石山寺縁起(読み)いしやまでらえんぎ

精選版 日本国語大辞典 「石山寺縁起」の意味・読み・例文・類語

いしやまでらえんぎ【石山寺縁起】

石山寺建立の由来、本尊観世音菩薩霊験を描いた絵巻物。七巻。一~三巻高階隆兼(たかしなたかかね)、四巻土佐光信、五巻粟田口隆光、六~七巻谷文晁(ぶんちょう)筆、詞書(ことばがき)は石山寺の杲守僧正、三条西実隆(さねたか)、冷泉為重(れいぜいためしげ)飛鳥井雅章(あすかいまさあき)などと伝える。原本は鎌倉末期に隆兼が作ったといわれるが散佚し、後世補修したため巻により筆者が異なる。

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デジタル大辞泉 「石山寺縁起」の意味・読み・例文・類語

いしやまでらえんぎ【石山寺縁起】

鎌倉後期から江戸中期にかけて作られた全7巻33段の絵巻物。石山寺創建の縁起と、本尊の観音菩薩霊験譚れいげんたんを描く。本文成立正中年間(1324~1326)であるが、絵の制作年次は、第1~3巻は高階隆兼たかしなたかかねの画風に似て最も古く、第5巻もほぼ同時期、第4巻は明応6年(1497)土佐光信筆、第6、7巻は江戸時代谷文晁たにぶんちょう筆。重要文化財

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改訂新版 世界大百科事典 「石山寺縁起」の意味・わかりやすい解説

石山寺縁起 (いしやまでらえんぎ)

石山寺の草創と本尊観音菩薩の数々の霊験を物語る7巻の絵巻。石山寺蔵。観音の三十三応化身にちなみ,全33段に構成されている。開基良弁(ろうべん)僧正による石山寺の建立,宇多上皇をはじめ藤原道長などの貴顕の参詣祈願,病気平癒などの法験譚から,大納言道綱の母が本尊に祈って夢想する話,紫式部が参籠して湖上の月を眺め《源氏物語》の構想を得る話などまで含み,ことに文学関係の霊験譚を5話収録するのは本絵巻の特色のひとつといえよう。第1巻の序文によれば,制作されたのは正中年間(1324-26)のようにとれるが,これは絵巻が企画され,縁起文が作られた時期と考えられ,全巻の完成には多くの歳月を要している。第1~3巻は高階隆兼(たかしなたかかね)筆の《春日権現験記》に近似する画風で最も古く,鎌倉時代後期の作,第4巻は1497年(明応6),詞を三条西実隆が書き,絵を土佐光信が描く,室町時代の作。第5巻は第1~3巻に似てほぼ同時期と思われるが画風は異なり,第6・7巻は飛鳥井雅章(1611-79)の詞書だけで,絵はなかったが,江戸時代,1805年(文化2)松平定信の命で谷文晁が絵を補ったもの。このように鎌倉・室町・江戸の代表的画家の作風を一望できることは絵画史的にも貴重であるが,やはり第1~3巻が穏やかな筆致と豊麗な彩色がよく調和し,最もすぐれている。重要文化財
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「石山寺縁起」の意味・わかりやすい解説

石山寺縁起
いしやまでらえんぎ

近江(おうみ)国石山寺の草創から、寺の沿革に関する各種の霊験譚(れいげんたん)を説いた絵巻。7巻。良弁(ろうべん)僧正が如意輪(にょいりん)観音を本尊として石山寺を創立する段に始まり、後醍醐(ごだいご)天皇が即位のとき石山寺に荘園(しょうえん)を寄進する段までが収められる。7巻の絵は一筆でなく、4類に分けられ、筆者と制作時期を異にする。第1~3巻は正中(しょうちゅう)年間(1324~1326)に高階隆兼(たかしなたかかね)、第4巻は1497年(明応6)に土佐光信(みつのぶ)、第5巻は粟田口(あわたぐち)隆光(15世紀前半)との伝承をもつが、いずれも確かでない。第6、7巻は江戸時代1805年(文化2)松平定信(さだのぶ)の命によって谷文晁(ぶんちょう)が新写したもの。制作の時期が鎌倉、室町、江戸時代にわたっているが、これは、第4巻以下がなにかの事情で失われたため、後世に順次補作されたものと思われる。このうち原初の第1~3巻は美しい温雅な画面を展開させて、鎌倉後期の大和絵(やまとえ)の典型を示すものである。滋賀県石山寺蔵。

[村重 寧]

『『日本絵巻大成 18 石山寺縁起』(1978・中央公論社)』『『新修日本絵巻物全集 22 石山寺縁起』(1979・角川書店)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「石山寺縁起」の解説

石山寺縁起
いしやまでらえんぎ

観音霊場として知られる近江国石山寺の草創縁起と利生譚(りしょうたん)33段からなる絵巻物。7巻。正中年間(1324~26)に王道回復と仏家隆盛を祈って制作が始まったが,正中の変などの政情のため複雑な経緯をたどり,約500年後に7巻となる。第1・2・3・5巻は14世紀,詞書(ことばがき)・絵とも筆者に諸説ある。第4巻は1497年(明応6),詞書は三条西実隆(さねたか),絵は土佐光信。第6・7巻は1805年(文化2),詞書は飛鳥井(あすかい)雅章,絵は谷文晁(ぶんちょう),松平定信が後援。縦33.7cm,横1361~1927cm。石山寺蔵。重文。詞書のみの杲守(こうしゅ)筆「石山寺絵詞」(京都国立博物館蔵)と,1655年(明暦元)頃旧本を模写した新縁起5巻(石山寺蔵)も残る。

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世界大百科事典(旧版)内の石山寺縁起の言及

【石山寺】より

…当寺の観音信仰は,中世以降もますます盛んとなり,西国三十三所観音霊場の巡礼の風習がおこると,当寺は第13番札所となって,今日まで庶民の巡礼で賑わうこととなった。鎌倉期から江戸期にかけて書きつがれた7巻本の当寺伝蔵の《石山寺縁起》(重文)は,観音霊験を喧伝すべく制作されたものであって,このなかでは当寺の開創について,東大寺大仏の造立にあたって聖武天皇から金山の探索を命じられた良弁が,当地に観音像を安置して祈念したところ,陸奥で黄金が発見されてめでたく大仏造立が完成したとの観音霊験の伝承を伝えている。創建当初の建物は1078年(承暦2)の火災で全焼したが,そののち復興され,現存の堂宇は鎌倉期以降に改築されたものが多い。…

※「石山寺縁起」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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