研究倫理(読み)けんきゅうりんり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「研究倫理」の意味・わかりやすい解説

研究倫理
けんきゅうりんり

科学者が研究を進めるうえで必要とされる規範。科学者の果たすべき責務は、信頼される新たな知の創出であり、それは適正な目的をたて、適切な手段を用いて生み出されるものでなくてはならない。従来、研究によって生み出される知見の正確さや正当性は、自らのうちに習慣的に培われた規範と、研究者による相互評価にゆだねられてきた。しかし、近年は助成金や地位の獲得競争が激しさを増し、実験データの捏造(ねつぞう)や別の研究者の論文を無断使用するなどの行為が頻発しており、不正を防止するための対策が求められている。

 研究倫理に反する行為の典型として以下の三点があり、それらの頭文字をとってFFPとよばれている。(1)捏造fabrication 存在しないデータや研究結果などをつくること。(2)改竄(かいざん)falsification 研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データや研究活動によって得られた結果などを真正でないものに加工すること。(3)盗用plagiarism 他の研究者のアイデア、分析や解析方法、データ、研究結果、論文または用語を、当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すること。また、これら以外に、同じ研究成果の重複発表、論文著作者が適正に公表されないケースも不正行為と考えられる。

 不正行為が行われた場合、告発窓口への通報や申し立ての後、所属研究機関に調査委員会などが設置され、告発内容が調査される。こうした調査でFFPに該当すると認定された場合は、研究開発の中止、研究費の返還、研究課題の申請や研究への参加資格の制限といった措置がとられる。科学技術振興機構の場合、不正行為や関与の程度に応じて、1~10年にわたる申請資格や参加資格の制限期間が設定されている。

 医療や科学分野を中心に研究不正問題が相次いでいることから、日本学術会議日本学術振興会は倫理教育に関する教科書を作成し、2014年(平成26)に全国の大学や研究機関に配布して利用を促している。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

大学事典 「研究倫理」の解説

研究倫理
けんきゅうりんり

学術研究に携わる人々の集団がもつ,研究遂行上の規範の体系。研究コミュニティ内部の規範体系をリサーチ・エシックス(研究倫理),社会的負託に応じる専門家集団としての規範体系をリサーチ・インテグリティ(研究公正)と呼ぶ区別が提唱されているが,使用実態は混然としている。避けるべき行為は「研究不正」と呼ばれ,狭義にはFFPと略称される「捏造:Fabrication,改ざん:Falsification,盗用/剽窃:Plagiarism」を指し,広義には非倫理的行為や不法行為,「疑わしい研究行為」をも含む。白黒つけがたい「グレーゾーン」の存在や研究分野による慣行の違いが知られている。1980年代からの議論を経て2000年に制定された米国連邦規律が諸外国で参照されている。日本では複数の研究不正事件を受けて2000年代半ばに議論が活発になり,学協会が作成する倫理綱領や投稿規程,大学における行動指針や研究不正対応規程の整備が進んだ。2014年には大学等における研究倫理教育が義務化された。なお研究倫理よりも広い概念として「アカデミック・インテグリティ」がある。
著者: 齋藤芳子

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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