学の研究機能である。このように日本の自然科学系学部では,大学院生はもちろん,分野にもよるが,通常学部4年生も研究室に1年間配属され,研究実験に参加して専門分野で訓練を受ける。成果があがれば4年生でも学術論文の共著者となる。これは研究のカリキュラム(研究を通じての教育)ともいえる研究にかかわる日本の大学制度の大きな特徴である。なお,文部科学省が2006(平成18)年度以降進めているテニュアトラック事業で各大学に採用されたテニュアトラック助教や同准教授は,より職階の高い教員とは独立に研究室を運営している。

 医学部では,臨床系では外科学,内科学,産婦人科学など,診療科名に関係した伝統的な分野名で分類された研究室体制で,また基礎医学系では病理学解剖学生化学など学術分野別の研究室体制で研究が行われるのが普通である。臨床系研究室では,教員には学部(研究科)の定員と病院の定員がある。教員は病院外来での診療や病棟での患者の治療・看護などの通常の任務以外に時間を確保して研究実験を行う。なお医学部では,学生(学部)は最終学年であっても,臨床的訓練は受けるが,研究実験には参加しない。この点は,他の理工系,自然科学系学部の4年生が研究実験に参加し,卒業論文を作成する状況にあることとは大きく異なっている。ただし,卒業前に研究経験を持たせるため,たとえば3年生後期に数ヵ月間基礎医学の研究室に所属して研究実験を行うことがカリキュラム化されている場合も多い。歯学部もその研究体制は医学部と類似性が高い。大学により異なるが,4~6年生で数ヵ月基礎あるいは臨床系研究室に配属し,教員の指導のもとに研究実験に参加するカリキュラムが組まれている。医学部基礎医学系の研究室では医師免許を持たない分子生物学や生化学専攻の大学院生も多く,各分野で研究実験に参加している。

[附置研究所・共同利用機関] 大学により,附置研究所(日本)(附置研(日本))が設置されている。附置研には学部4年生以下の学生は通常配属されないが,大学院生は構成研究室に配属されて研究実験に参加する。附置研では,各研究所のミッションに応じた大型の実験器具や探索機器などが置かれている。大学共同利用機関である自然科学研究機構分子科学研究所,同じく情報・システム研究機構の国立遺伝学研究所などは,組織として総合研究大学院大学を構成している。これらの研究所も大学院生を各研究室に受け入れて研究実験を行っており,教員と学生,博士研究員などの研究スタッフで構成される研究室で研究が遂行されるという意味では,各機関の設立目的は異なるが,通常の大学と研究組織上の本質的な違いはない。

[大型外部資金による研究体制] 現在では学部・研究科や附置研究所を越えて,文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム(日本)(WPI(日本))」や科学技術振興機構ERATOやCRESTなどの大型予算によって,大学内,場合により学外に時限的な研究機構や組織を設置し,それによって研究計画を推進する場合も増えている。この場合,研究代表者は各大学の専任教員であるが,博士研究員や研究支援スタッフなどは当該プログラムの予算で雇用されて研究に参加する。この方法は,専任である大学の研究室の大型化を意味するものではない。同じ研究代表者が大学と大学外に研究組織を持つことである。アメリカではこのようなシステムはなく,複数の財団等から研究目的の異なる研究資金を受領しても研究遂行は大学内の同一研究室で行われるのが普通である。研究代表者によっては,1グループで100人を超える大学院生,博士研究員等の研究スタッフを持つ場合もある。

[研究施設]

研究を遂行するために必要な研究設備を備えた空間・建物を指す。大学内の施設と国内外の共同施設がある。

[大学内研究施設] 研究遂行には研究施設が不可欠である。これは,実験台と水道・熱・電気などのインフラを備えた一定の広さを持つ通常の実験室的空間と,実験に使用する装置とその装置を収容する装置的空間に大別される。また実験装置は頻繁に使用する汎用装置,より高価で学科あるいは専攻別に備える大型装置,さらに国内あるいは国際共同利用のための,その設置と維持に巨額の経費がかかる施設・装置に大別できる。自然科学系では,分野によらず,最も基本的な施設は上記の通常実験室であるが,実験によって,零度以下の低温室,温度や湿度を一定に維持した恒温・恒湿室なども必要となる。実験で頻繁に使用される汎用機器・装置は,通常の実験室内に置かれるが,化学や生命科学分野などで用いられる分子の構造決定のための高額機器類(たとえばX線構造解析装置)は,各研究室で維持・管理する場合もある。学内に設置した共通機器センター(実験で用いる分析装置を機器と呼ぶ)でその管理を行う場合も多い。

 一方,生物・薬学・医学系の実験で利用される遺伝子改変マウスなどの実験動物は,学内で専用の施設をつくって飼育・管理されるが,国内外にそれらを提供する大学以外の研究機関もある。また物理学では,装置としてはやや大型の計算物理学のためのスーパーコンピュータや,それ専用の大型実験棟が必要なプラズマ実験装置等を設置・稼働させる施設も必要となる。たとえば,筑波大学では,そのような施設としてプラズマ研究センターが置かれ,4年生,大学院生が研究実験に参加している。大学附属の植物園,演習林,病院も研究施設である。なお物理的にも大型で維持・管理にも巨額な経費のかかる装置は,大学共同利用機関や欧米の研究機関において教員や学生はこれを使用することができる(項目「研究資源」を参照)
著者: 赤羽良一

参考文献: 荒井克弘「専門職業教育としての大学院」,市川昭午,喜多村和之編『現代の大学院教育』玉川大学出版部,1995.

参考文献: 学術月報編集委員会編『研究と独創性』学振選書2,日本学術振興会,1991.

参考文献: 『研究する大学―何のための知識か』シリーズ大学4,岩波書店,2013.

参考文献: 赤羽良一「アメリカの主要研究大学の化学科における研究環境と実験の安全対策」『大学研究』14巻,1996.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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