研究大学(読み)ケンキュウダイガク

デジタル大辞泉 「研究大学」の意味・読み・例文・類語

けんきゅう‐だいがく〔ケンキウ‐〕【研究大学】

リサーチ‐ユニバーシティー

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

大学事典 「研究大学」の解説

研究大学
けんきゅうだいがく

[概説]

大学院,とくに博士課程の教育に重点を置き,高い水準の教育・研究活動を行う大学のこと。アメリカ合衆国においては,1970年代初期からカーネギー教育振興財団(アメリカ(Carnegie Foundation for Advancement of Teaching)による大学の種別分類が試みられ,年代によってその分類は若干異なるものの,多種・多数の博士号を授与する大学,すなわち「博士号授与機関」の多くが「研究大学」として認知されている。これはアメリカの高等教育研究者や,大学に研究資金を提供する連邦政府各機関においても共有された認識である。このような基準に従えば,アメリカに約4000校ある大学の中で,研究大学として認めうる機関はせいぜい300校足らずで,厳しく要件を精査するならば100校程度であろうと考えられる。大学数がアメリカの約3分の1の日本の高等教育機関において,2001年(平成13)遠山プラン(日本)が今後重点的に育てるべき大学として「トップ30」に触れていることは,研究大学の数としてあながち無関係とはいえない。

 日本における研究大学の原型的イメージは,東京大学や京都大学をはじめとする旧制帝国大学の系譜を引く大規模国立総合大学(日本)であろう。第2次世界大戦後,大学制度が一本化され,また大衆化の進行によって大学間の質的格差が生じてきたこともあって,中央教育審議会の1963年答申や72年答申などによって種別化の試みが行われてきたが,平等化志向が強かった当時の大学関係者の受け入れるところとはならなかった。しかし水面下では,大学院(博士課程)の整備や大学院重点化政策,さらにはセンター・オブ・エクセレンス(日本)(Center of Excellence: COE(日本),優れた研究拠点(日本))形成補助など大型競争資金の選択的配分により,大学の組織としての研究機能の差の拡大は着実に進み,たとえば2005年の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像(日本)」においては,大学の機能別分化に触れ,世界的研究・教育拠点としての大学のほか,幅広い職業人養成や総合的教養教育など各種の機能を各大学の特色として分化させることを提言するに至った。

 また文部科学省では2013年度から「研究大学強化促進事業(日本)」を開始し,世界水準の優れた研究活動を行う大学群の増強を目指すことにしているが,当該年度支援対象に選ばれたのは北海道大学をはじめ17の国立大学,慶應義塾大学および早稲田大学の二つの私立大学,自然科学研究機構をはじめ三つの大学共同利用機関法人の総計22機関であった。日本の大学は今後,自らの責任においてそれぞれの特色を活かしつつ,大学院博士課程や研究所を舞台に高度な教育・研究活動に特化する研究大学となるものや,職業教育や教養教育に重点を置く大学など,その重点とする機能の差異に応じて,いっそうの機能分化を遂げていくものと考えられる。
著者: 山本眞一

[アメリカ合衆国]

アメリカの研究大学(research university)とは,一般的には多くの学術分野で大学院を持ち,年間の博士号授与数が多く,多額の研究資金を使い,活発な研究活動を行っている大学をさす。アメリカ大学協会(Association of American Universities: AAU(アメリカ))は,アメリカのメンバー校60大学が,アメリカでの先導的な研究大学群(leading research universities)であるとしている。その研究大学の中でも,より包括的な大学院プログラムを持ち,高い研究水準を持つ「major research university(主要研究大学(アメリカ))」と呼ばれる機関が20校は存在する。どの機関がそうであるかについて必ずしも定説はないが,少なくともAAUの創立会員(1900年加盟)はそうであると考えてよいであろう。2013年10月,AAU,LERU(ヨーロッパ研究大学連盟:League of European Research Universities),Go8(オーストラリア8研究大学:The Group of 8,1999年に設立されたオーストラリア8研究大学からなる法人),C9(中国9研究大学,1998年中国政府による世界トップクラスの大学形成政策985工程により定められた9大学)は共同発表を行い,研究大学の存在意義と地球規模での役割について論じたが,そこでも何が研究大学であるのかについて一般論を超える定義が述べられているわけではない。研究大学という用語は,個別の大学あるいは研究の規模や活発度において類似した大学群が自らを研究大学と規定する場合に用いられるのが現状である。

 そのような恣意性を除いて研究大学の性格について理解するには,カーネギー教育振興財団による大学の分類が有用である。この機関はこれまで,その性格や機能に関する定量的な指標を用いて,序列化ではない,大学の類型化・種別化を行ってきた(カーネギー分類(アメリカ))。この分類では「Research University」なる用語が使われたことはあるが,2015年以降は用いられなくなった。最新の分類によれば,多くの分野で博士号を授与する大学院を持ち,研究を活発に行っている「Doctoral University」(博士号授与大学(アメリカ))を,大学の「research activity」(研究活動の規模や水準)が「Highest」(最高度),「Higher」(高度)あるいは「Moderate」(中程度)のどれであるかによって,①Doctoral Universities: Highest Research Activity,②Doctoral Universities: Higher Research Activity,③Doctoral Universities: Moderate Research Activityの三つに区分(category)している。①に分類される機関(institution)は115校で,短期大学等を含む全機関の2.5%である。また,Doctoral Universityとは調査当時(2013~14年)で年間20以上の博士号(M.D. やJ.D. などの専門職学位は含まない)を授与した機関である。このカテゴリーは基本分類(classification, basic)に基づくもので,その基準は科学・工学分野の研究開発費,それ以外の分野の研究開発費,博士研究員などの博士号所持研究者の数,STEM分野(Science, Technology, Engineering, Mathematics),人文・社会系,経営学(business),教育学等における博士号授与数などを,研究開発費などは教員(faculty)一人あたりの値に換算したものも含めて,総合的に評価して決定されたものである。

 なお,上記の分類では同じであっても,別の分類(classification)では異なるカテゴリーに分けられる場合もある。たとえばマサチューセッツ工科大学(MIT)カリフォルニア工科大学(Caltech)は,基本分類ではいずれも上記①に入るが,大学院教育プログラム(Graduate Instructional Program)による区分では,MITとCaltechでは,大学院のプログラムの規模や種類が前者において後者より包括的であることなどから,この二つの大学は別のカテゴリーに区分される。しかし,そのことは,MITがCaltechより優れた研究大学であるということを意味するものではない。また,カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California-San Francisco)ロックフェラー大学生命科学・医学研究にほぼ特化した大学院プログラムを持ち,その分野では世界的な研究水準を有するが,いずれの大学も上記①のカテゴリーには入っていない。なお,アメリカのAAU加盟大学は,上記基本分類ではすべて①に入る。アメリカの研究大学は,あくまで大学が持つ多くの使命のうち,「研究」活動も活発に行っている機関を意味する用語であり,研究を最も重視している大学の意味はなく,各大学の学士課程プログラムの評価ともまったく別である。
著者: 赤羽良一

[日本]

日本では,アメリカのカーネギー教育振興財団のような非営利機関による大学の分類や類型化はこれまでなされてこなかったが,1979年(昭和54)大学を大学院博士課程の規模などによって評価・分類する先進的な試みが天野郁夫らによってなされ,ここに研究大学が学術用語として登場した。そこでは,①すべての学部の上に博士課程大学院を持ち,②大学院生/学部生比が国公立で9%以上,私立で6%以上,医歯系の単系大学(医歯系という一つの系を持つ大学)では20%以上の大学が研究大学(日本)(Research-R型(日本))とされ,これにより国立大学15校,公立大学4校,私立大学5校,計24校が研究大学とされた。

 こ日本の研究大学(Research-R型)は,さらに「総合大学」「複合大学」「単系大学」に区分され,総合大学(日本)には東北大学,東京大学,京都大学などの七つの旧帝国大学と,筑波大学,大阪市立大学,早稲田大学などが,複合大学(日本)には一橋大学お茶の水女子大学が,単系大学(日本)には東京医科歯科大学,東京工業大学,東京芸術大学,日本医科大学などが分類された。なお,たとえば理工系分野では,調査時点で「修士大学(日本)」と分類された修士課程のみを持つ大学,「準大学院大学(日本)」として分類された大学(医学部のみが博士課程を持ち,他学部が修士課程を持つ大学が多い)の修士課程などにおいても,きわめて盛んに研究が行われていた大学(理工系学部)があり,また,それらの大学は現在においても研究が活発に行われている場合が多い。この分類で研究大学に分類されなかったことが,その大学で研究活動が行われていなかったことを意味するものではないことに注意する必要がある。

 一方,自身を研究大学と自ら規定した大学群の組織が2009年(平成21)に誕生した。これはRU11(日本)というコンソーシアムで,正式名称は「学術研究懇談会(日本)」である。RUは「Research University(日本)」の省略形で,現在のメンバー校は北海道大学,東北大学,筑波大学,東京大学,早稲田大学,慶應義塾大学,東京工業大学,名古屋大学,京都大学,大阪大学,九州大学である。カーネギー分類におけるように,具体的な分野別の大学院プログラムの規模や研究開発費の額,教員以外の研究スタッフの数などについての相互評価が,天野による分類以降,研究者や公的機関によってこれらの大学に対して行われたわけではないが,設立趣旨の文の中に「最先端の知・多様な文化を生み出し」「国内外の優秀な頭脳の集積地となり」「イノベーションの創出や課題解決に貢献する」研究大学とあるので,これらの大学群が研究大学を,前記「 」内の性格を少なくともその一部として有する大学と規定していることがわかる。RU11は「日本の国際力強化に研究大学が貢献するために(提言)」「医療分野の研究開発の総合戦略についての要望」など,政府や社会に対してさまざまな提言や要望を行っている。研究大学をキーワードとして,研究を中心とした未来の大学の役割について理解を求めるべく活動・発言していく大学群の組織が日本に生まれたことは,アメリカのAAUやヨーロッパでのLERUの存在を考えると,意義深いことと思われる。

 このように,日本では天野らの研究によって大学がその機能や規模により分類され,「研究大学」がはじめて定義された。その後,有力大学による研究大学の組織も誕生した。しかし,天野らによる「研究大学」の定義とそれによる各大学の分類は,大学院の規模などによる研究・教育プログラムの評価に基づく性格付けであり,その手法はこれからも受け継がれるべきものであるが,日本では,通称「旧帝大(日本)」なる用語に象徴されるように,日本固有の歴史的背景に基づく大学の性格によって大学が分類されることが多く,それは分類というより序列化の意味合いが大きい。今後は,高等教育研究を行う非営利機関等によって,学士課程教育や専門職大学院の充実度,そして地域連携への取組みなども含めた総合的な尺度の中で「研究大学」の分類・評価と大学によるその利用をはかっていくことが求められるであろう。なお,ヨーロッパでは,とくにフンボルトによるベルリン大学(ベルリン・フンボルト大学)の誕生以降,「研究」はほぼ自明のこととされてきた部分もあるが,社会全体にとって「研究」が重要であるとの新たな認識のもとに,2002年にヨーロッパ研究大学連盟(LERU(ヨーロッパ))が設立された。これは,その名が示すとおり一国の組織ではなく,政策提言などにおいて全ヨーロッパ的な視点で活動している。
著者: 赤羽良一

[概説]◎天野郁夫『高等教育の日本的構造』玉川大学出版部,1986.

参考文献: バートン・クラーク著,有本章訳『高等教育シリーズ 大学院教育の国際比較』玉川大学出版部,2002.

参考文献: 大﨑仁『大学改革 1945~1999―新制大学一元化から「21世紀の大学像」へ』有斐閣選書,1999.

[アメリカ合衆国]◎カーネギー教育振興財団:http://carnegieclassifications. iu. edu/methodology/basic. php

参考文献: ヨーロッパ研究大学連盟(共同発表について):http://www. leru. org/files/news/Hefei_statement. pdf

参考文献: Go8:https://go8. edu. au

参考文献: 中国教育センター(C9について):http://www. chinaeducenter. com/en/

参考文献: 中国科学院:http://english. cas. cn

[日本]◎1984.

参考文献: 文部科学省(大学の分類に関して):http://www. mext. go. jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/031/siryo/attach/1293333. htm

参考文献: RU11:http://www. ru11. jp/

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